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●2013年の被害総額は過去最大の14億600万円シマンテックは、ネットバンキングの不正送金に関する説明会を開催し、不正送金の現状と対策について説明した。説明会では警察庁による現在の検挙状況などの説明も行われた。2014年の不正送金被害は5月時点ですでに、2013年1年間の被害額を上回っているという。

○2013年の被害総額は過去最大の14億600万円

ネットバンキングの不正送金は、マルウェアなどに感染したPCからのアクセスで、IDやパスワードが盗まれ、それを悪用して銀行の預金を盗まれて別の口座に送金される攻撃。警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課の小竹一則氏によれば、サイバー犯罪の検挙は2011年以来増加を続けているが、その中でネットバンキング経由の不正送金の被害が多発しているという。

2013年の被害総額14億600万円が過去最大の被害だったが、今年に入り、すでに5月9日の時点で昨年の被害額を超え、被害が拡大している。「平成23(2011)年に一度ピークを迎え、その時はフィッシング詐欺の被害がメインだった」(小竹氏)というが、ネットバンキングの不正送金は2013年に急増し、今年はさらに上回ったという。

特徴的なのは、狙われている金融機関が増えている点だ。過去に被害に遭ったことがない、初めて被害に遭う金融機関が多く、しかも被害額は多額に上る。さらに、法人の被害が増えているのも特徴。2013年までは、ほとんど個人だったという法人被害の割合が、今年は被害額で3割を超えた。しかも、メガバンクの被害はほとんど個人であるのに対し、地方銀行や信金・信用組合の被害はほとんどが法人だったそうだ。

不正送金された金の多くは「出し子」が預金を引き出しており、その割合は71.3%に達している。貸金移動業者などが国外に送金する割合は、2013年の約2割から6%に減少した。これは犯罪収益移転防止法による検挙が奏功し、その分、出し子による出金が大幅に拡大した形だ。

「検挙もしっかりやっている」と小竹氏は強調。今年はすでに47の事件で74人を検挙。昨年1年間は32事件・68人だったため、被害の拡大にともない、検挙人数も増えている。なお、74人中の41人が中国人だったという。

●フィッシング詐欺メールと"進化する"マルウェア海外でフィッシング詐欺の被害が多発していた頃、日本では言語の壁もあって被害がほとんどなかったが、最近、国内でも自然な日本語のフィッシング詐欺メールが横行するようになり、被害が拡大している。「手口は古典的だがいまだに広がっており、被害に遭うユーザーがいる」と小竹氏は説明する。

もう1つの手口がマルウェアを使ったもの。何らかの手段で被害者のPCにマルウェアを送り込み、その被害者がネットバンキングを利用すると、そのIDとパスワードなどを盗み、さらに第三者のPCを踏み台にして金融機関に不正アクセス。それを外国人名義の口座に不正送金し、出し子がATMから引き出す、という流れになっている。

これまでよく利用されているのは「SpyEye」や「ZeuS」と呼ばれるマルウェア・ボットネットで、最近はその亜種の「GameOver ZeuS」も多かったが、このGameOver ZeuSは、6月に警察庁や米連邦捜査局(FBI)など、国際的な協力でボットネットを使用不能(テイクダウン)にしている。

こうしたマルウェアの感染では、正常な時は表示されないポップアップ画面が表示され、IDとパスワードなどの入力が求められたり、正常時に比べて入力させられる項目が増えたりする。こうして入力してしまったIDやパスワードなどが盗まれてしまう。フィッシングやマルウェア以外に、法人では電子証明書の不正取得も原因の一つで、エクスポート機能を悪用することで、電子証明書が盗まれるそうだ。

警察庁では、今年5月に金融機関へのセキュリティ対策強化を申し入れた。金融機関が取るべき対策としてワンタイムパスワードの導入やセキュリティ対策ソフトの無償配布、インターネットからの送金限度額の引き上げサービスの停止、送金限度額の引き下げ、といった点を挙げる。

また、OSやアプリケーション、セキュリティソフトを最新版に更新する、不審な入力画面にIDやパスワードを入力しない、ワンタイムパスワードは携帯メールあてに送信する、2段階認証の導入といった対策も提示する。

マルウェアを使い金融機関を狙う攻撃に関してSymantec Security Responseの浜田譲治氏は、今年に入っていくつものWebサイトが感染して、閲覧者のPCにマルウェアをダウンロードするように改変されていた例を紹介。これらはネットバンキングを狙うマルウェアがダウンロードされるようになっていたといい、こうしたマルウェアは、従来メガバンクを狙った設計になっていたが、最近は地銀や信金、信組もターゲットになっているという。

そうしたマルウェアは、ZeuS、Snifula、Bankeiya、Torpplarに大別され、その中でBankeiyaは、いわゆるExploit Kitなどの開発ツールを使わず、「自前にウイルスを開発している」(浜田氏)という。積極的に最新の脆弱性を悪用し、設定ファイルを更新することで機能を向上させるなどの機能を備えている。

マルウェアの標的は国内の銀行だけでなく国外にも手を広げ、不正送金以外にもBitCoin、クレジットカード情報、オンラインアカウント情報など、「あらゆる情報を盗もうとしている」(同)そうだ。

シマンテックでは、こうした不正送金被害に遭わないために、「脆弱性を突く不正侵入を防ぐこと」を重要視。ウイルス対策ソフトの定義ファイルのアップデートだけでは不十分で、各種の侵入防止機能を活用することを推奨し、その機能を備えた同社のNortonシリーズをアピールしている。

(小山安博)