宇宙で太陽光発電して電力を地球へ。そんなことできるの?
米Gizmodo編集部が、今、注目する科学プロジェクトの1つがこれ。
宇宙空間で直接太陽光エネルギーを収集し、それを地球に送ろうという壮大なアイディア。
SF世界では見たことがあるようなこのアイデアは、何も真新しいものではありません。ただ、コストや技術的面から実現は不可能だと思われていました。が、そこにチャレンジしているのがカリフォルニア工科大学研究チーム。Space Solar Power Project(SSPP)プロジェクトです。
ほぼ夢物語と思われたこのアイデアが、今、前進しつつあります。成功すれば、膨大なクリーン太陽エネルギーを得ることができるうえ、エネルギー収集は季節にも時間(夜)にも左右されることはありません。
このプロジェクトを実現するには以下の4つの課題を解決しなければなりません。
地球軌道上に浮かぶソーラーパネルステーションから、太陽光エネルギーを効率的かつ経済的に収集することは可能なのか?収集できたとして、それを地球に送ることはできるか?宇宙拠点のソーラーパワーステーションは、地上(地球)のそれよりも継続的かつ信頼のおけるエネルギー源となり得るか?立地、夜間、天候といった地上における課題を解決することができる存在になるか?実験の3本柱
カリフォルニア工科大学が開発する実験機Space Solar Power Demonstrator-1(SSPD-1)は、宇宙拠点のソーラーパワーステーションとして大きな1歩を踏み出しました。まだその歩みはわずかですが、概念実証によってより大きなゴールが見えてきそうな気配があります。
2023年1月、SSPD-1はファルコンロケット9によって宇宙へ打ち上げられました。ミッションは、地球軌道上で太陽エネルギーを収集すること。そして、それを宇宙空間内で、また地球へと送信すること。同時に実際に宇宙空間で太陽光パネルを展開するその構造のメカニズムもテストされ、革新的ソーラー技術を試すいいチャンスともなりました。
結論からいうと、SSPD-1による実験は、宇宙空間でソーラーエネルギーを収集し、マイクロ波で地球に送り活用することができるかを実証する1歩となりました。
プロジェクトの肝となったのは3つのパーツ、DOLCE、ALBA、そしてMAPLE。DOLCEはソーラーパネルと電力送信機のプラットフォームを展開する折りたたみの構造。ALBAはソーラーエネルギー収集を担当する箇所。そして、MAPLEはワイヤレス送電を担います。この3つは、プロジェクトが大型するためには必要不可欠な基本要素です。
DOLCEは6フィート×6フィートの構造で、打ち上げ後、折りたたまれていた体が広がります。宇宙ソーラーエネルギー収集所として、この構造(折りたたみからの展開)を大型で作り出せるのは必須条件。プロジェクトチームの主要人物、カリフォルニア工科大の電気工学者であるAli Hajimiri氏いわく、折りたたんだり開いたりできて、簡単に宇宙で展開できるものがあると、DOLCEで示せたといいます
ALBAのパーツは、宇宙におけるさまざまな太陽電池の効率性をテスト。32種類の電池が実験され、中には今まで宇宙では使用されたことがなかったものもありました。ALBAの実験によって、宇宙運用という状況で最も適切(効率的)な太陽電池を特定することができたのは、構想実現にはなくてはならない条件。このデータは、これからのプロジェクトにおいても太陽エネルギー生産最適化の生命線となるでしょう。
MAPLEは、宇宙空間におけるワイヤレス送電の実現性(軌道上だけでなく、地球の受信機への送電も含む)を実証。実験には、マイクロ波送電機のフレキシブルな組み方も含まれ、コスパのいいシリコン技術を活用する可能性も示唆されました。構想実現に必須な宇宙空間での送電が可能であることがMAPLEによって提示されました。
部品レベルでのブレイクスルーが必要
宇宙拠点のソーラーパワーステーションというコンセプトは古くからあり、SF作家アイザック・アシモフによる1941年の短編『Reason』(短編集『われはロボット』に収録)にも登場しています。専門家は、このアイデアの実現可能性について何十年もディスカッションしつつも、SFのお話の域を出ることは今までありませんでした。それでも、宇宙拠点ソーラーパワーステーションという魅力的なアイデアを諦め切れるはずはなく…。
初期コンセプトでは、巨大かつ重たい構造物が必要なうえ、宇宙空間でのパーツ製造が必須と思われていました。もちろん、打ち上げキャパシティを考えても、それは今も昔も不可能な話。また、宇宙空間でエネルギーを収集できたとしても、巨大構造物を作り出すコストには見合わない=赤字コンセプトだと思われていたと、プロジェクト主要メンバーでカリフォルニア工科大学の材料工学者Harry Atwater氏は解説します。
実は、宇宙でのソーラーパネルなら、国際宇宙ステーションですでに使用されてます。が、プロジェクトチームの構想は、エネルギーを地球に送るところまで含まれています。これはつまり、コンパクトかつ軽量で、コスパもよく、打ち上げ&宇宙での展開にも対応できる太陽エネルギー送電システムを開発しなければいけないということ。
よりグローバルな使用を視野にいれた進化版宇宙拠点ソーラーパワーステーションを作るには、軽量素材を用いたワイヤレス送電機の宇宙での使用実証は、絶対的に必要なステップなのです。
Atwater氏いわく、プロジェクトチームは、超軽量・低コスト・フレキシブルなパーツを作ることで、技術を部品レベルからブレイクスルーし、大規模展開かつ経済的な宇宙拠点ソーラーパワーステーションのビジョンを理解していきたい方針だといいます。
挑戦や失敗がなければ、学びもない
DOLCE・ALBA・MAPLEによるブレイクスルーは、宇宙拠点ソーラーパネルステーションの大きな飛躍となりました。実験では、折りたたみパネルの展開における不備の対応含め、多くの課題・困難を乗り越えることができました。
「宇宙を飛ぶ機体と交信し、データをダウンロードできるまでの道のりは、とても簡単とはいえませんでした。何かを動かすのに数カ月かかったこともありましたし、最後の最後までさまざまな問題が発生しました。とはいえ、ミッションの主な部分は成功です。どう対応すればいいかがわかったんですからね。挑戦も問題もちょっとした失敗もなければ、多くを学ぶこともありません」と語るHajimiri氏。
太陽電池技術の前進と宇宙空間でのワイヤレス送電機デモの成功は、コンセプト実現の根幹となります。地球に送電できたエネルギー量はわずかではあったものの、Atwater氏いわく「ほら、できた!」というには十分だとのこと。
技術的革新だけでなく、人道的かつ環境面からも検討すべきことは多くあります。宇宙拠点ソーラーパワーステーションが実現すれば、無制限なクリーンエネルギーを得ることができ、それは化石燃料の使用大幅削減を意味するからです。
チームが提案するシステムは安全面も考慮。自然な物理学における制限範囲に収まるようデザインされており、送信するエネルギーは一定量を超えないようにできています。したがって、システムが設備をオーバーヒートしたり、電子機器に干渉したり、ひいては生物に有害となることはありません。
また、送電に採用されている微力マイクロ波は主に熱を生成するので、太陽放射よりも安全とのこと。懸念すべき問題(人間、動物、電気機器への影響)は、高エネルギーの放射線によって起こり得ますが、低エネルギーのマイクロ波には有害となる影響はないそうです。また、システムにはそもそもAIを駆使したインテリジェンス制御が搭載されており、例えば送電路に障害物が発生するなど、イレギュラーな状況にも対応できる作りになっているとのこと。
今後の展望
カリフォルニア工科大学プロジェクトチームの今後の展望は、まずSSPD-1のような機体を隊列として打ち上げること。太陽光を浴び、それを電気に変え、そしてマイクロ波で地球に送ること。
計画通りに進めば、地球の特定箇所に直接エネルギーを送ることもできるといいます。長距離送電も可能な想定で、ともなれば、現状電力供給が不安定なエリアにも送電することができることになります。このシステムのメリットの1つに、受信側には大規模設備がいらないという点があります。
地上には、当然マイクロ波受信システムが必要ですが、その設置は簡単なうえ、軽量かつシンプルな作りが魅力。宇宙からのエネルギーを受け取るだけでなく、例えば自然災害や戦地など、電力供給が困難なエリアへの送電に活用できる可能性もあります。
将来的には、大規模な宇宙拠点ソーラーパワーステーションを(可能であれば対地同期軌道上に)設置し、莫大な量のエネルギーを作り出すことが目標です。
石炭や原子力のエネルギーなど、現在の地球の電力所で継続的に生産できるのは、500メガワットから1ギガワットほど。これが、宇宙拠点ソーラーパワーステーションになれば、特定箇所に10メガワットから50メガワットほどの提供が可能。また、送電網の統合によっては、産業界向けにに少なくとも数百メガワットの提供ができる状態を目指しています。
プロジェクトチーム
プロジェクトを率いるのは、カリフォルニア工科大学の3人の教授。 材料工学者のHarry Atwater氏、電気工学者のAli Hajimiri氏、そして航空宇宙工学者のSergio Pellegrino氏。専門分野が異なる3人が集結することで、航空宇宙工学、物理学、電気工学の各専門家をチームに引っ張ってくることができました。
また、Hajimiri氏はいわく、ポスドク研究員、研究員、大学院生、一部の大学生も多く参加し、さまざまなタスクに協力してくれたといいます。