夕方から開く“コンテナ”の不思議な魚屋さん

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近所にあると嬉しいのが、良い八百屋さんや魚屋さん。でも、仕事後の夕方以降に行くと、閉まっている店や商品がない店も多いのが、残念なところだ。
そんななか、見つけたのが、中野坂上駅近辺にある、夕方4時から夜9時の間だけオープンする不思議な魚屋さん。その名も「さかな屋」(そのまんま!)だ。

いつの間にか駐車場に唐突に建っていた水色のコンテナは不思議な佇まいで、およそ魚屋さんに見えない。しかも、昼間は窓に雨戸や断熱材が取り付けられており、夕方になるとぽつんと灯りがつく。

小さな店舗に入ると、「本日の産地別入荷状況」がホワイトボードに書かれており、ケースには種々の刺身がズラリと並ぶ。

ほかにも煮付けや照り焼き、塩焼きなどもあり、180円(税別)で炊きたての新米も炊飯器からよそってくれる。

一人暮らしなら、ここでご飯と魚を買って帰り、汁と漬物でもあれば立派に夕食になる。

店主のご夫婦に聞いたところ、この店がオープンしたのは今年8月下旬。なぜ夕方から開店しているのか聞くと、こんな話をしてくれた。
「もともと近くでお寿司屋をやっていたんですが、そこを息子に譲ることになって、昼は息子の店を手伝うので、夕方から営業しているんです」

営業時間帯も謎だったが、その佇まいもなんだか謎。どうしてこの場所で、こんな感じの店を?
「近所で魚屋さんをやれる場所がないか探していたんです。そしたら、駐車場に空きがあって。一から建てたら大変なお金がかかるから、コンテナにしました。でも、皆さん、だいたい来てくれるお客さんたちは、まず『不思議』とおっしゃいます。なんか不思議に見えるみたいですね(笑)」
まさに自分が気になっていたのも、「不思議」な雰囲気のためだった。

近年、コンテナは、イベント会場やアミューズメント施設の飲食店のほか、駅前のファストファッションブランドのショップや書店・ショールームに利用されるなど、無機質な四角い箱がオシャレな店舗になっているケースもある。でも、「魚屋さん」はやっぱり不思議で、新鮮だ。
さらに、その不思議な店で提供される魚は、さすが元・お寿司屋さんだけあって、全て自ら築地で仕入れてくるそう。
この日購入したさんまの刺身は新鮮でボリュームも多く、たっぷり添えられた針生姜とネギ、茗荷の薬味や、青のりの入った卵焼きには、料理人のセンスが感じられた。

オシャレやインパクトを狙ったわけではない「コンテナの魚屋さん」は、意図せず不思議な雰囲気を醸し出し、家族の事情だけで、話題性を狙ったわけでもない「夕方〜夜のみの営業」は、結果的に仕事を持つ人たちにとって便利な存在になっている。

パッと見は不思議そのものなのに、実は奇をてらったわけでもなんでもない、誠実な魚屋さんなのでした。
(田幸和歌子)