高齢になると、行動力や情報収集能力が落ちていくもの。「お金をうまく、有効に使う」ためには、若いうちから事前の準備が重要です(写真:C-geo/PIXTA)

結婚しても子どもをもたない夫婦、いわゆる「おふたりさま」が増えている。

共働きが多く経済的に豊か、仲よし夫婦が多いなどのメリットはあるものの、一方で「老後に頼れる子どもがいない」という不安や心配がある。

そんな「おふたりさまの老後」の盲点を明らかにし、不安や心配ごとをクリアしようと上梓されたのが『「おふたりさまの老後」は準備が10割』だ。

著者は「相続と供養に精通する終活の専門家」として多くの人の終活サポートを経験してきた松尾拓也氏。北海道で墓石店を営むかたわら、行政書士、ファイナンシャル・プランナー、家族信託専門士、相続診断士など、さまざまな資格をもつ。

その松尾氏が、老後に多すぎる金融資産を残しながら、お金をうまく使えないケースについて解説する。

数年前、お墓の相談をしてきた人が今度は…

墓石・仏壇店の経営、そして広く終活サポートをしている私のもとには、さまざまな相談が寄せられます。


今回はそんな中から「老後とお金」について深く考えさせられるケースを紹介しましょう。

以前、Gさんという方から墓石の注文を承ったことがあります。

いくつかの墓石を提案しましたが、Gさんが選んだのは低価格のラインの墓石でした。

もちろん、安い墓石だから悪いというわけではありません。

お客さまの経済事情やお墓に対する価値観に合うものがベストだと思っていますから、Gさんの希望通りのお墓をプロデュースさせていただきました。

そして数年がたち、再びGさんから連絡がありました。

「そろそろお金の整理をして、遺言などの準備をしたい」とのこと。

Gさんは70代後半で、奥さんと2人暮らし。お子さんは遠く離れて暮らしているため、老後の生活設計や亡くなったあとのお金について考えておきたいのだそうです。

私に行政書士やファイナンシャル・プランナー資格があることから、墓石のご縁もあって相談してくださったのです。

そこでGさんのお宅に伺ってみたのですが……、「驚くこと」ばかりでした。

ご自宅は築50年の古い家屋で、リフォームなども一切していない様子です。

玄関ドアなどもガタついて、スムーズな開閉もままならないほどです。

また、車についても、かなり年式の古いものを大事に乗っていらっしゃる様子でした。

服装などを見ても、Gさんはとても質素な暮らしをしているようです。

正直に言えば、「整理するほどの資産があるのだろうか……」というのが私の気持ちでした。

まずは資産状況を把握しようと、Gさんに預金通帳や保険証書など、金融資産についての書類を見せてもらうことにしました。

「4000万円の金融資産」と「十分な年金」

驚いたことに、Gさんご夫婦は4000万円もの金融資産をおもちでした。

「自分たちには大した財産などないから、贅沢はしない。先のことを考えると、お金を残しておかないと不安」というのです。

Gさんには年金収入もあり、これだけの資産があるなら、もっともっと快適な生活ができるはずです。

しかも年金収入でふだんの生活費を賄えているため、老後資金が目減りするどころか、長生きすればするほど資産が増える状態でした。

資産をご自分たちのために有効に使おうと望めば、家のリフォーム(バリアフリー含む)も、安全性の高い車も、生活のサポートサービスも手に入れられるのに……。

さらにご本人たちが望むなら、快適なサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)への入居も可能です。

私はGさんの希望通り、遺言の準備、……など、さまざまなサポートをさせていただきました。

なかには「1億円近い資産」をもつ人も

じつは、終活のサポート業務をしていると、Gさんのような例にたくさん遭遇します。

なかには、Gさんのように質素な暮らしをしながら、1億円近いお金をもっている人もいらっしゃるのですから驚いてしまいます。

多くの高齢者は、お手持ちの資産や、収入と支出とのバランスなどについて見える化できていません。

そのため、私から見ると根拠のない不安に駆られているケースが多いように思います。

・これからの生活に必要なお金がよくわからない
・生活を快適にする術がよくわからない
・誰に相談していいかわからない

という人も多いようです。

お子さんが近くにいらっしゃれば、子どもからのアドバイスなどもあるでしょう。

しかし、子どものいない人、子どもと疎遠になっている人、子どもが遠方住まいの人は、資産と生活のバランスがうまくとれなくなってしまうケースが多いように思います。

ただ、どうしても高齢になると、行動力や情報収集能力が落ちていくもの。

「元気なうちに」準備しておくことがカギになる

「お金をうまく、有効に使う」ためには、若いうちから事前の準備が重要です。

簡単にいえば、

・元気なうちに情報収集に努める
・自分の資産状況を見極め、老後の資金計画を立てて使えるお金を把握しておく

ことがとても大切です。

誰かに相談したい場合は、地元の士業(税理士、司法書士、行政書士)やファイナンシャル・プランナーなど、信頼できて、気軽に相談できる相手をつくっておくことをおすすめします。

せっかく一生懸命働いてためたお金なのですから、ご自身のために、ご自身のQOL(生活の質)を上げるために使っていただきたいと、心から感じます。

(松尾 拓也 : 行政書士、ファイナンシャル・プランナー、相続と供養に精通する終活の専門家)