森崎ウィンが語る「絶対に信用してはいけない男」の正体…映画『黄金泥棒』の役作りで見つけた、仕事ができる人の”目が笑っていない”ギラつきと、SNS時代の「何者かにならなきゃ」という強迫観念の解き方

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「口先だけですごいことを言う人はたくさんいる。でも、最終的には行動を見るとわかる」。2026年4月公開のクライム・コメディ映画『黄金泥棒』で、主人公を翻弄するキーパーソンを演じた森崎ウィンが、役作りの「できる男」研究を通じて感じたこと、仕事上の人間観察の哲学、そしてSNS時代の「何者かにならなければ」という強迫観念との向き合い方を語った。

「爽やかに見えて、絶対に信用してはいけない男」

本作は2013年に実際に起きた百貨店の金製品盗難事件から着想を得た作品だ。平凡な専業主婦の藤根美香子(田中麗奈)が、立ち寄った百貨店で数百万円の金(きん)のおりんをついバッグに入れてしまったことをきっかけに、「100億円の秀吉の金茶碗を盗む」という前代未聞の計画へと突き進んでいくクライム・コメディである。

森崎が演じる金城光輝は、株式会社SGCの社員として美香子に近づき、駆け引きで物語を牽引するキャラクター。スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』(2018年)でのハリウッドデビューや、NHK大河ドラマ『どうする家康』での徳川秀忠役など、端正な容姿と誠実な印象を積み重ねてきた森崎にとって、今回の役は異色だ。爽やかで人懐っこい一方、保身のためにその場しのぎの嘘をつく。

「パッと読んで、実話ベースでここまでの展開はちょっと面白いなと思いました。できる人ではあるんですけど、絵に描いたような嫌な人間じゃないですか。なんで彼はこれをさらっとできるんだろう、ということをいろいろ考えました」

萱野孝幸監督は「真面目な好青年のイメージが強い森崎さんが演じたら、逆に得体の知れなさが出る」というキャスティング意図を持っていたという。「まさかとは思いましたけど」と苦笑しつつ、役の核心をこう解釈した。

「とにかくビッグになりたくて、目指すゴールのために手段を問わない。成功のためだったらこれくらい当たり前だろう、泥水飲んでなんぼだろうというところにいるから、こういうことができちゃうんですよね。野望への意志が強すぎるがゆえに、その目標だけをベースに置いて演じさせてもらいました」

翻弄される主人公・美香子についても、「物質的には十分なはずなのに、自分の中でやりたいことがあったと思うんですよね。だから自分でもわけのわからない行動をとってしまうのはわからなくはない、と思います。発散の仕方がちょっと間違いだなとは思いますけど」と共感を隠さない。

「できる男」研究--カーディーラーの目に宿る「ギラッとした光」

役作りにあたり、森崎は「できる男」の人間観察を徹底した。印象的なエピソードが、たまたま訪れたカーディーラーでの出来事だ。

「営業トップの方が毎回来てくれるんですが、その方の時間がゆったりしているんですよ。でも目の奥がギラッとしていて、『分かります』と言いながら目がちゃんと笑っていない。嫌な人ではないし、仕事は早いし、知識も豊富で面白い話もしてくれる。でも、この人が30代のころはもっとキラッとしてたんだろうなと思って、それをちょっと取り入れてみようと思いました」

人懐っこさの裏に鋭さを隠すそのバランスが、金城に求められるものと重なった。「彼はお金持ちではなく、のし上がってきた人だと思うんですよね。ギラついてるんだけど、富裕層の人たちとの会話の中ではトゲのない感じでいる。そこのトゲを持っていくのがちょっと難しかったんですけど、頑張りました」

「この人は信用できるか」の見極めについて聞くと、意外な答えが返ってきた。「僕は基本、あまり人を信用しないようにしているんです。裏切られるのも嫌だし、人にあんまり期待しないというか。期待しすぎるから傷つくわけで。口先だけですごいことを言う人はたくさんいるわけだし、最終的には行動を見て判断するということですかね」

仕事の現場での共演者との距離感にも、同じ姿勢が貫かれている。撮影途中で飲みに行って仲良くなりすぎると翌日の現場に響くことを、経験上学んできたという。「役柄として作品に入っている森崎でいる方が、楽しいし緊張するし、いい意味でいいものが生まれる気がします。途中で気を抜くと崩れるんですよね」

数百億円規模の本物の金工芸品が並ぶ撮影現場と、田中麗奈の「座長力」

共演した田中麗奈については「テレビに出る前から長年活躍されている方と一緒にできることは本当に光栄です」と率直に語る。本読みを兼ねたワークショップで多くを得たという。

「田中さんはお芝居に対しての情熱がすごくて、心の捉え方に対するいろんな観点を持っていらっしゃって、すごく勉強になりました。バジェットが限られていてきつきつな撮影もありましたが、田中さんが来たら現場がワントーン明るくなるというくらい、本当にすごく引っ張ってくれた撮影でした」

本作の撮影では、総額数百億円規模の本物の金工芸品が現場に持ち込まれた。「金を収めている部屋があって、全部本物で、一個でもなくなったら帰れないくらいの金額。この作品に入っているときは数百億とか数十億とかって当たり前のように出てくるから、ちょっと麻痺してくるんですよ。これが本当に数百億なんだって。なかなかできる経験じゃないので面白かったです」

「何者かにならなければ」という強迫観念に、どう向き合うか

映画の主人公・藤根美香子が「私にしかできないことをしたい」という思いを募らせ、前代未聞の計画へと踏み込んでいく--このテーマに、森崎は真正面から向き合った。「僕は欲望だらけなんです。やりたいことや野望が死ぬほどあって、人生一回じゃ足りないくらい」と言いながら、しかし一歩引いた視点も持っている。

「よくよく考えたら日本に住んで普通に朝起きて、雨風をしのぐ家があって、ご飯が食べられる時点で、それ自体が特別なことなんですよ。世界では今日生きられるか明日死ぬかもしれない状況が今も続いていて、その中でSNSで誰かにならなきゃいけないということ自体がナンセンスで。普通に生きている時点で、すでに特別な存在になっているということを改めて実感してほしいなと思います」

ミャンマー出身で来日後にスカウトされ、ハリウッドから大河まで自ら切り拓いてきた森崎。第43回日本アカデミー賞新人俳優賞(映画『蜜蜂と遠雷』)受賞、主演ドラマ『本気のしるし』劇場版の第73回カンヌ国際映画祭「Official Selection 2020」選出、そしてWOWOW「アクターズ・ショート・フィルム4」での監督・出演作『せん』が「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2024」グランプリ「ジョージ・ルーカスアワード」を受賞と、着実にフィールドを広げてきた。その言葉には、野望を語る説得力がある。

「その目標に向けてやっていくから、もちろん苦しいし、しんどいなって思うことも多い。でも、しんどいと言えること自体が幸せだよなって。死ぬわけじゃないし、最悪この業界をやめて普通の仕事もできる、もうちょっとどん欲に頑張ろうよって思えてくる。承認欲求の塊でもあるからこそやっているわけで、そういう自分を認めながら前に進んでいきたいと思っています」

「できる男」を演じ、「できる男」を研究した先に森崎が見据えているのは、金城光輝のような野望の実現を、しかし手段を選んだ形で果たしていく道筋だ。

映画『黄金泥棒』2026年4月3日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

監督・脚本:萱野孝幸 出演:田中麗奈、森崎ウィン 配給:キノフィルムズ

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