4月からの介護報酬大幅減で事態はさらに深刻化する

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 名古屋市名東区大針の有料老人ホーム「ケアホームひまわり」に入所する女性に暴行を加えたとして、愛知県警守山署は3月30日深夜、同施設介護職員の男3人を暴行の疑いで逮捕した。

 逮捕された36歳男、26歳男、29歳男の3容疑者は発表によると、認知症の女性(93)に対して、口に指を入れたり、指で鼻をふさいだりする暴行を加えたという。容疑者のうちの一人にしつこく声をかけられたという女子高校生(17)から警察が相談を受けて、事情聴取の際にスマートフォンに暴行の様子を撮影した動画が保存されていたことから発覚したというから呆れる。

背景に業界の「慢性的人手不足」

「この事件を聞いても、なにも驚くことはありません。氷山の一角です。現在の介護職の質の低下と介護現場の荒廃は、手に負えない領域に達しています」

 そう語るのは『崩壊する介護現場』(ベスト新書)の著者である中村淳彦氏。介護職が高齢者を暴行して、なにも驚かないとはにわかに信じがたい話である。

「人材劣化の原因は、高い離職と極端な人手不足が長年継続していることです。特に東京、大阪、名古屋などの大都市圏の人材不足は深刻で、採用にあたって『未経験・無資格でOK』なのは当然。どんな問題がある人材でも、施設を何軒かまわれば必ず採用されます。数年前から介護事業所は常態的な人手不足で、志願者は全入職状態です。当然、現場は混乱し、虐待まがいの介護が横行して、高齢者に暴行をふるうなどという職員も現れる」(中村氏)

 厚生労働省のまとめによると、介護職の有効求人倍率は、全国平均で2倍を超えている。この倍率は仕事を求める人1人あたりにどれだけ求人募集があるかを示すものであり、倍率が高くなるほど「人手不足」ということだ。大都市圏である東京都は4.34倍、愛知県は3.96倍、大阪府は2.77倍と目を覆うような状態になっている。

 厚生労働省「第1回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会(平成26年10月27日)」の「介護人材の確保について」という調査報告によると、介護職員(施設等)の離職率は少し改善されているものの、平成21年度19.3%、平成22年度19.1%、平成23年度16.9%、平成24年度18.3%、平成25年度17.7%。全産業の平均離職率15.6%と比較すると、20%弱の数値は明らかに高い。3年で職員の半分以上、5年で全職員が辞める計算で、多くの施設が安定した運営、人材育成をできていないことがわかる。

被害を忘れる「認知症患者」がターゲットに

「介護職による虐待被害にあうのは、暴行をされても被害をすぐに忘れる認知症高齢者です。経済的貧困と関係性の貧困を抱える介護職たちは遊び半分、ストレス発散で、本人から告発されることのない認知症高齢者を暴行するわけです。そして、これからさらに虐待が増えると断言できる。4月1日から介護報酬の大幅な減額が開始されるからです。国は介護職には加算をつけると言っているが、事業所は人員配置を減らして利益を維持させます。人手不足の中で介護職たちの負担は激増する。介護現場は職員たちの不満が渦巻いて、ムチャクチャなことになるでしょう」(中村氏)

 介護はこれから本格化する超高齢化社会に必要な社会保障のはずだが、極端な人手不足で崩壊状態にある中で報酬減に進んでしまった。その内容はグループホームは5.8%減、特養老人ホームは6%減、小規模デイサービスは最大9.8%減という凄まじいもので、多くの介護事業所は人員を減らして、サービス低下で帳尻をあわせるしかない。

「これから介護施設を利用する高齢者は、危険な場所に身を置いているという覚悟が必要。介護施設が安全な場所だと思ってはいけません」(中村氏)

 介護事業所で“高齢者への虐待は日常茶飯事”という、おそろしい時代に突入したのだ。

(取材・文/永井孝彦)