U-NEXTが人気映画シリーズ『ハリー・ポッター』全シリーズの見放題配信を9月25日から開始した(画像:U-NEXT)

日本国内でリードしている動画配信サービスといえば、Amazonのプライム・ビデオとNetflixです。国内発オリジナル作品も充実するこの2大巨頭の後に続くのがU-NEXT。ハリウッド最大手のワーナー・ブラザース・ディスカバリーと手を組んだU-NEXTは人気映画シリーズ『ハリー・ポッター』全シリーズの見放題配信を9月25日から開始するなど、アメリカ発コンテンツを増強しています。この動きはサービスを選ぶ基準にどれだけ影響するものなのでしょうか。

ハリポタ頼りだけではない

国内動画配信サービスの人気3番手に位置づけるU-NEXTが『ハリー・ポッター』などを所有するワーナーと独占パートナーシップ契約を締結したのはなぜでしょうか。そもそも動画配信サービスが乱立し、アマプラ(Amazonのプライム・ビデオ)にNetflix、U-NEXT、Disney+、Apple TV+、Huluなどと選択肢が多すぎる状況です。

ワーナーは本国のアメリカで昨年5月に動画配信サービス「Max」を立ち上げ、いよいよ海外展開にも力を入れることになったわけですが、数多あるサービスと比べると最後発です。不利な立場とも言え、慎重な参入計画が求められたのだと思います。

そこで、もともと関係性があったU-NEXTと話し合いを進め、すでに展開するNetflixやDisney+とは別の道を選択することに。U-NEXTのサービスの中で「Max」の作品を見放題で提供するかたちにしたのです。U-NEXTとワーナーは2021年の時点でドラマ『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』などのいわゆる「HBO」ブランドの作品を独占配信する契約を結んでいたことも大きそうです。

今回の契約によって、U-NEXTで視聴できる「Max」の作品数は2500以上に増えています。売りの1つが映画『ハリー・ポッター』シリーズ全8作の見放題配信です。とはいえ、Netflixなどでも『ハリー・ポッター』シリーズは揃っていますから、“ハリポタ頼り”でもありません。海外もの好きには馴染みの「DC」や「ワーナー・ブラザース」「カートゥーン ネットワーク」「ディスカバリーチャンネル」といったアメリカ発ブランド作品も取り揃えています。

「HBO」ブランドの作品も引き続き扱い、最新作ドラマ「THE PENGUIN-ザ・ペンギン-」も並んでいます。「バットマン」のスピンオフ作品という扱いですが、マントの戦士は誰一人登場しません。特殊メイクとファットスーツで別人のような主演のコリン・ファレルが人間味のある悪役「ペンギン」を演じ、見応え抜群なギャングドラマを展開しています。


U-NEXTに「バットマン」のスピンオフドラマ「THE PENGUIN-ザ・ペンギン-」も加わった。ファットスーツに身を包むコリン・ファレルが人間味のある悪役「ペンギン」を演じる(画像:U-NEXT)

ハリウッド作品を充実させる日本産サービス

強力なハリウッド作品がU-NEXTのラインナップに増えたことは確かです。やはりハリポタ効果もあってか、追加された9月25日前後にSNS上で話題にもなっていました。海外でもU-NEXTのこの動きは業界内で大きく取り上げられています。

9月24日から26日にインドネシア・バリ島で開催されたアジアのメディア企業トップクラスが集結するビジネスサミット「APOS」でも話題に上りにました。U-NEXTの本多利彦取締役COOが登壇したセッションで「アジアでは日本が先駆けてローンチされた『Max』をU-NEXTで順調なスタートを切ることができました」と報告し、会場の関心を寄せる場面も。「新しいコンテンツを求めるユーザーにとってアメリカのコンテンツは非常に重要」といった発言からは期待の気持ちが込められています。


U-NEXTの本多利彦取締役COO(右)が9月下旬にバリ島で開催されたビジネスサミット「APOS」で「Max」について語り、注目を集めた(筆者撮影)

また「U-NEXTは、日本国内の動画配信サービスの中で最大の作品ボリュームを持ち、すべての層のニーズを満たすコンテンツを提供している」とも強調していました。2023年7月に「Paravi」サービスを吸収して以降、ドラマ「VIVANT」といったTBSの超人気コンテンツなども加え、欧州サッカーやゴルフ、格闘技などスポーツライブ配信にも積極的です。今後は音楽配信サービスにも力を入れる計画も明かしています。

つまるところ全方位戦略です。加えて、全方位の中でそれぞれのジャンルで深く刺さるコンテンツを揃えていく方針であることがうかがえます。例えば、次々と最新の海外ドラマを観たいユーザーにとって欠かせないサービスになることを目指すということです。

他のサービスと比べてU-NEXTは月額基本料金が2189円(税込み)と高めですが、映画チケットと引き換えることもできる「ポイント付与」を使いこなし、それがコスパの良さとして感じるヘビーユーザー層を囲い込んでいくとも言えそうです。

日本作品に積極投資するAmazon

一方、ライト層にとって最強なのがAmazonのプライム・ビデオです。年間プラン5900円(税込み)または月額プラン600円(税込み)のプライム会員であれば、プライム・ビデオにラインナップされている作品は見放題という破格値です。ただし、『ハリー・ポッター』シリーズをいつでも繰り返し見たいハリポタ好きには向いていないのかもしれません。別途レンタル料金が必要になる場合もあるからです。

Amazonの方針も割とわかりやすいものです。ビジネスサミット「APOS」にはプライム・ビデオの日本のコンテンツを統括する石橋陽輔氏も登壇し、「たとえばアニメであれば、独占タイトルを限定数揃えること以上に、幅広いセレクションを提供できることに力を注いでいます」という発言は明白です。


Amazonのプライム・ビデオ日本のコンテンツ・ヘッド石橋陽輔氏(右)も「APOS」に登壇。プライム・ビデオのアジア担当ヴァイス・プレジデントと共に戦略を語った(筆者撮影)

独占配信として打ち出すジャンルはここのところスポーツに集中しています。『Prime Video Boxing』と称するボクシングの大型注目試合や、野球でも世界一決定戦の「ワールドベースボールクラシック(WBC)」といったライト層からも関心を持たれるタイトルを選んでいる印象です。

また日本作品に積極投資するアメリカ資本のサービスという側面もあります。婚活リアリティショーの「バチェラー」シリーズの日本版制作は成功例の1つです。また10月25日から世界独占配信する竹内涼真主演の『龍が如く 〜Beyond the Game〜』はセガのヒットゲームシリーズを基にオリジナル脚本で制作したもの。世界的にヒットとしているゲームタイトルに加えて、ヤクザものという切り口が決め手になったのか、本国のアメリカサイドの発案から実現しています。


10月25日からAmazonのプライム・ビデオで世界独占配信する竹内涼真主演『龍が如く 〜Beyond the Game〜』。セガの超ヒットゲームタイトルを基にドラマ化された(画像:Amazonのプライム・ビデオ)

ローカル作品に人気が集中

「Amazonのプライム・ビデオの戦略の柱の1つがローカルのオリジナルコンテンツを顧客に提供すること。マンガや小説、ゲームなど、魅力的で豊富な日本のローカルIPを活用することにも全力を注いでいます」と石橋氏が語っていた方針はアメリカ資本サービスにとって勝ち筋とも言えます。結果としてAmazonは日本の動画配信サービス市場をリードしているわけです。

日本に限ったことではありませんが、ローカル作品が最も好まれる傾向は高く、なかでも日本はローカル作品に人気が集中しがちです。大きなパイと捉えるAmazonと多様な好みを深掘りするU-NEXTはある意味対極的ですが、まだまだ成長基調にある動画配信サービスの市場を牽引していくことは間違いありません。どちらのサービスを選ぶのかは、それぞれのわかりやすい戦略から自分好みのものを選べばいいはずです。


この連載の一覧はこちら

(長谷川 朋子 : コラムニスト)