日産自動車は2018年5月に「ジューク」を一部、仕様向上して発売した(写真:日産自動車ニュースルーム)

日産自動車のコンパクトスポーツクロスオーバー車「ジューク」。発売から8年余りが経ったいまでも、根強い人気を保っている。

ジュークは2010年6月にコンパクトスポーツカーとSUVを結合し、まったく新しく分類されるクルマと位置付けられて登場した。当時、その姿は非常に強い衝撃を持っていたことを今でも鮮明に覚えている。1999年に、日産とルノーの提携によって最高執行責任者(COO)に就任したカルロス・ゴーンのリバイバルプランによって、V字回復を果たした日産の、その後の勢いをそのまま表したような斬新な新車の誕生であった。

印象的だった外観デザイン

なんといってもわれわれを驚かせたのは、その外観デザインである。異形ヘッドランプが主流の時代に、丸型ヘッドランプを配し、ボンネットフード上に細長く鋭い形のコンビネーションランプを載せることで、何か新しい生き物に出会ったような忘れられない印象を残す顔つきが、ジュークを、他に類を見ない存在としていた。そうした造形を、日産は、下半身が逞しいSUVで、上半身はスポーツカーと説明し、想定顧客像はズバリ30代の独身男性とした。

クルマに乗り込むと、センターコンソールの造形がオートバイの燃料タンクのような印象を与え、そこにATシフトレバーが突き刺さったように見える。ダッシュボード中央の操作部分は、ゲーム機器のリモートコントロールのようだ。今日、あたかもスマートフォンを操作するような大きな画面により、コネクティビティやナビゲーション機能を重視する内装がはやり出したように、約10年前の世相や流行を内装に持ち込んだ、先駆的造形の施されたクルマだった。

目新しいクルマの登場に消費者もたちまち反応し、発売から10日で5000台を超える受注を獲得し、2週間で7000台以上へその数を伸ばした。その結果、街中にはたちまちジュークがあふれた。

発売から8年余りを経て、現在の販売台数は月々300台前後という推移になり、さすがに自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位のベスト50に入らないほど減っているが、逆に言えば、少ないとは言いながらまだ安定した販売台数が続いているともいえる。つまりジューク以外の選択肢がないからだろう。

そうした中、市場はいまコンパクトSUVへの人気が高まっている。ジュークより寸法がやや大きくなるが、ホンダ・ヴェゼルもコンパクトSUVに分類される1台だ。その人気ぶりを見て、トヨタからC-HRが誕生した。海外からは、ボルボXC40が現れ、BMW・X2も発売されている。

C-HRとヴェゼルは、2018年の年間販売台数で日本自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位で12位と14位に位置し、高い人気を保っている。XC40は、世界的な人気によって日本に輸入できる台数に制約があることもあるが、現在なお注文から納車まで9カ月近い待ち時間を要するほどだ。

これらコンパクトSUVのうち、ヴェゼルは比較的普遍的な外観ではあるが、それでも車体後半をクーペのような造形として、見栄えのよさを重視している。C-HRに至っては、まずその顔つきが独創的であるばかりか、後方視界をやや犠牲にしながらも車体後半のクーペのような造形にこだわっている。

小さくても刺激的なSUV

XC40は、より大柄なXC60やXC90と比べ明らかに表情の異なる造形とすることにより、車格の上下ではなく暮らしの嗜好にあった最適な1台としての価値を訴える。室内の使い勝手においては、あたかも日本の軽自動車のように物入れが豊富で、また、四畳半のこたつに入ったままあらゆる物に手が届くといった使い勝手が施されている。

X2は、やや武骨な造形をあえて外観に与え、駆けぬける歓びをブランドメッセージとするBMWらしからぬ姿とする一方、クルマに乗り込むとBMWならではの運転者中心のつくりで運転に集中させる共通性を覚えさせられる。

各車、それぞれ独創的な個性を表現しながら、小さくても刺激的なSUVという共通した価値を商品力にしている。この手法もやはり、ジュークが切り拓いた商品性といえるのではないだろうか。

過去、小柄なクルマは実用性重視で、経済的であることが価値として歓迎された。一方で、豊かさやゆとりはクルマの寸法を大きくしていくことにより実現されてきた。だが今、社会は一変している。

世界人口は今や75億人に達し、19世紀末からの100年余りで4.7倍も増加した。その結果、都市は肥大化し、人口密度が高まり、交通渋滞が世界共通の課題となり、大気汚染が押し寄せている。大きいことをゆとりと捉えられない時代になってきている。それでも人は暮らしに充足を求める。そこで、小さくても心を満たしてくれるものを求めているのである。

世界的に食料や清潔な水を手に入れられない人が8億人前後いて、地域紛争が絶えることはないが、比較的安定した生活を続けられるクルマ社会に生きる人たちが、身近に心を癒やせる車種としてコンパクトSUVを求め、それらから実用性のみを満たす凡庸さを超えた刺激を同時に得られることを望んでいる。

新たなる価値の創造を期待

ジュークの後に登場したヴェゼルは、C-HRに抜かれたとはいえ長いモデル寿命を維持している。そしてジュークも数は減らしながら残されている。なおかつジュークは、後発の各コンパクトSUVと比べてもなお、強い存在感を放つ。

ここに至り、次なるジュークの登場も期待したいところではないだろうか。異彩を放つ内外装の造形はもちろんのこと、それぞれのコンパクトSUVが個別の装備や魅力を身に着けているように、次なるジュークもまた新たなる価値の創造を期待せずにはいられない。中でも、日産独創のモーター駆動によるさまざまな運転機能は、今日のジューク所有者も気になる装備ではないだろうか。

電動化で世界を牽引し、またモーター走行であるからこそほかではまねできない運転感覚や、プロパイロットなど自動化へ向けた各種運転支援機能を含めながら、コネクティビティという次なる価値をどう採り入れてくるかも楽しみだ。

メルセデス・ベンツAクラスが装備する「ハイ、メルセデス」ではないけれど、「やぁ、ジューク」と言ってクルマと会話しながら快適な友としての付き合いがはじまり、電動のコンパクトSUVで暮らしに彩を出せたら楽しいだろう。