赤字決算に揺れる千代田化工建設の本社(記者撮影)

「千代田の一刻も早い再生に向けて取り組むことが私の責任だ」

11月9日に決算発表に臨んだ千代田化工建設の山東理二社長は、赤字の責任を問われ、こう反論した。

大手プラントエンジニアリング会社の2018年度上期の決算が出そろった。業界首位の日揮は上期減益だが、通期業績見通しは2.3%の営業増益。前期営業赤字の東洋エンジニアリングも黒字回復を見込んでいる。

しかし、エンジ大手3社の中で唯一、営業赤字に転落する見込みとなったのが千代田化工だ。米国でのLNG事業で多額の追加費用が発生。決算短信には「継続企業の前提に重要な疑義がある」と注記がついた。

米LNG事業が収益を下押し

千代田化工は10月31日に業績見通しの修正を発表。営業利益は当初計画比980億円減、865億円の赤字と予想している。下方修正の原因は千代田化工が米国ルイジアナ州でプラント大手のマクダーモットと進めている「キャメロンLNGプロジェクト」だ。同プロジェクトで生じる約850億円の追加コストを計上した。


このプロジェクトは年間1350万トンものLNGを生産する巨大プロジェクト。日本の年間LNG輸入量(約8300万トン、2017年)の約2割を占める。同プロジェクトには三菱商事や三井物産など日系企業も出資している。

キャメロンプロジェクトがつまずくきっかけとなったのは、2017年夏に米国を襲ったハリケーンだ。2017年12月に顧客と契約条件の変更で合意し、2018年生産開始の予定を1年繰り下げた。2019年中にフル稼動する計画だが、工事完成までに必要な労働時間と労働単価を見直した結果、大幅なコスト増が必要なことが明らかとなった。工事を担える熟練技能工の賃金が高騰しているのだ。

問題は、賃金高騰が単なる作業員不足ではないことだ。優秀な熟練技能工の数は「元々限られている上、本格化しているハリケーンの復興工事に人をとられている」(山東社長)。アメリカのトランプ政権の移民政策の影響も相応にあり、熟練工がビザの期限切れで帰国しているケースもあるという。ある業界関係者は「メキシコ湾岸では近年のシェールオイル工事で熟練工の取り合いが起きている」と指摘する。


「一刻も早い再生に取り組む」と話す千代田化工の山東理二社長(記者撮影)

他プロジェクトも保守的に見直したことで「これ以上の損益悪化要因はない」(山東社長)とする。しかし、2019年3月期は1050億円の最終赤字に転落する見通しだ。2018年3月末に37.5%あった連結自己資本比率も2018年9月末に12.7%にまで落ち込んだ。

エンジニアリング工事の入札参加要件として30%の自己資本比率を求められる。具体的な増資の引受先について、山東社長は「筆頭株主である三菱商事や取引先銀行とコミュニケーションを続けている」と述べるにとどまった。

東洋エンジは営業黒字に転換

一方、同じく北米案件に苦しめられたのが東洋エンジニアリングだ。2016年から建設を始めた日系化学メーカーのエチレン工場でトラブルが発生。工事初期から地盤の問題で計画通りに杭打ちが進まず、2017年に襲ったハリケーンで工事が遅延することとなった。

東洋エンジニアリングは2018年4月から施工態勢を一新。それまでマグダーモットが担当していた工事に、新たに2社を参加させることで要員を確保。さらに東洋エンジニアリングから派遣する現場管理員を増強して進捗管理を徹底した。かかった追加コストは約585億円にのぼるが、配電や電気工事のピークを乗り切り、「ようやくプロジェクトの完了を見通せる段階になってきた」(芳澤雅之専務)。業績も3期ぶりの営業黒字に回復する見通しだ。

数年前の原油安から脱し、エンジニアリング業界の受注環境は改善基調にある。特に日揮や千代田化工の得意とするLNGプラントは金額も大きい。千代田化工の山東社長も「足下の受注環境は悪くない」と強調する。だが、まず千代田化工が取り組むべきは目の前の案件を確実に処理し、会社の財務基盤を立て直す道筋を描くこと。今問われているのは経営陣のマネジメント能力だ。