「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「苔」。雨上がりの初夏に、小さな水の玉をのせて青々と茂る苔。苔は、つかの間の涼を運ぶ植物です。



「苔」という字は植物を意味する草かんむりに「台」という字を書きます。

「台」の旧字体(臺)を見ると、「高」という字の省略形と、「至」という字の組み合わせでできていることがわかります。

いにしえの人々は重要な建物を建てる際、神聖な矢を射て落ちた場所を選びました。

そのようにして建てられた高い建物を意味するのが「台(臺)」という字で、「ものを置く台」という意味でも用いるといいます。

苔の葉の隙間をのぞいてみると、そこはまるで森の中。

クマムシ、ワムシ、肉眼では見えない原生生物などが暮らしています。

そこから「苔」という漢字は、水と光に満ちた神聖な場所に生え、小さな命が住むやわらかな台のような植物を意味したと考えられるのです。

地球の誕生は、今からおよそ四十六億年前のこと。

陸上植物の祖先は四億五千万年ほど前に海から陸へ上がったといわれています。

共通の祖先は進化を遂げながら枝分かれし、それぞれが生き伸びるため、自分たちの陣地を必死で増やしてきました。

そんな中、苔の仲間たちは他の植物と争うことをやめ、原始的なつくりのまま、独自の知恵で生き延びる道を選んできたといいます。

苔には、水や栄養分を吸収する生命線ともいえる根っこがありません。

彼らがもつ根は、自分たちの居場所にからだを固定するためのもの。

日光、水、空気中に存在する微量の栄養分は、からだの表面全体で吸収します。

そのため、他の植物が見向きもしない石の上や木の表面をすみかにし、仲間同士が寄り添って広い面積で水を受け止め、乾燥から身を守ってきました。

水分がなくなれば生命活動を一時的に止めて、休眠状態へ。

雨や太陽が降り注ぐのを待ち、再び息を吹き返す不死身の力も持ち合わせています。

ではここで、もう一度「苔」という字を感じてみてください。

無用な争いを賢く避け、地面に固定されることのない自由を愛し、シンプルな方法で自立して生きる。

見返りを求めることなく、そのからだを他の生き物に貸す余裕も忘れない。

苔は、同じ地球で暮らす生物としての大先輩。

おおらかでたくましいその生き方は尊敬に値します。

しかも、よくよく見れば、みずみずしくふっくらと茂る姿も美しい。

透き通る穂先に光を集め、黄緑色の風をおこす苔。

木の幹をやさしく覆う、ビロードのような苔。

洞穴をのぞきこめば、蛍光緑の輝きを放つ苔。

これからの季節、私たちの目を楽しませてもくれるのです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『コケはともだち』(藤井久子/著 秋山弘之/監修 リトルモア)

7月21日(土)の放送では「謡」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。



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聴取期限 2018年7月22日(日) AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:感じて、漢字の世界

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/