「リチウムイオン充電池」どう捨てるのが正解か
リチウムイオン充電池はモバイルバッテリーやスマートフォン、ワイヤレスのイヤホン、スマートウォッチなど、身の回りのさまざまな機器に使用されています(筆者撮影)
どんどん増え続けるリチウムイオン充電池やそれを内蔵した家電。その廃棄が現在問題となっており、今後さらに深刻化しそうだ。
電車内でモバイルバッテリーが発火したり、家庭ゴミとして不用意に出されたリチウムイオン充電池がゴミ収集車内で爆発するといった事例も複数あり、2024年8月には東京都環境局が「リチウムイオン電池 捨てちゃダメ!」プロジェクトを始動したほどだ。
だがしかし、ただ「捨てちゃダメ」と言われても一般ユーザーは困る。使わなくなったり使えなくなったものを溜め込むわけにはいかない。
いったいどうすればいいのか。
「捨てちゃダメ」な2つの理由
そもそもリチウムイオン充電池はどこに使われているのか。
捨てる捨てないの前に、そこを知っておかねば話にならない。ニュースによく出てくるモバイルバッテリーやスマートフォンは周知の通りだが、それ以外にも充電式の機器ほとんどすべてで使われているといって過言ではない。
小さなところではワイヤレスのイヤホン。スマートウォッチ。
IQOSやPloomといった加熱式たばこ。シェーバー。カメラ類。LEDライト。
バッテリーが膨らんでしまったiPhone(編集部撮影)
さらにUSBを使って充電する機器は全部そうだ。
大きなところではノートパソコン、コードレスの掃除機。電動アシスト自転車。
実に多岐にわたって使われており、どの家にもリチウムイオン充電池、あるいはそれを内蔵した機器がかならずあるはずだ。
それをすべて「リチウムイオン電池 捨てちゃダメ!」と言われても困るわけである。
なぜ捨ててはいけないのか。
2つの側面がある。
発火した事例
ひとつは単純に発火の可能性があって危険だから。
一般ゴミとして出されたリチウムイオン充電池搭載の機器が、ゴミ収集車の中で爆発したという例もある。
たとえば、2024年9月12日にリチウムイオン充電池のせいでゴミ収集車が焼けたというニュースが流れた。
パッカー車は中でゴミを圧縮するので、そのときに破壊され、おそらくは内部でショートするなどして発火してしまったのだ。
確かに、不用意に捨ててはいけないというのがわかる。
リチウムイオン充電池自体はおいそれと発火しないように設計され、保護回路も備えているが、設計か製造にミスがあったなどの理由で発火することはある。
近いところでは2024年にモバイルバッテリーで有名なアンカー・ジャパンの一部の製品で海外で発火する事象が発生。「製造過程の不備が発見されたため、Anker グループのグローバル全体での自主回収を決定しました」(アンカー・ジャパン 弊社モバイルバッテリーに関するお詫びと自主回収のお知らせ)ということがあった。
電動アシスト自転車でも一部のバッテリーで発火の恐れがあるということでリコールされている。
2022年に電池パックの不具合で発火に至る可能性があり、ヤマハ発動機、ブリヂストンサイクル、豊田TRIKE、あさひが電動アシスト自転車をリコールした(ヤマハのチラシより)
自宅で使っているバッテリーがリコール対象になってないか、ときどきチェックしたい。
アンカー・ジャパンやヤマハ発動機など大手の会社はリコールしてくれるが、ネットで安く売られているどこが製造責任を負っているのか判然としない製品だと、そうもいかない。
また製造自体に問題がないものでも、落としたりぶつけたりを繰り返したり、真夏の車内など高温の環境に長時間おくことで発熱し、内部に異常が発生して、発火することもある。
電車内でバッグ内のモバイルバッテリーが発火した事故がときどきニュースになるが、おそらくそういう理由だろう。
発火まで至らなくても、高温環境はバッテリーの寿命を縮めるため、iPhoneでは充電中に本体が高温になると自動的に充電を停止するなどの対策がほどこされているほどだ。
もうひとつの側面は資源のリサイクル。「資源有効利用促進法」(2001年施行)だ。充電池の場合、そこで使われている金属類を再利用するため、リサイクルが義務づけられた。
平成25(2013)年には「小型家電リサイクル法」、正式名称は「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律」が施行されている。
だからそのまま廃棄するのは資源リサイクルの面でもよくないわけである。
不要になった充電池や機器はどう処分すべきか
不用意に捨ててはいけないのはわかった。
では使えなくなったり(リチウムイオン充電池は長く使っているとだんだんと持ちが悪くなる)、不要になった充電池や機器はどう処分すべきか。
我々ユーザーがすべきなのは、不要になった製品を最終的にリサイクルのルートに乗せること。
その手順や現状を確認するために、小型充電式電池のリサイクルを行っている、一般社団法人JBRCの担当者に話を聞いた。
JBRCはもともと日本蓄電池工業会がニカド電池回収のために発足したのがルーツ。その後、資源有効利用促進法に基づき、小型充電池(ニカド電池、ニッケル水素充電池、リチウムイオン充電池など)のリサイクルを行うために、小型充電池メーカーやそれを扱う企業、輸入事業者などがリサイクル活動を共同で行う団体として発足した。
JBRCへ直接不要な充電池を持ち込むのではなく、家電量販店などの窓口へ持ち込み、それがJBRCを通してリサイクルされるという仕組みだ。
だから我々は充電池のリサイクルを行っている家電量販店などの回収協力店へ持ち込めばいい。店員に直接渡すのか、「充電式電池リサイクルBOX缶」などに入れるのかは店による。
だが、JBRCはすべてのリチウムイオン充電池を引き受けてくれるわけではない。条件がいくつかある。
第1に機器から取り外された充電池(電池パック)であること。機器に内蔵されており、着脱不可能なものは対象外だ。ただしモバイルバッテリーはパッケージごと充電池とみなされているのでOK。
第2にJBRC会員企業の製品であること。JBRCは会員企業からの会費で成り立っており、非会員企業のものは回収できない。
ユーザーから見ればどのメーカーが会員企業なのかわかりづらいところだが、JBRCのウェブサイトからリストを閲覧できるので、そこで確認するしかない。書かれているのは法人名であり、ブランド名とは異なるケースもあるので要チェックだ。アンカー・ジャパンのように日本法人がしっかりしている会社はいいが(JBRCにも加入している)、他に比べると廉価でネット上で購入できる海外ブランドのものはたいていアウトだ。
第3にダメージがない状態のものであること。たとえば、膨らんでしまったものは引き受けてもらえない。古くなったものは中にガスが溜まって膨張することがある。そうなると引き取ってもらえない。
ただし、家電量販店によっては幅広く引き取ってくれることもある(店でJBRCへ渡すかどうか分別しているのだろう)。
JBRC以外にも、携帯電話やスマートフォンは通信事業者の団体である「モバイル・リサイクル・ネットワーク」がショップを通じて回収・リサイクルを行っているし、加熱式たばこもメーカーが回収に対応しはじめている。
ちょっと面倒に感じるが、もともと、発火や爆発の危険よりもリサイクルの観点ではじまっていることもあるのだろう。
自治体の対応はさまざま
ここで我々にとって悩ましいのは、上記にあてはまらないリチウムイオン充電池、あるいはそれを内蔵した機器の処分だ。
ユーザーにとって最後の砦となるのは自治体である。
だが、自治体によって対応がまちまちなのが実情だ。
どのくらいまちまちなのか、東京23区についてそれぞれの対応を調べてみた(表)。
「小型家電リサイクル法」によって小型家電はどの区でも対応している。多くは区内の公共施設におかれた回収ボックスでの対応だ。
リチウムイオン充電池の対応は区によって大きく異なる。港区や文京区は自治体として回収はしていない。新宿区や大田区は清掃事務所などへ持ち込んだり相談してくださいという。
回収する自治体でも、膨張したものでも回収してくれるところから、JBRCの回収ボックスを置いているところまでさまざまだ。
2024年から新たに回収をはじめた自治体もいくつかあり、今後に期待したい。
2024年9月現在。各自治体のウェブサイトの情報を独自にまとめた(筆者作成)
自治体によるセーフティーネットが必要
ユーザーにとって問題となるのは、充電式電池の回収を行ってない自治体が少なからずあることだ。なので、住んでいる自治体が対応しているか、しているとしたらどんな手順が必要なのか調べておく必要がある。
JBRCの会員企業でもない、各種業界の団体にも所属していない会社の製品(特に通販で安く購入できる海外の製品や互換バッテリー)、JBRCが引き取ってくれない膨張した充電池、を処分したくても手立てがないということになる。これは困る。
リチウムイオン充電池を使用した安価で便利な海外製の小型家電は増え続けており、Amazonなどネットで見つけるとつい安いものを選んでしまうのは仕方がないところ。信頼できるブランドのものを、といわれても何が信頼できるか判断できる人ばかりではないし、価格差が大きければ安いほうを選んでしまうだろう。本来なら、「責任の所在がはっきりしない機器は買わない」のがいいが、今の時代、なかなか難しい。そしてリチウムイオン充電池は寿命があり、使っているうちに劣化していくのでどこかの段階で処分することになる。
そんな製品は増え続けていくはずだ。
昨今はバッテリー内蔵で取り外せない製品も増えている。
JBRCの担当者は「それらは『小型家電リサイクル』のルートでも処理できるが、解体に非常に費用がかかっており、そこに負担をかけるのも課題だ。
特に昨今増加している輸入品の販売事業者にも一定の責務を公平に負担してもらって再資源化できるような制度を設け、セーフティーネットとして自治体があるという形が望ましい」という。
確かに積極的に回収することはなくても、最終的にユーザーが捨てるに捨てられなくなったものは自治体がきちんと対応するべきだろう。
ユーザーとしては、まず購入をした販売店や最寄りの家電量販店へ持っていき、引き取ってもらえなかったものは自治体に頼る、のが現実的な落としどころだ。未対応の自治体には検討をお願いしたい。
(荻窪 圭 : IT&カメラ系ライター)