一般社団法人ダークパターン対策協会は10月2日、同協会の設立と、新たな制度についてのメディア発表会を開催しました。同協会は、国内で推定1兆円を超えるダークパターンの被害を撲滅するために設立された団体です。

発表会後のフォトセッションにて。いちばん左は協会理事のカライスコス アントニオス氏、その隣が代表理事の小川晋平氏。左から3番目はゲストとして参加した北島康介氏。右端も理事の岡田淳氏

「消費者が意図せずに不利な判断や意思決定をしてしまう仕組み」がダークパターン

そもそも、「ダークパターン」とは何でしょうか。ダークパターンとは、消費者が意図せずに不利な判断や意思決定をしてしまう仕組みのWebサイトやアプリのデザインなどを指します。

例えば、消費者がホテルの予約サイトを見ている際に「今この部屋を見ている人が30人います」と表示され、その「今」がいつなのか明示されていないとします。この場合、ユーザーは閲覧者が多い部屋なら人気があると考え、早く予約したほうがいいと消費行動を焦る可能性があります。しかし、そのサイトがいう「今」がリアルタイムで30人のユーザーがその部屋の情報を見ているという意味ではなく、直近24時間のうちにその部屋の情報を見た人が30人いたという意味だったらどうでしょう。それくらいなら、焦って予約するほどでもないから他の部屋も検討しよう……となるかもしれません。「今」という言葉の意味を曖昧にすることで消費者を焦らせる、これがひとつのダークパターンです。

また、消費者がサービスを解約しようとしたとき、解約のボタンが見つかりにくい場所に設置されていて解約をあきらめてしまうといったパターンもあります。ショッピングサイトで商品を見る際に、ただ買い物をしたいだけなのに会員登録して個人情報の入力を強制するというのもダークパターンに含まれます。

ダークパターンによって、消費者が本来行いたくない消費行動をさせられたり、金銭を失ったり、個人情報を供出せざるを得ない事態に陥いったりしてしまうわけです。

ダークパターンは消費者に不利益となるだけではありません。ダークパターンを利用せずに事業を行っている事業者にとっても、ダークパターンを使っている競合の事業者が売り上げを伸ばしてしまい、市場のシェアを奪われてしまうという問題を抱えています。

「消費者が正しい判断ができるよう、企業側に誠実な対応を促す」という協会設立の理由

ダークパターン対策協会はインターネットイニシアティブ(IIJ)が中心となって活動してきた「Webの同意を考えようプロジェクト」が発展的解消をする形で設立されました。

30年以上に渡って日本のインターネットサービスプロバイダーとしてインフラを支えてきたインターネットイニシアティブは、Webでの「同意」についての問題意識を常々持っていました。形骸化した同意や、何度も同意させられることで起こる「同意疲れ」など、同意に関する問題に注目し、同プロジェクトで掘り下げていきました。

そして、同意に関する問題を掘り下げていく中で、前述のようなダークパターンが横行していることに気づきます。

Webの同意において、「適切な情報提供が行われて同意を取る確認をする手続きを踏んでいく」というのは、まったく問題がないケースです。そしてその対極に、「明らかに法令違反というような消費者を騙そうとする欺瞞的な行為」があります。しかし、その間には、法令には違反していないが消費者の正しい選択行為を妨げるような「グレーゾーン」が存在します。ダークパターン対策協会の活動はこの「グレーゾーン」に対するものになります。

「問題なし」と「問題あり」の間のグレーゾーンでダークパターンは用いられます

このグレーゾーンには、「情報提供不足・不親切な拒否手順」「同意疲れ」「ダークパターン」といった異なる問題が含まれます。「情報提供不足」というのは、例えば同意を撤回したい場合に拒否しづらいようなケース。このようにグレーゾーンに生じる問題は必ずしもダークパターンによるものだけではありませんが、協会が「ダークパターン」を名称に入れているのは、直接的な金銭的被害や心理的に嫌な思いをする消費者被害のほとんどがダークパターンに起因するものであるためだといいます。

協会の代表理事を務めることになった小川晋平氏(インターネットイニシアティブ ビジネスリスクコンサルティング本部長/日本DPO協会理事)は、「グレーゾーンでは消費者が正しい選択を行えない恐れがあります。総称してダークパターンと呼んでいますが、このダークパターンについて、きちんと消費者が正しい選択判断ができるように、企業側に誠実な対応を促す。そういった民間主導の仕組みが必要なんだろうと考えました」と、ダークパターン対策協会の設立経緯について説明しました。

ダークパターン対策協会 代表理事 小川晋平氏

Webの同意を考えようプロジェクトはIIJ中心のプロジェクトでしたが、ダークパターン対策協会では、「誠実なWebサイトを認定する制度」の制定を視野に入れています。この制度は、中立な第三者によって構築/運営していく必要があることから、同プロジェクトは発展的解消とし、その活動をダークパターン対策協会に引き継ぐことになりました。

ダークパターン対策協会の代表理事はIIJの小川晋平氏。理事は、消費者保護に関する法律を研究してきた龍谷大学教授のカライスコス アントニオス氏、同じくその分野に強い森・濱田松本法律事務所のパートナーである弁護士の岡田淳氏、消費者の声を代表する公益社団法人全国消費生活相談員協会 理事長の増田悦子氏、以前よりダークパターンについて警鐘を鳴らしてきた株式会社コンセント代表取締役/武蔵野美術大学教授の長谷川敦士氏というメンバー。さらに顧問には東京海上ホールディングス顧問/元デジタル庁デジタル審議官の赤石浩一氏が就任。消費者庁/総務省/個人情報保護委員会/経済産業省との協力体制も用意し、有識者や企業、メディアとも連携します。協会の認定制度は2025年7月から運用開始の予定で準備を進めています。

国内の企業/省庁/メディアとの連携も行います

誠実なWebサイトにダークパターン対策協会の認定ロゴを付与

小川氏に続いては、理事に就任するカライスコス氏が登壇。同氏からはWebの同意を考えようプロジェクトが行ったアンケート調査が紹介されました。

その調査によれば、消費者の86.2%がなんらかのダークパターンを経験しており、89.4%はダークパターンを使う企業から商品・サービスを購入することに抵抗があると答えています。また、消費者の30.2%が過去1年の間にダークパターンによる金銭的被害を受けています。Webの同意を考えようプロジェクトでは、年間の被害額を1兆500億円強から1兆7,000億円弱の間と推定しています。

「ダークパターン対策協会は、消費者が正しい選択を行えるように、ウェブサイトの審査を行い、認定ロゴを掲示することで、安心して使えるウェブサイトの目安を提供することを目的としています。これにより、誠実なウェブサイトが増えることを期待しており、きちんと対応している企業が消費者から選ばれ、結果としてダークパターンのような消費者被害をもたらすウェブサイトが減り、消費者被害が減っていくことを目指しています」とカライスコス氏は話しました。

理事に就任するカライスコス アントニオス氏

認定制度は、現在仮称で「非ダークパターン認定(Non-Deceptive Design Accreditation:通称NDD認定)」としています。ダークパターン対策協会では現在Webサイトを準備中で、11月から正会員を募集します。正会員としては法人・団体のみが加入でき、個人会員は募集しません。年会費は5万円ですが、資本金が1億円以下などの条件に当てはまる中小企業については年会費が1万円になります。

企業はガイドラインに付随するチェックリストに従って自己審査を行い、問題がなければ審査の申し込みを一般社団法人に対して行います。ダークパターン対策協会の試験に合格した認定審査員が申し込みのあった企業のWebサイトを審査し、合格した場合には協会の本部である企業審査局による最終審査が行われます。その審査に合格すると、NDD認定が付与されます。

NDD認定が付与されたら、ロゴマークをWebサイトに設置できます。ロゴマークのサーバーは一般社団法人側で管理をし、容易に改竄できないようにする予定とのこと。もしNDD認定を取ったのちにダークパターンに類するインターフェースを用いた場合は是正勧告を行い、一定期間内に是正措置が取られなければ認定を取り消します。その場合、一定期間は認定を再取得できなくなる制度になります。ダークパターン通報窓口も設置する予定です。

この審査制度やガイドライン、ロゴマークも含めて2025年1月初旬を目処に完成させ、公表する予定です。ガイドラインのバージョン1は外形的に分かりやすく、裾野の広い分野ということで、クッキーバナーなどの情報開示を中心としたものにする予定になっています。

北島康介氏もダークパターンの被害額に驚き

両氏のプレゼンテーションに続いては、有識者によるトークショーが行われました。参加した内閣官房 内閣審議官/消費者庁 消費者法制総括官 新未来創造戦略本部次長の黒木 理恵氏は、「ぜひこの制度を通じて、日本の消費者がデジタル空間で安心して安全に取引ができるように、あるいはもっと積極的に自信を持って利用できるように期待しています」と語っていました。

さらにゲストとして、元水泳選手の北島康介氏が登場。北島氏はダークパターンのクイズにチャレンジし、前述のダークパターンの被害額など、日本がおかれている現状に驚いていました。

ダークパターンの被害額に驚く北島康介氏

北島氏は、「ダークパターンという言葉もよく理解できていませんでしたが、ダークパターンの事例を知ることができる良い機会をいただけました。こうした協会ができることで、消費者が安心できるような場が広がっていくのは非常にいいことだと思います」と、消費者目線での対策の必要性を話しました。

日本では、ダークパターンを規制するための法整備があまり進んでいません。欧米では、新たな法の制定、以前からある法のダークパターンへの適用という両輪で、法整備が進められています。コロナ禍を経てネットショッピングが浸透した今、あらゆる年代がネットを通じた契約を行っており、成人になりたての10代がダークパターンにより高額なローンを組んでしまう被害も出ています。消費者ひとりひとりの注意も必要ですが、今回設立されたダークパターン対策協会が行う取り組みなどにより、事業者全体の意識が少しずつ変化していくかもしれません。