ついに出た"3つ折り"に触れて感じたスマホの未来
世界初の三つ折りスマホ。一見すると普通のスマホに見える(筆者撮影)
中国では、ある最新スマートフォンが熱い注目を浴びている。それはiPhone 16ではなく、ファーウェイが9月20日に発売した世界初の3つ折りスマートフォン「HUAWEI Mate XT Ultimate Design」(以下「Mate XT」)だ。
Mate XTは9月10日の製品発表後から大きな話題を集め、1万9999元(約41万円)と高価にもかかわらず、事前予約台数は実に600万台を超えた。中国のファーウェイストア各店舗では発表後から実機の体験会が始まったが連日満員。筆者は発売前々日にようやく実機に触ることができた。
アップル以外の大手メーカーの全社が販売
ディスプレイを折り曲げることのできるスマートフォンはすでに各社から登場しており、アップル以外の大手メーカー全社が何らかのモデルを販売している。
本体を横に折り曲げるタイプのモデルは「閉じればスマホ、開けば小型タブレット」と1台2役をこなすことができ、日本でもサムスンやグーグルが販売している。普及率はまだ低く、TrendForceによると2023年の折りたたみスマートフォン全出荷台数は1590万台と、これはすべてのスマートフォンの出荷台数の1%程度に過ぎない。
とはいえ、折りたたみスマートフォンは各社20万円以上のモデルを投入するプレミアム価格帯の製品として戦略上、重要な存在だ。スマートフォンのカメラ性能の進化は著しいものの、最近ではミドルレンジクラスのモデルでも必要十分な画質を備えている。
2024年は各社が「AI」を掲げたモデルを投入しているが、AIが生活を大きく変えてくれるほど便利な存在になるにはまだ数年かかる。カメラ性能やAI機能で高価なスマートフォンを売るのは難しくなってきたというのが実情だ。
折りたたみスマートフォンは従来のスマートフォンにはない「大画面」が特徴だ。ファーウェイの3つ折りモデルに実際に触れると、これまでの2つ折りとは全く別物と思えるほど、新しい体験だった。3つ折りスマートフォンは折りたたみ先駆者であるサムスンですらやれておらず、アップルは2つ折りすら実現していない。このような製品を早く製品化したファーウェイは、自社の技術力を新ためて世間に知らしめたと言える。
ファーウェイ「Mate XT」の実機に(おそらく日本人で最初に?)やっと触れることができた(筆者撮影)
タブレットを手のひらに持てる不思議な感覚
3つ折りスマートフォンの最大のメリットは、普段は普通のスマートフォンとして使いながら、本体を開けば大きな画面を使えることだ。
2つ折りのモデルは開けば左右にスマートフォンの画面が並んだ大きさであり、正方形に近い8インチ程度に変形する。これが3つ折りスマートフォンならば完全に開くと10インチを超える長方形サイズになる。この大きさは普通のタブレットと同じであり、違和感なくPC代わりに使うこともできるのだ。
Mate XTは折りたたんだときの大きさが156.7(高)x73.5(幅)x12.8(厚)mmとなる。縦横のサイズは一般的なスマートフォンと変わらず、若干厚みがあるものの大型ケースをつけたスマートフォンと変わらないだろう。実際に手に持ってみると厚さもあまり感じられなかった。
ただし重量は298gとやや重い。画面サイズは6.4インチ、縦横比は20:9なので操作性も普通のスマートフォンと同等だ。Mate XTを閉じた状態で渡されたら、誰もがただのスマートフォンと思うに違いない。
ついに中国で発売された世界初の3つ折りスマホ(筆者撮影)
Mate XTは1枚のディスプレイを「Z字」に折り曲げる構造になっている。つまりディスプレイのヒンジは1ヵ所が“山折り”に、もう1ヵ所は“谷折り”になる。
現在、販売されている2つ折りスマートフォンのほぼすべてがディスプレイを谷折りにする構造だが、ファーウェイは山折り、谷折り2タイプの折りたたみスマートフォンを販売してきた。Mate XTはその2つのタイプの画面を1枚につなげたようなものであり、過去の経験があったからこそ3つ折りスマートフォンの商用化にいち早く到達できたのだろう。
なお、Mate XTの3つ折りディスプレイは中国の大手ディスプレイメーカー、BOEと共同開発したものだ。実はサムスンディスプレイも3つ折りディスプレイ「Flex S」を先に完成させており、試作品を展示会などで積極的に見せてきた。
だが、3つ折りスマートフォンの商用化では中国メーカー連合が一気にサムスンを追い抜いてしまった。2つ折りスマートフォンの薄型競争でもサムスンは中国メーカーの後塵を拝しており、この市場はこれから中国勢がけん引していくことになるかもしれない。
タブレットをいつでも持ち運べる利便性
Mate XTは前述したようにZ型、2段階に折りたたまれている。まずディスプレイを左に開くと2つ折りスマートフォンと同様の正方形サイズになる。
このときの画面サイズは7.9インチで、サムスンやグーグルの折りたたみモデルを開いたときとほぼ同じ大きさになる。2つのアプリを左右に並べて使ったり、動画を撮るときに大きな画面でプレビューしながら撮影するといった便利な使い方が可能だ。
そしてもう1段階開くと10.2インチの大きな画面サイズとなる。縦横比は16:11の横長であり、一般的なタブレットとほぼ同じ形状だ。市販されている10インチから12インチクラスのタブレットはカバンへの収納もよく持ち運びに適した大きさだが、片手で持ってそのまま街中を歩こうとは思わないだろう。
だがMate XTならカフェやオフィスでディスプレイを開き、ワイヤレスキーボードを接続して仕事を行い、終わった後は本体を折りたためば片手で持ち運ぶことができる。なお一緒に持ち運ぶキーボードも折りたたみ式がいいだろう。実はファーウェイストアではMate XTの展示のすぐ横で折りたたみ式キーボードもしっかりと販売されている。
このように3つ折りスマートフォンの最大の特徴は「タブレットをどこにでも持ち運べる」ことであり、これは2つ折りスマートフォンでは得られない体験だ。Mate XTをしばらく使ってみると、2つ折りスマートフォンが中途半端な存在に思えてしまうほどだった。
10.2インチの画面いっぱいにスプレッドシートを広げれば業務も捗るし、動画を再生すれば迫力ある映像が飛び込んでくる。2つのアプリを開くときも、片方は正方形サイズ、もう片方はスマートフォンサイズと余裕ある表示が可能であり、これも2つ折りスマートフォンではできない芸当だ。
折りたたみスマートフォンが市場に登場したのは2018年だったが、それから6年が過ぎ「ようやく使い物になる折りたたみスマートフォン」が実用化された、Mate XTからはそのような印象を受けた。
ただし価格の高さは購入の大きなネックだ。他メーカーの参入やディスプレイコストの低減などにより、現行の2つ折りスマートフォンと同様の20万円台程度まで価格が下がれば普及は一気に進むかもしれない。
2つのアプリの同時利用も実用的だ(筆者撮影)
中国1位メーカーの底力はアップルも及ばない
数年前までの中国市場を見ると、ファーウェイはスマートフォン出荷量で堂々のシェア1位だった。通信性能、カメラ性能、OS機能、本体の仕上げなど、ファーウェイのスマートフォンはあらゆる点で他社品を上回っていたのだ。日本でファーウェイのスマートフォンを過去に使っていた人なら、これに異論を唱える人はいないだろう。
だが、2019年にアメリカ総務省からの制裁を受け、ファーウェイはスマートフォンの開発・生産に急ブレーキがかかった。シェアは1桁台まで下落し、ファーウェイの抜けた穴を中国他社とアップルが奪い合う情況になったのだ。その結果2023年は僅差でアップルがシェア1位に上り詰めた。
しかし、ファーウェイはこの間もスマートフォン開発の手を緩めることはなく、虎視眈々と復活の日が来ることを目指した。2022年には世界初の物理的な絞り羽をカメラに搭載する「Mate 50」を、2023年には制裁を回避した自社開発チップセット搭載の「Mate 60」を投入。どちらも発売直後は入手困難になるほどの人気となった。特にMate 60はiPhone 15の登場時期とかぶったこともあり、アップルの販売数を下げたと言われている。
2024年は4月にレンズが沈胴する構造の「Pura 70 Ultra」を発表し、その後の動向に注目が集まった。そしてこの9月にMate XTが登場。発表は9月10日、発売は9月20日とiPhone 16に真っ向からぶつけてきたのは、ファーウェイの堂々たる自信の表れだ。
カメラボタンの搭載や、中国では使えないAI機能を売りとするiPhone 16が、世界初の3つ折りスマートフォンに話題性で勝ることは難しい。もちろんアップルには確固たるブランド力や強力なエコシステムがあるが、制裁前を見ればわかるように中国の消費者はもともとアップルよりファーウェイの製品を好んで使っていたのだ。
iPhone 16のライバルとなるファーウェイのスマートフォンは、この冬に発売予定とされる「Mate 70」(仮称)だろう。3つ折りモデルのMate XTはアップルだけではなく他社を見ても比較できるモデルはなく、ファーウェイ唯一無二の至高の製品なのである。
ファーウェイはこのMate XTを2025年からグローバル市場にも投入予定だ。数年で存在感を一気に失ったファーウェイだが、3つ折りスマートフォンを引っ提げて中国市場のみならずグローバル市場でも復活の狼煙を上げようとしているのだ。
3つ折り旋風でファーウェイ復活を感じた(筆者撮影)
(山根 康宏 : 携帯電話研究家・ジャーナリスト)