蔚山相手に4-0快勝も見えた課題【写真:徳原隆元】

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【カメラマンの目】プレスの緩い蔚山相手に4-0快勝も見えた課題

 10月2日、横浜F・マリノスはAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)のリーグフェーズ第2節で韓国の蔚山HDと対戦した。

 前日には川崎フロンターレが、同じく隣国のライバルである光州FCと顔を合わせている。

 この2試合を取材して感じたのは、蔚山と光州はともに韓国のチームでありながらも、その実力と試合に対する集中力において大きな差があったことだ。2試合を消化して光州が2勝、蔚山が2敗という成績からも分かるように、圧倒的に前者の方が手強いチームだった。対してゴール裏からカメラのファインダーを通して見た蔚山は、拍子抜けするくらい“軽い”チームで、横浜FMにしてみれば実にくみしやすい相手だった。

 なにより蔚山は横浜FMへのマークが脆弱だった。光州が人海戦術によってゴール前に二重、三重の包囲網を作り上げ、川崎を迎え撃ったのとは対照的に、失点へと直結する自陣近くにおいても、トリコロールの選手たちに対する厳しいマークはほとんど見られなかった。

 そのため横浜FMは蔚山ゴール付近まで自在にドリブルで進出することができ、易々とボールをつなぐことができた。前半4分に渡辺皓太が先制点を挙げ、あっさりと試合の主導権を握る。さらに、前半終了間際に西村拓真が追加点をマークして前半を2-0で折り返すと、後半にも2ゴールを記録。4-0のスコアから見れば横浜FMの完勝と言える試合だった。

 では横浜FMのサッカーが終始、内容的に素晴らしいサッカーをしたかというと、必ずしもそうではなかった。ホームチームが試合全体を通して見応えのある内容を見せられなかったのは、蔚山の実力がおおいに関係していた。

 これは直接、身体がぶつかり合うスポーツにおいて起きる現象で、サッカーは対戦相手のレベルに、もう一方のチームが引っ張られることがある。言い方を変えれば飲み込まれてしまうことがある。

 たとえばレベルの高い相手と対戦すると、手も足も出ないという内容になることが多いが、劣勢が予想されるチームでも開始から強気の姿勢を貫いて食らいついていけば、次第に試合の流れは一進一退の攻防となり、実力以上の力を発揮することがある。

 そうしたお互いが高いレベルで拮抗する展開があれば、その逆の流れもある。対戦したチームのレベルが低いと、それに付き合うように実力を持った側が内容的にも奮わないサッカーに終始してしまうこともある。

 そして、対蔚山戦の横浜FMは相手の低調なサッカーに引き込まれるように、多くの時間帯で鋭いサッカーを展開することができなかった。

相手に“合わせてしまう”場面もあった一方、ダイナミックな横浜FMらしい攻撃シーンも

 横浜FMにしてみれば、本来なら激しいチャージを受ける相手陣地でも、足を止めてパスの出しどころを探しても、蔚山の詰めが甘くボールを奪われることがない状況だったため、テンポの速いサッカーをする必要がなかったのも事実だろう。それほど余裕があった。こうした蔚山の緊張感のないマークに加え、テンポが悪くプレーにメリハリがない相手のサッカーのリズムに取り込まれるように、横浜FMは多くの時間でキレのあるゲーム展開を作れなかった。

 それでも、横浜FMはすべての時間で蔚山と足並みを揃えていたわけではなかった。前半44分のエウベル、アンデルソン・ロペス、ヤン・マテウス、西村とつないだ、スムーズな流れからゴールを奪取した2点目や、残り時間5分ほどとなった最終盤に見せた、一気呵成に攻め込むプレーは見ている者を高揚させる迫力があった。

 選手個々の能力で明らかに差があったのだから、横浜FMは後半39分のA・ロペスが決めた豪快なシュートのように、もっと強引なまでに力でねじ伏せにいっても良かったと思う。試合全体を通して気迫のこもったプレーを見せることで、内容的にも完勝してほしかった。この日の蔚山のレベルなら、それができたはずだ。

 手応えのない相手に高い集中力と緊張感を持ってプレーすることは、口で言うほど簡単ではない。ただ、試合のなかのいくつかの場面で見せた、スピードに乗ったダイナミックなプレーで相手を攻め落とそうとする気概をゲーム全体の90分間に渡って貫けなければ、高いレベルの相手に勝つことはできない。

 2点目の電撃的なゴールや終盤の迫力ある展開は、横浜FMが近年の輝かしい姿に戻るための可視化されたヒントであることを選手や指導スタッフが感じ取り、この対蔚山戦をチーム好転へのきっかけとしたいところだ。(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)