おかやま山陽(岡山)「『大義』を胸に、甲子園初勝利を目指す」【後編】

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 1月26日。中国大会優勝校として今春のセンバツ出場校に選出されたおかやま山陽。春夏通じて初出場となった昨夏に続く、二季連続出場を掴み取った。春は初めてとなる聖地で甲子園初勝利の期待がかかる。岡山大会3位から頂点へと駆け上がった中国大会、中国王者として経験した初の明治神宮大会。率いる堤尚彦監督の証言を基に、新チーム結成からセンバツ出場決定までの軌跡を紐解いていく。

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常に「先」を見続けたことで掴んだ中国王座真上からの集合写真(おかやま山陽)

 決勝まで勝ち進むことができれば、センバツ出場がほぼ確定となる中国大会。そのなかで堤監督が意識したのは一戦必勝の姿勢を貫きながらも、目標を一歩「先」に置くことだった。「ボクサーがパンチを打つときに『ここに打とう』という意識で打つよりも、『狙った場所を打ち抜く、貫く』というイメージを持って繰り出したパンチの方がはるかに威力がある。それと同じで、『センバツに行く』という目標だけだと、そこに辿り着けない可能性が高い。目標をその一歩先に置く必要があると思いました」

 中国大会が開幕する前に決定した明治神宮大会の組み合わせが目標をより明確なものとしてくれた。初戦突破を果たせば、東北大会を制していた聖光学院との対戦が実現する組み合わせとなったのだ。「神宮大会で一つ勝てば、夏の甲子園で敗れた聖光学院と再戦できる。これで選手達の目標がはっきりとしたものになりました。苦しい場面を迎えたとき、『聖光学院とやるまで負けられない』と踏ん張る原動力になりました」 中国大会では全試合二桁安打、準決勝までの3試合合計で21得点と打線が機能し、決勝まで勝ち上がる。決勝は同じく夏の甲子園に出場し、二季連続の出場を狙う下関国際との顔合わせとなった。

 その決勝では打者一巡の猛攻を二度浴びるなど、一時は最大9点差をつけられる苦しい展開に。気持ちが切れてもおかしくない試合展開となったが、後半3イニングで計9点を奪う怒涛の反撃を見せ、試合は延長へ。最後は守備の関係で途中出場の宮本 大輝がサヨナラ打を放ち、岡山大会3位決定戦を彷彿とさせる劇的な試合運びで中国王者へと駆け上がった。この試合について堤監督は「マンガみたいな展開」と苦笑するものの、決勝進出、センバツ当確の時点で満足することなく、先の目標を見つめ続けたことが逆転優勝を呼び込むことに繋がった。

サヨナラで中国大会優勝を決めたおかやま山陽

 この決勝戦のなかでもう一つ印象的なシーンがあった。5点差を追う9回の攻撃前の円陣で部長から「決勝じゃなければ、コールドで終わっている試合。けれどもまだ攻撃するチャンスがある。トイレに貼ってある『あの試合』を思い出そう!」というゲキが飛んだ場面だ。ここでの「あの試合」は2014年夏の石川大会決勝・星稜−小松大谷戦を指す。星稜が9回に8点差を引っくり返し、高校野球史に残る逆転劇と呼ばれている一戦だ。その場面を思い出し、今回グラウンドのトイレを確認すると、新聞の切り抜きとともにある一文が添えられていた。「油断するな!こんな事もある! 諦めるな!こんな事もある!」技術力はもちろん、こうした意識の面での積み重ねが活きた逆転勝利だった。

神宮大会で得た課題インターバル走で鍛える日々(おかやま山陽)

 中国大会を制し、初出場となった明治神宮大会は最終的に準優勝を果たす創成館の前に5対1で初戦敗退。目標としていた聖光学院との再戦は叶わなかったが、相手チームの左腕エース、サイドスロー右腕と左右の好投手と秋の時点で対戦することで浮かび上がった課題に向き合っている。

 打撃ではタイプの異なる投手に対して早い段階で対応できるように距離、スピードの異なるボールを打ち込み、タイミングの取り方を磨いている。この日はマシンを使ったリーグ戦形式の打撃練習をメインに、約13mと通常よりも短めの距離から打撃投手が投げる速球対策のケージ打撃、投げ手が専用のネットに入った状態で緩めの球を投げる「箱打ち」で精力的にバットを振り続けていた。この箱打ちでは最初にスキー用の手袋をはめてスイングをし、適切な力加減でのグリップの取得、スライドボードの上でのスイングも織り交ぜ、より軸を意識した上で打ち込むなど、「必要な動作を身体に染み込ませる」狙いも随所に盛り込まれており、より高いレベルでのスイングを日々追い求めている。

 基礎体力の向上にも余念がない。インターバル走、タイヤを使った名物練習「キング」などの基礎トレーニングで身体を徹底的に追い込んでいる。更にこの日は先述の4チームに分かれて行ったリーグ戦形式のシート打撃の戦績に応じてトレーニングのメニュー、本数が変動。選手間の競争意識、モチベーションアップにも繋がる工夫が凝らされていた。

 練習試合解禁前ということもあり、現段階でのチームの仕上がりは「投手が50%、野手が20%ぐらい」(堤監督)とのことだが、実戦開始とともに投打両面の充実度が着実に増していきそうだ。堤監督が「カギとなる選手」と語る3番・森下 浩弥、4番井元 将也の2人は「(接触プレーの影響で)夏は途中交代もあって、チームは初戦敗退。センバツではあの悔しい思いはしたくない、活躍したいという気持ちを強くもって、練習にも高い意識で臨めています」(森下)、「センバツでは打撃で結果を残したい。中軸の責任を果たして甲子園初勝利に貢献したいです」(井元)とそれぞれ決意を新たにする。

「大義」を忘れることなく、甲子園初勝利を目指す。

 夏の甲子園に出場したことでおかやま山陽が取り組んでいる中古野球道具発送の活動が広く知られるようになった。学校に箱詰めされた道具が届けられたり、練習試合の対戦校から「これもぜひ使ってください!」と手渡されるなど、確実に支援の輪は広がりを見せている。更には堤監督の青年海外協力隊時代の話を聞くために、グラウンドへと足を運ぶ人々も表れており、そのなかには岡山県内にあるライバル校の野球部OBの姿もあった。 13年間の監督生活のなかで蒔いた種は確実に芽吹きつつあり、手応えも感じる一方、「もっと広く知ってもらわないといけない」と先を見据えている。「野球を世界に広めるため」。この大義を決して見失うことなく、胸に刻み込み、堤監督とおかやま山陽ナインが聖地に帰ってくる。甲子園初勝利を果たし、世界へと響き渡る凱歌をあげる準備は整いつつある。

(取材・文=井上幸太)