ソウル市内で記者会見し、韓国への大型投資の継続を公表した日覚社長(左)と李会長

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 東レが韓国への投資を加速している。1960年代から約4兆ウォン(約4000億円)の投資を積み上げてきたが、新たに1000億円を投じる構想だ。これによりグローバル戦略における同国の位置付けは高まる一方。半導体や車載電池など成長分野ではサムスン電子、LGグループなどが主導権を握っており、韓国は高機能素材に力を入れる東レに欠かせない市場だ。日本国内の市場が成熟化する中で、東レが海外で稼ぐ姿勢を鮮明に示している。

 東レと韓国の関係は1963年、韓国企業へのナイロン製造技術の供与までさかのぼる。99年にセハンと合弁で東レセハンを設立し、08年に同社を完全子会社化。10年に東レ・アドバンスト・マテリアルズ・コリアに改称した。

 日本貿易振興機構によると日本の対韓直接投資は08年のリーマン・ショックで縮小した後、12―14年は30億ドル台が続いたが、関係悪化などで15年、16年は低迷。ここにきて北朝鮮の核実験やミサイル開発でカントリーリスクは高まっている。歴史認識の相違から日本企業への訴訟も多い。

 その中でも東レが韓国へ強気の投資を続けるのは、米インテルを抜き半導体トップに立ったサムスン電子、世界的な電気自動車(EV)シフトで注目される電池に強いLGグループなど、同社の中核製品の需要家が韓国に集中しているからだ。

 東レ幹部は「韓国は国内にしっかりとした素材需要がある。インフラも整っており、我々の素材の生産地としてかなり優れたポジションにある」と話す。

 サムスン電子やLGグループは中国企業に猛烈に追い上げられており、競争力の高い製品開発のための先端素材調達に躍起だ。巨大企業を取り巻く中堅メーカーも先端素材の採用に積極的。日本市場が成熟化する中で、韓国はハイエンド市場に機能素材を売り込みたい東レに欠かせない。

 同社は量産機能を海外の需要地に移し、コストを下げる戦略を採っており、労務費は上昇傾向とはいえ、インフラコストが低いのも韓国のメリットだ。

 東レは17年から3年間で5000億円の設備投資を計画し、うち3000億円が既存設備の維持などを除く新規投資だ。韓国に新たに投じる1000億円の大半は、リチウムイオン二次電池(LIB)用のセパレーター(絶縁材)や不織布、機能性樹脂などを対象にした設備増強の新規投資で、単純比較はできないがグループ全体の30%以上に当たる。北中米や欧州、中国、東南アジアなど世界の拠点の中でも、韓国が投資戦略上の重要度を高めている。

電池セパレーターでデファクト狙う
 1000億円に上る韓国投資のうち、最大額を割くのは、LIB用のセパレーター。まず、韓国中部の亀尾市のセパレーター基材工場に200億円、忠清北道に持つセパレーター基材に機能性の樹脂を塗る専用工場に150億円を投じる。両工場の生産能力は非公開だが、セパレーター基材の生産能力は50%、樹脂塗工は5倍引き上げる大規模な増産だ。

 LIB市場は世界的なEVシフトで急成長が続いており、基幹部材のセパレーター需要も伸びる。他社も増産を打ち出し、競争が厳しくなる中、東レは投資の意思決定を早める。

 この背景には成膜技術を生かした高機能化と生産拡大を進めて競合に先行し、セパレーター製品のデファクト・スタンダード(事実上の標準)を得たいとの思惑がある。生産拡大を進めるための重要拠点が、量産を担う韓国工場というわけだ。

 スーパーエンジニアリングプラスチックのポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂も新たな投資対象に挙がる。PPS樹脂は耐熱性に優れるほか、強度が高く、自動車用途を中心に市場拡大が続く。他国を圧倒する巨大需要を生み出す中国をにらみ、韓国工場を増強してアジア地域の供給基地に育成する。