アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年10月1日付で、惑星探査機「ボイジャー2号(Voyager 2)」の電力消費を抑えるため、搭載されている科学機器の1つをシャットダウンしたことを明らかにしました。


1977年8月に打ち上げられたボイジャー2号は、木星・土星・天王星・海王星を一度のミッションで探査する、通称「グランドツアー」を行ったことで知られています。2018年11月にボイジャー2号は太陽圏(ヘリオスフィア、太陽風の影響が及ぶ領域)を離脱し、2012年8月に太陽圏を離脱した同型機「ボイジャー1号(Voyager 1)」に続いて星間空間に到達した人工物となりました。


2024年10月3日現在、NASAによればボイジャー2号は太陽から約206億911万km(約137.8天文単位)離れたところを太陽に対して秒速約15.4kmで飛行しており、地球とボイジャー2号の通信は片道だけでも約19時間4分を要します。


【▲ 深宇宙を飛行する惑星探査機「ボイジャー」の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

太陽から遠く離れて飛行するボイジャー1号と2号には動力源として放射性同位体熱電気転換器(Radioisotope Thermoelectric Generator: RTG、原子力電池の一種)が搭載されていますが、プルトニウム238の崩壊熱から電気を得るボイジャーのRTGの発電量は時間が経つとともに低下しており、NASAによれば毎年約4ワットのペースで失われています。そのため、ボイジャーの運用チームは飛行に不可欠ではないヒーターなどの装置をオフにしたり電圧の監視方法を変更したりすることで、科学機器に供給する電力を確保し続けてきました。


しかし、2024年9月26日、太陽圏離脱後も稼働し続けていた科学機器の1つをシャットダウンさせるためのコマンドが送信されました。打ち上げから47年経ったボイジャー2号における運用の変更が予期せぬ副作用を引き起こさないか慎重に監視しながらの作業でしたが、コマンドは問題なく実行され、探査機が正常に動作していることを運用チームは確認したということです。


【▲ 惑星探査機「ボイジャー」に搭載されたプラズマ科学実験器(PLS)の外観。ほぼ同じ方向を向いた五角形の検出器3つと、直角の方向を向いた円形の検出器1つで構成されている(Credit: Credit: Courtesy of the MIT Museum)】
【▲ 惑星探査機「ボイジャー2号」に搭載されたプラズマ科学実験器(PLS)の外観(右)と、太陽の方向を向いていた3つの検出器で2018年後半に検出された電流のデータ(左)。このデータは2018年11月頃にボイジャー2号が太陽圏を脱出したと判断する上で使用されたものの一部(Credit: NASA/JPL-Caltech/MIT)】

今回電源が切られたのはマサチューセッツ工科大学(MIT)で開発された「プラズマ科学実験器(PLS)」です。PLSは太陽風や惑星の磁気圏内の荷電粒子を測定するための装置で、4つの検出器(ファラデーカップ)で構成されています。検出器のうち3つはほぼ同じ方向を向いていますが、太陽風の方向を測定できるように少しだけ角度を変えて取り付けられています。残る1つは他の3つに対して直角の方向を向いていて、磁気圏や太陽圏、太陽圏脱出後は星間空間の荷電粒子を捉えていました。


NASAによると、太陽圏の内部では太陽から放出されたプラズマが太陽風として外側に向かって流れていますが、太陽圏の外、特に太陽圏の前面(太陽の進行方向)に近いボイジャー2号が飛行している辺りではプラズマがほぼ反対方向に流れています。ボイジャー2号が太陽圏を脱出する過程で、太陽を向いていたPLSの3つの検出器はプラズマの流れの大幅な減少を捉えており、探査機が太陽圏を離れたことを判断する上で重要な役割を果たしています。太陽圏の脱出後、PLSの4つ目の検出器から得られる有用な観測データは探査機が太陽を向いたまま3か月に1度360度回転する時に限られており、宇宙線サブシステム(CRS)やプラズマ波サブシステム(PWS)といった他の科学機器に先駆けてPLSをシャットダウンさせることを決定する要因になりました。


NASAはボイジャー2号について、2030年代までに少なくとも1つの科学機器で星間空間を探索し続けるのに十分な電力があると述べており、他の大きな問題に直面しない限りあと数年はミッションが続く見込みです。【最終更新:2024年10月3日12時台】


 


Source


NASA - NASA Turns Off Science Instrument to Save Voyager 2 PowerMIT - An interstellar instrument takes a final bow

文・編集/sorae編集部