地方創生のカギは路面電車!? 北陸新幹線よりも注目されるワケ
2015年3月14日、東京と長野を結んできた長野新幹線が、石川県の金沢駅まで延伸開業する。これまで長野駅止まりだったこともあり、“長野新幹線”と呼ばれてきた北陸新幹線は、これで名実ともに北陸新幹線となる。
北陸新幹線の建設風景
これまで東京-金沢間の移動は羽田空港と小松空港とを結ぶ飛行機がメインだったが、北陸新幹線の開業で動線は大きく変わることになる。富山県・石川県・福井県では早くも期待が高まっているが、北陸新幹線の開業を間近に控え北陸の路面電車にも大きな変化が訪れようとしている。北陸、特に富山県は知る人ぞ知る“路面電車大国”でもある。
路面電車と聞くと、“昭和”や“ノスタルジー”といった形容詞で語られることが多い。しかし、それはあくまでも東京や名古屋、大阪といった大都市からの視点でしかない。
実は、「時代遅れの交通機関」といった烙印が押された路面電車だったが、社会構造が変化すると路面電車は再評価されるようになっている。路面電車は自動車社会で疲弊した「地方創生の救世主」、高齢化社会に適応した「次世代型公共交通」なのである。
路面電車の歴史を紐解くと、最盛期は昭和30年代。それまで、路面電車は日本各地で運行されていた。ところが、自動車の普及で路面電車は道路の邪魔者として次々に廃止に追い込まれた。
以降、公共交通機関は大量輸送・高速移動に向いている地下鉄、線路や駅舎などの大規模設備が不要なバスなどに転換されてきた。
富山ライトレールとして再出発した富山港線そのターニングポイントとなったのは、2003年にJR西日本が不採算路線である富山港線を富山市に譲渡することを発表したことだった。富山港線は富山駅から岩瀬浜駅までの約8キロメートルの短い路線で、1日の利用者は平日平均2000人程度。昼間帯は一時間に1本ほどしか列車が運行されていない閑散路線だった。富山港線はJR西日本にとってお荷物的な存在だったが、それを譲り受けた富山市は路面電車に転換した。
路面電車化にあたり、富山市は利便性を向上するために高架線を付け替えて地上を走るようにし、停留所も増やした。これは高齢者や障害者、ベビーカーを押す若いママなどでも乗りやすいようにする措置だ。こうした利用促進策が功を奏して、新たに富山ライトレールとして再出発を果たした富山港線は開業初年から黒字を達成。その後も順調な経営を続けている。
2006年に新たに造られた併用軌道区間を走るライトレール
富山ライトレールは開業以来、富山駅の北口を発着していた。このほど北陸新幹線の開業で富山駅が高架化したことから、駅の下に線路を延伸することになっている。
駅南側には別の路面電車・富山地鉄が走っているが、富山地鉄の線路も駅の下へと線路を伸ばしており、これらがドッキングして直通運転が予定されている。
富山市街地を走る富山地鉄の電車
ドッキングすれば、路面電車で市内を移動することも可能になり、市民はますます便利になるだろう。人の動きが活発化すれば、街は活性化すると期待されているのだ。
路面電車専門誌『路面電車EX』(イカロス出版)の佐藤信博編集長は、路面電車が再評価されている理由をこう話す。
「少子高齢化社会を迎え、自動車を運転できる人が少なくなったことが大きな理由です。このままでは、買い物や病院への通院など日常生活に支障が出てくるので、市民の足として路面電車が注目されているのでしょう。さらに国土交通省が路面電車の建設を後押ししていることも大きい」
こうした動きは、富山ライトレールや富山地鉄といった富山市内だけにとどまらない。富山県第2の都市である高岡市には、万葉線という路面電車が走っている。
真紅の車体が印象的な万葉線のアイトラム
万葉線は高岡市や射水市を走る第3セクターの路面電車だが、こちらには2003年から「アイトラム」という車両が運行されている。アイトラムは近未来型のデザインで、従来の路面電車のイメージとは大きく異なる。
「技術の進化で、路面電車の車両は大きく変化しました。最初に路面電車の復権を提唱したのは岡山ですが、その後につづいた広島や熊本も路面電車のイメージを大きく変えるのに一役買っています。低床化された車両とホームとの間には段差がなく、車内もフラットです。機能面だけではなく見た目も洗練されたデザインになり、スタイリッシュになりました。もう、一昔前の“チンチン電車”ではありません」(佐藤編集長)
路面電車のメリットは利用者が乗り降りするのに長い階段を上り下りしなくて済むことだ。東京や大阪、名古屋では地下鉄が市民の足になっているが、高齢者やベビーカーを押している若いママが利用するにはかなりの苦労を伴う。路面電車にはそうした困難がなく、利用者の負担は軽減される。
また、1キロメートルあたりの建設費は地下鉄が200億円程度。路面電車は約10億円で安価で建設できることも路面電車が再評価されるポイントだろう。さらに、バスのように排気ガスを出さないので環境にも優しく、渋滞に巻き込まれることもない。まさに、路面電車はいいことづくめの交通機関なのである。
新型路面電車はLRT(Light rail transit)と呼ばれるように、単なる交通手段ではない。都市装置の一部なのである。
福井鉄道でも進むバリアフリー化路面電車がまちづくりの一翼を担っている県が、北陸にはもうひとつある。それが福井県だ。県都・福井市と越前市とを結ぶ福井鉄道では、2013年に低床車のf1000形「フクラム」が導入されるなど、こちらでもバリアフリー化が進められている。
そうしたバリアフリー化が進められて利用しやすくなる一方で、福井鉄道には路面電車とは思えない長大編成の車両200形が道路の上を自動車と一緒に走っている。
福井市街地を走る福井鉄道200形は通常の鉄道車両とほぼ同じ大きさ。それが道路を走る
200形が道路を走る光景は、なかなか衝撃的なもので鉄道マニアには人気だったが、フクラムが導入されたことで役目を終えることとなり2016年に引退する予定だ。
福井鉄道は田原町駅でえちぜん鉄道三国芦原線と接続している。えちぜん鉄道は勝山市や坂井市といった郊外に線路を有しているが、今年中に福井鉄道と相互乗り入れを開始するべく駅の改良工事を進めている。工事が完了すれば、福井駅までのアクセスが向上し、ますます路面電車の存在感は高まるだろう。
福井鉄道と相互乗り入れを予定しているえちぜん鉄道。相互乗り入れに際して、路面電車型の車両に切り替えられる
しかし、今回の北陸新幹線の延伸開業は金沢駅までで、福井県に新幹線はやって来ない。福井県に新幹線がやって来るのは2022年の予定となっている。福井駅では北陸新幹線の開業を見越して、すでに高架駅への建て替えを始めている。
北陸新幹線を待ちわびる福井駅。右手には、北陸新幹線の高架線が建設されているのが見える
福井県は北陸新幹線が走るのを待ちわびているが、福井の路面電車も歩を同じくして、進化していくだろう。
北陸新幹線の金沢駅までの延伸開業で、注目されている北陸地方。北陸新幹線E7系・W7系の最高速度は260キロメートル。対して、路面電車は時速40キロメートル以内で走ることが法律によって規程されている。
スピードは新幹線に遠く及ばないが、新幹線と同じぐらいに北陸の路面電車にも熱い視線が注がれている。
(取材・文/小川裕夫)