小泉進次郎元環境相(写真:時事)

岸田文雄首相の総裁選不出馬宣言で一気に本格化した次期総裁争いで、小泉進次郎元環境相(43)の動向が、自民党内だけでなく国民レベルで注目の的だ。今回の総裁選は石破茂元幹事長(67)ら60代の「常連組」と、世代交代を求める党内若手の支持で19日に先頭を切って出馬表明した小林鷹之前経済安保相(49)と小泉氏の「40代コンビ」の闘いが想定されており、特に石破氏に比肩する国民的人気を誇る小泉氏の出馬が、「大乱戦の最大の見どころ」(政治ジャーナリスト)とみられているからだ。

出馬を目指すメンバーをみると、今回で5度目の挑戦となる石破氏に加え、3度目の河野太郎デジタル担当相(61)、いずれも2度目の高市早苗経済安保相(63)、野田聖子元総務相(63)、林芳正官房長官(63)が、いわば「常連組」。その一方で、同じ60代でも茂木敏充幹事長(68)斎藤健経済産業相(65)は、小林・小泉両氏と同じ初舞台となる。

その中で、父親の純一郎・元首相の国民的人気を受け継ぎ、誰もが認める「未来の首相候補ナンバーワン」とみられてきた小泉氏がどのような決断をするかが、「総裁選の戦いの構図を決める」(政治ジャーナリスト)のは間違いない。ただ、父の兄貴分だった森喜朗元首相や、小泉氏の後見役とみられてきた菅義偉前首相が、それぞれの立場と思惑から小泉氏担ぎ出しを画策しているとされるため、小泉氏に期待する若手の間では「それに追従するようでは、改革イメージが後退する」との不安も広がる。

森氏は「絶対に進次郎」と父を説得

まず森氏の動きだが、巨大派閥で権勢を誇った旧安倍派の「陰の領袖」とされた同氏が、「ポスト岸田」レースでの小泉氏担ぎ出しを画策し始めたのは、7月中旬の父・純一郎氏、中川秀直元官房長官、ジャーナリストの田原総一朗氏との会食がきっかけ。

この席で「絶対に進次郎がいい」と、純一郎氏を説得し、「50歳になるまでは出馬すべきではない」と公言してきた同氏も「そこまで言われるなら反対しない」と応じたとされる。会食でのやり取りは、8月2日に首相官邸で岸田首相と会談した田原氏が、そのあと記者団に説明したことで表面化した。

これまで旧安倍派への影響力を背景に、岸田首相の「相談役」を買って出ていた森氏の豹変は「権力の源泉だった旧安倍派が、裏金事件でバラバラとなり、このまま総裁選に突入すれば他陣営の“草刈り場”と化し、自らの影響力も消滅してしまうことへの危機感から」(周辺)とみられている。そこで森氏は、「40人でも50人でもいいから、旧安倍派を塊として維持したい。そのためには旧安倍派の総裁候補として進次郎氏を担ぐしかないと考えた」(政治ジャーナリスト)とされる。ただ、こうした森氏の動きには、党内から「老害批判」も相次ぐ。

さらに、「旧安倍派の議員たちが進次郎氏擁立でまとまるのか」(自民長老)という点も問題視されている。というのも「多くの議員は『反岸田』ではまとまるが、進次郎氏支持でまとまるとは思えない。支援する議員はいても、旧安倍派と無関係な形になるはず」(旧安倍派関係者)との見方が支配的だからだ。

「小泉」でキングメーカー争いの主導権狙う菅氏

その一方で、森氏も含めた党長老たちのキングメーカー争いの渦中にあるとされる菅氏も、同じ神奈川県選出で小泉氏の後見役を自任してきただけに、周辺にも「衆院選をにらめば、選択肢は小泉氏しかない」と漏らしているとされる。

そもそも菅氏は、「小泉、石破、河野のいわゆる『小石河トリオ』の後見役」(側近)だっただけに、「今回のように、トリオがそれぞれ総裁選出馬の意思を示した場合、誰を選ぶかでキングメーカーとしての“資格”が問われる」(政治ジャーナリスト)ことになる。だからこそ「自分より当選回数の多い石破氏、当選同期の河野氏より、若手が期待する43歳の小泉氏を担ぐことで、総裁選の主導権を握ろうとするはず」(同)との見方が広がる。

小泉氏は父の秘書を経て、自民党が政権を追われる惨敗を喫した2009年衆院選で初当選。その後、党青年局長や筆頭副幹事長などを経て、38歳だった2019年に第2次安倍政権の環境相として初入閣し、後継の菅政権でも再任されて、「未来の首相候補」としての地位を固めた。もちろん、初当選時から抜群の知名度を誇ってきたこともあり、最近の各種世論調査の「次の首相にふさわしい政治家」でもトップスリーの常連だ。

「すべては自分で決めるのは当たり前」と強調

その小泉氏は8月9日収録のラジオNIKKEIのポッドキャスト番組で、「(父親には)仕事上の判断をいちいち仰がない。歩みを進めるも引くも自分で決めるのは当たり前」としたうえで「どういう総裁選になるべきかをさまざまな議員と意見交換する中で、(答えは)おのずと出てくる」と総裁選出馬の可否は自らが判断する考えを強調した。

小泉氏の父・純一郎氏が劇的な勝利を収めたのは2001年4月の総裁選。当時の森首相が失言や危機管理の不手際などで内閣支持率が10%を割り、退陣表明に追い込まれた際、森派(清和会)を離脱して総裁選に出馬した純一郎氏は、「自民党をぶっ壊す」と叫んで党員・党友だけでなく国民の心もわし掴みし、党員・党友らによる予備選で大勝して、3度目の挑戦で総裁の座を射止めた。

今回、岸田政権が、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や巨額裏金事件などで、強い逆風にさらされたことで、内閣支持率が「3割以下の危険水域」に低迷しつづけている政治状況は、当時の森政権とも重なる。しかも、来年夏には参院選が控え、来年10月には衆院議員の任期満了を迎えることから、「選挙の顔」として小泉氏に期待する声が高まるのは当然でもある。

だからこそ次期衆院選で苦戦が予想される自民議員達は「進次郎氏は、父親と同様に『自民党をぶっ壊す』くらいの気合を示して出馬してほしい」(旧安倍派若手)と期待するのだ。ただ、長年小泉氏を観察してきた永田町関係者からは「知名度だけで中身に乏しい」「環境相としてやったことはレジ袋の有料化ぐらいだが、これも概して不評だった」(有力議員秘書)などと厳しい評価も少なくない。

森、菅両氏の“手札”なら国民も失望

その小泉氏は18日、横浜市で会見し、総裁選出馬を求める声が相次いでいることについて「ありがたい。今後については真剣に考えて判断したい」と応じた。さらに岸田首相が退陣表明の際に、巨額裏金事件を受けた改革の取り組みを重視する考えを示したことについても「まったく同感だ。改革を逆戻りさせないことが非常に重要だ」と強調。「自民が本当に変わった姿を見せるうえでは、派閥解消が名ばかりでないと形を示すことが重要だ」との認識を示した。

ただ、小泉氏が出馬した場合でも「後見人が森氏か菅氏かという状況になれば、進次郎氏も旧世代の政治家とみなされ、国民レベルでの“小泉旋風再来”への期待は一気にしぼみかねない」(政治ジャーナリスト)との厳しい指摘も少なくない。それだけに、「“変人”を貫いた父親とは違い、当初から“優等生”として政治家人生を歩んできた小泉氏が、今回一気にその殻を破れるかが、総裁選での勝敗に直結する」(政治ジャーナリスト)ことは間違いなさそうだ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)