11月9日の時点で5勝7敗――。過去3年連続でNBAファイナルに進んだクリーブランド・キャバリアーズの序盤戦を見て、驚いたスポーツファンは多いのではないだろうか。”世界最高のバスケットボールプレーヤー”の名を欲しいままにするレブロン・ジェームズを擁しながら、キャブスはスタートダッシュに失敗した。


15日のホーネッツ戦に勝利し、8勝7敗としたキャブスだが......

 開幕2連勝のあと、オーランド・マジック、ブルックリン・ネッツ、ニューヨーク・ニックス、インディアナ・ペイサーズ、アトランタ・ホークスといった、今季の低迷が予想されていたチームに次々と敗北。ずるずると大量失点を許す姿に、イースタン・カンファレンスの優勝候補筆頭と目された強豪の面影はなかった。

「(下位チームへの苦戦は今季を含めて)過去4年続けて起こっていることだよ」

 ティロン・ルーHC(ヘッドコーチ)がそう述べる通り、強豪チームが序盤戦に出遅れるのはよくあることで、大げさに騒ぎ立てるべきではないのかもしれない。

 キャブスは2014〜15年にも開幕から5勝7敗と出遅れながら、それでも最終的にはファイナル進出を果たした。今季は8人もの新メンバーが加入したのだから、チーム作りに多少時間がかかるのは仕方ない。

 何より、頼みのレブロンは平均28.3得点、7.3リバウンド、8.7アシストと優れた成績を残している。いずれチーム全体が気持ちを引き締め、上位に浮上しはじめると考えている関係者は依然として少なくない。

 現地時間13日にニューヨークで行なわれたニックス戦では、キャブズはスイッチを”ON”にしたときの迫力を久々に披露した。上り調子のニックスに、前半で13点、第3クォーター途中で23点をリードされながら、最終クォーターに逆襲。結局は、敵地で104-101 の大逆転勝利を手にし、その底力を見せつけた。

「(点差をつけられても)まだ後半があることはわかっていたし、チームの勝利を助けられることはわかっていたよ」

 試合後のレブロンのコメントには、勝ち方を知る32歳の貫禄が感じられた。キャブスは続いて15日のシャーロット・ホーネッツ戦にも勝ち、今季初の3連勝。これで今季成績も8勝7敗と勝ち越しに戻し、不安視する声を”一応は”吹き飛ばしている。

 ただ……レブロンを疑うべきではないと理解しつつ、それでもここまでのプロセスを見ると、キャブスの今後は必ずしも楽観できないようにも思える。100ポゼッションあたりの平均失点で換算される「ディフェンシブ・エフィシエンシー」で、キャブスはリーグ最下位。気になるのは、今季の守備難はロースターの老化、コンディション不良からもたらされているように見えることだ。

 昨季までレブロンと両輪を形成していたカイリー・アービングが去り、代わりに昨季平均28.9得点のアイザイア・トーマスが加入した。しかし、トーマスは股関節のケガで少なくとも12月半ばまでは出場できず、さらにデリック・ローズ、トリスタン・トンプソンといった主力も故障離脱中。ドウェイン・ウェイド、ジェイ・クラウダーといった新加入選手たちもまだ新天地で力を発揮できていない。

 ウェイド(35歳)、ローズ(29歳)、カイル・コーバー(36歳)、チャニング・フライ(34歳)、JR・スミス(32歳)、ジェフ・グリーン(31歳)、ホゼ・カルデロン(36歳)といったキャブスのメンバーの多くは、すでに全盛期を過ぎた選手たちだ。いつのまにか32歳になったレブロンこそ、依然として最高級の力を保っているが、高齢化したチーム全体にどれだけ伸びしろがあるかは疑わしい。ディフェンス面で相手にプレッシャーをかけられないのは、緊張感の欠如だけでなく、ステップインのスピードを失ったからにも思えてしまうのである。

「まとまりがないし、全体的に動きがスロー。それでもレブロンが元気な限りはイーストの優勝候補筆頭だが、キャブスはもはや絶対的な存在ではない。そして、今の戦力で昨季王者のゴールデンステイト・ウォリアーズに勝てるとは、とても思えない」

 13日にマディソン・スクウェア・ガーデンで話を聞いた、あるイースタン・カンファレンスチームのスカウティング担当者はそう述べていた。筆者も、開幕当初は「キャブスは帳尻を合わせてくるはず」と思っていたが、ここ数戦を見ていて、少しそ確信が揺らいだ部分はある。

 今のキャブスは、レブロンが孤軍奮闘してもなかなかファイナル進出が果たせなかった2010年までのチームを彷彿とさせる。今後、けが人の帰還とともに向上はするはずだが、それでもいくつかの重要な疑問が頭に浮かぶ。

 復帰後のトーマスが、本来の体調を取り戻せなかったら? 守備の要になるはずだったクラウダーが、後半戦でもその役割を果たせなかったら? チームの不調ゆえに、今季はリーグ最長の平均38.1分をプレーしているレブロンが、シーズン後半に疲れを見せたら?

これらの要素がキャブスにとってネガティブに働いた場合、イースタンの覇権争いは混沌としていくかもしれない。

 時を同じくして、アービングが加入したボストン・セルティックスは現在13連勝と怒涛の勢いで突っ走っている。完全復活に近づきつつある名門は、予想された通りにキャブスの最大のライバルとして浮上。レブロンとアービングの因縁もあるため、直接対決は盛り上がるだろう。

 現時点で先行きを読むのは難しいが、はっきりと言えるのは、2017-18シーズンのイースタン・カンファレンスが、近年になく興味深いものになるということ。チーム全体に勢いが感じられない今季のキャブスに、宿敵セルティックスを打ち破る底力が備わっているのか。選手個人として、7年連続でファイナルに進んできたレブロンは、再びチームを押し上げられるのか。それらの問いの最終的な答えが出る来年春まで、スリリングで劇的なシーズンが続いていきそうだ。

◆開幕前のキャブスは「アベンジャーズ並み」との前評判だった>>