言葉通り仲間たちの修繕に特化した頼もしい工作艦『明石』

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 人間、誰しも働けば疲れるように、軍艦だって戦えば疲弊する。

 戦場を駆け回るのに機関を酷使するし、被弾すれば大なり小なり傷つく。主砲を撃てば砲身が摩耗するので、交換する必要だって生じる。何しろ、(特に第二次世界大戦時の軍艦といえば)重油や石炭を燃やして発生させた蒸気でスクリューを回し、火薬の爆発力で重い砲弾を撃ち出していたのだから、船体や兵装にかかる負担は普通に航海する以上のもの。

 本来なら軍港へ戻り、ドック入り(入渠)してメンテナンスを受ける。けれど、遠く離れた任地で活動しなければいけない場合、いちいち母港まで戻るのでは時間のロス。

 そこで重宝されるのが、ちょっとした工事をこなせる専門の艦船──工作艦となる。実際に旧日本海軍の工作艦『明石』は、損傷した『最上』や『阿賀野』、果ては艦首切断という大損害を受けた駆逐艦『春雨』にトラック泊地で応急修理を施したと伝えられている。

「提督も、少し修理したほうがいいみたいですね」

『明石』は、軽巡洋艦と重巡洋艦の中間程度となる1万トン近い船体に、3基のクレーンを設置。船内は五層の工場に分かれ、当時最先端だったドイツ製の物を含め、工作機械を実に100台以上配置されていたという。作業効率も考え、工事用の資材をたっぷり蓄えられる貯蔵庫もあり、移動修理基地としては破格の性能をもっていたという。

 艦隊にとって縁の下の力持ちともいえる『明石』だが、その必要性が早くから認識されていたものの、軍縮条約や予算の都合で竣工は1939年(昭和14年)と遅かった。また、姉妹艦2隻の建造も計画されていたものの、戦局の悪化などにより中止されたという。

 このため、大戦中に前線で傷ついた艦船の応急修理は『明石』がほとんど一手に引き受ける格好となり、それだけに相手国からは最重要攻撃目標に指定されていた、という話もある。

「わっ、わたし、狙われてる!? こんな状態じゃ、満足に修理できない!」

 実は『明石』、『艦隊これくしょん -艦これ-』では古参の艦娘。サービス開始時から「アイテム屋さん」として登場し、プレイに役立つアイテムの売り子役を担っていた。

 それが2014年春のイベントから、ほかの艦娘を修復できる彼女だけの特殊スキルを携えて実装された。期間内に繰り返し出撃するイベントや任務などでは、ローテーションを組んでも艦娘を酷使せざるを得ないので、専用の工廠以外で回復力をもつ『明石』は、史実同様大きな助力となっている。

 学校に例えるなら、給糧艦『間宮』や『伊良湖』が給食を賄い、『明石』は怪我をしたとき、優しく(荒っぽく、かもしれないが)治療してくれる保健の先生、といったポジションだろうか。

 とはいえ、いくら二次元のデータとはいえ艦娘たちもキャラクター、あまり『明石』たちに頼って酷使するのはほどほどに。ブラック企業ならぬブラック鎮守府と呼ばれてしまうので。

(取材・文/秋月ひろ)