「お疲れさま」のねぎらいの言葉ひとつで関係性が変わることも(イラスト:かとうとおる)

こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。

パートナーの仕事内容や年収を見下したり、逆に卑屈になることもなく、お互いの仕事をリスペクトすることは、夫婦関係を円滑にするための大切なポイントです。

男性の場合、仕事を理由に家庭や子育てが二の次になったり、できることだけやればいいと思っている人もまだまだいます。しかし、相手にだけ家庭や子育てを押し付けたり、逆に自分だけが頑張らなくてはいけない状況は、パートナーへの不満につながります。また、「仕事があるから」「仕事だからしょうがない」と言えば許されるというのも、時代遅れな考え方といえます。夏休みを機会に、わが家にとっての仕事と家庭のバランスについて、夫婦できちんと話し合ってみるのはいかがでしょうか。

拙著『お父さんのための言いかえ図鑑:家族関係がすっきりポジティブに変わる』から、仕事にまつわる夫婦のコミュニケーションを一部抜粋・再編集してお伝えします。

仕事で疲れて帰ってきた夜、パート先の愚痴を妻から聞かされて

妻 パートの人手が足りなくて、すっごく忙しいの。もっと人を増やしてくれたらいいのに……。

夫 そんなに大変で嫌なら、やめればいいだろ。

NGワード
嫌なら、やめればいいだろ

言いかえてみよう
人手が足りなくて忙しいんだね

解決策より気持ちを受け止める

疲れて帰宅した早々、妻が仕事先の不満を語りだしたら、つい「そんなに嫌なら、やめればいいじゃないか」と言いそうになりますよね。しかし、そう言われると、妻としては話を強制終了された気分に。とくにこのような状況で「ああしろ、こうしろ」と指示するのは、アドバイスにすらならず、妻に不快な気持ちが残るだけです。

もう一度、この会話を振り返ってみましょう。そうすると、夫の言葉の裏には「今、疲れているからその話は聞きたくない」という本心が見え隠れします。つまり、ここでいちばん問題なのは、夫の「言葉と気持ちが一致していない」ことです。実は人は、自分の本当に言いたいことがわからないまま、言葉を発することが少なくありません。しかし、コミュニケーションの基本は、「自分の本心をしっかり伝える」ということ。まずはその点をしっかり認識しましょう。

そもそも妻は、夫に解決策を示してもらいたいわけではありません。大変な状況を聞いてもらいたい、共感して受け止めてほしい。それが妻の本心です。ですから、まずは「忙しくて大変なんだね」と、妻の気持ちを受け止めること。妻の話をしっかり聞いたあとに、「そんなに辛いのであれば、やめるのもありだと思うよ」とアドバイスをするのは、もちろんありです。

もし、妻の話を聞く余裕がないのであれば、無理に聞く必要はありません。いったん受け止めの言葉を返したあと、「ごめんね。今日は疲れているから、今は詳しく聞けそうもないかな」と正直な気持ちを伝えてください。中途半端に聞き流したり、「時間のあるときにゆっくり聞くよ」などと、確約できない約束で先延ばしするのはおすすめしません。まずは受け止める、それから本心を言葉にすることを心がけましょう。

有給を取ってくれないかという妻に

妻 夏休みは沖縄に行きたいんだけど、もうちょっと有休取れないの?

夫 仕方ないだろ、メンバーとの兼ね合いで休めないんだから。働いているほうの身にもなってくれよ。

NGワード
働いているほうの身にもなってくれよ

言いかえてみよう
ごめん。メンバーとの兼ね合いで、これ以上休み取れないんだ

事実を伝えるのに喧嘩腰になる必要なし

夫がここで伝えたいのは、「休みが取れない」という事実です。しかし、「仕方ないだろう」「働いているほうの身にもなってくれ」など、相手を怒らせるような言い方をすることで、「話し合う余地なし」という緊張状態をつくり出しています。

仕事で忙しいところに休みの話をされて、イラつく気持ちはわからなくもありません。とはいえ、それを喧嘩腰で伝えてしまうと、妻も「仕事だからってなんでも偉そうに。家族のことはどうでもいいわけ?」とムキになって反論したくもなるでしょう。

休めないという事実は変わらないのですから、家族の希望を叶えられないことに対して、一言「ごめん」という言葉があると、妻の受け止め方も変わるはずです。そのあとは、妙な言い訳をしたり、高圧的になったりせず、淡々と休めない理由を話せばいいと思います。

もし、「8月の終わりでよければ」とか「沖縄は無理だけど、あと1日くらい休みを増やせるかも」など、代案があるなら、それをもとにベターな方法を一緒に探ってみましょう。

「働いているほうの身にもなってくれ」というフレーズも、気になります。「働いているほうが偉い」「稼ぎが上のほうが偉い」という感覚が隠れていませんか? それは夫婦間の経済的格差を、そのまま家庭内ヒエラルキーにスライドしているということ。

家事や子育ても立派な家庭の仕事ですし、夫婦は運命共同体です。お互いが対等な立場で、協力して家庭を運営していることを忘れないようにしたいですね。

仕事も家事も大変で疲れたと言う妻に

妻 今週は、仕事も学校の三者面談もあって、ほんと大変。疲れちゃったよ。

夫 僕なんか、残業ばっかりでもっと忙しいよ。

NGワード
僕なんか、もっと忙しいよ

言いかえてみよう
大変だったね、お疲れさま

愚痴は受け止めだけでOK。ねぎらいも忘れずに

「忙しい」「疲れた」と言うときは、それに対する相手からの反応を期待しているというよりも、ただただ口に出して言いたいだけの言葉であることがほとんどです。


それなのに、妻と競うようにして「僕なんかもっと大変だった」とアピールするのは、まったくの逆効果。どちらがより大変なのかという比較になってしまいます。

ただ愚痴りたかった妻の気持ちは宙に浮いてしまいます。それどころか、「自分アピールばっかり」と、夫に対してしらけてしまうかもしれません。

それよりも、まずは「そうか、大変だったね」と妻の愚痴を受け止めてあげましょう。それにプラスして「お疲れさま」と、ねぎらいの言葉をかけてあげられたらいいですね。

たった一言ですが、そう言ってもらえることに夫の思いやりを感じて、疲れたと愚痴りたい妻の気持ちも収まりそうです。

夫も忙しくて疲れているときは、「僕も忙しくて疲れたから、週末はふたりでのんびりしよう」と言って、ゆっくり過ごしてください。

パートナーとの関係は、日常生活はもとより、職業生活にも大きく影響します。ちょっとした言い回しで、ギスギスするのは避けたいところ。少しの配慮をもって対応することで、穏やかな関係性を育んでくださることを願っています。

世界平和は、家庭の平和から。


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(大野 萌子 : 日本メンタルアップ支援機構 代表理事)