「ムダ」な時間と思うかどうかは個人差があります(撮影:今井康一)

「やっぱりリアルで集まったほうがいいな」と言う上司は多い。

しかし、「ようやくコロナが収まったんだから、何もかもリアルで」と言っていると、「そんなムダには付き合っていられない」と反発する人も多いだろう。

若者だけではない。タイムパフォーマンス(タイパ)を気にする人は、とても増えているからだ。

一方、なんでもかんでもオンライン、デジタルを使って効率化すればいいかというと、そうでもない。そのほうが「ムダ」なこともあるのだ。

そこで今回は、上司が考えるムダと部下が考えるムダ。本当のムダと嘘のムダについて解説したい。

「ムダの法則」を意識しよう

「目的」よりも「手段」にフォーカスしたために、期待した成果が出づらくなることがある。私はこれを「ムダの法則」と名付けている。

わかりやすい例を紹介しよう。実際にあった話だ。

上司からの評価に納得できない若者が、同期の3人と飲みに行き「会社に貢献したくて努力しているつもりだが、なぜか上司にわかってもらえない。どうしたらいいのか」と相談した。

仲間思いの同期たちは親身になって相談に乗ったが、飲み会が終わるころこう言った。

「私たちに相談する前に、直接上司に聞いたら?」「上司と仲がいいよね? どうして上司に相談しないの?」

若者は「なぜ上司は自分を評価してくれないのか、その理由を知りたい」はずだ。そのためのベストな手段は上司に直接尋ねること。上司とは普段から仲がいい。上司からも「なんでも相談に乗るよ」と言われている。

なのに、「何となく気が進まない」という理由だけで、3人の同期に相談を持ち掛けている。この一連の動きは誰がどう見ても「ムダ」だ。目的よりも、手段にフォーカスしてしまっている。

先日もある企業で、「マーケットのデータが集まったから分析してくれ」と社長が指示したのに、「ちょうど来週から分析ツールが導入されることになっているので、そのツールが使えるまで少しお待ちください」と部長が答えていた。

私は呆れて「あれぐらいの分析なら、エクセルでできますよ」と横やりを入れた。実際にその分析ツールが使えるまでに要する時間は、少なく見積もっても3週間ほどかかる。

せっかくの最新ツールを使ってみたい気持ちはわかる。しかし社長は、できるだけ早くマーケット分析して販売戦略をスピーディに練り直したいのだ。ツールの導入を待つ時間は「ムダ」でしかない。

リアルに集まるかオンラインでいいか

一方、コミュニケーションのムダは、一筋縄ではいかない。

「こんなコミュニケーションのやり方はムダだ」と思う人もいれば、「実はこういうコミュニケーションこそが大事なんだ」と感じる人もいる。時代の変化によってコミュニケーションの方法が多様になっているからだ。

だからこそ、目的に合ったコミュニケーションの組み合わせが重要になる。

まず、情緒的な側面が強い目的(信頼関係を築く、維持する等)に対しては、リアルコミュニケーションを心がけよう。オンライン会議を使ってもいいが、必ず顔を表示させること。ベストはリアルに膝を突き合わせてコミュニケーションをとることだ。

代表的なケースを次に列挙しよう。

・新入社員が入社し、先輩や上司と関係を築き上げるとき
・営業が新規のお客様と関係を築いたり、維持したりしようとするとき
・組織を変えようとしてメンバー一人一人に、その目的を伝えるとき
・頑張った社員に労いの言葉をかけるとき
・やるべきことをやり切っていない部下に叱咤激励するとき
・退職前に、お世話になった先輩や上司に感謝の気持ちを伝えるとき

こういうときは何を話すか、何を伝えるかを考えるのは「ムダ」だ。話す内容はほとんど関係がない。伝えるべきは思いである。気持ちなのだ。

リアルで会えなければせめてオンライン会議で。それも難しければ、最低でも電話を使う。メールやチャットを使うのは「ムダ」だ。表情も声色も相手には伝わらないからだ。

反対に、機能的な側面が強い目的(情報伝達や質問、アイデアの確認等)に対しては、テキストコミュニケーションを心がけたほうがいい。メールやSlack、Chatworkなどのビジネスチャットをメインにコミュニケーションをとる。

代表的なケースを次に列挙しよう。

・部長会議で決まったことを部下に伝えるとき
・受講した研修の感想を報告するとき
・メンバーに新しい企画のアイデアを出してほしいとき
・作成した資料のフィードバックを伝える(求める)とき
・お客様に商品の差別化ポイントを案内するとき
・上司に商談の進捗状況を報告するとき

こういうときにリアルで会って話すのは「ムダ」以外の何物でもない。特にタイパを気にする若者は、相当に嫌がるだろう。たとえ電話であっても、相手の声色や本題以外の話に引っ張られる可能性がある。効率だけではなく「効果」も落ちるので、まったくお勧めできない。

「会議はF1レースのピットイン」

私が考える、最もムダなコミュニケーションは「報告会議」である。

労働環境の質的向上と、生産性アップを目指して、2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次、施行され、時間外労働の上限規制などが盛り込まれている。

にもかかわらず、いまだに多くの会社が「報告会議」を繰り返している。しかもリアルの会議室に集まって、である。

会議にかかるコストは、単に時間だけではない。その会議に参加するために前後のスケジュールを調整するコストが発生する。お客様との打ち合わせや、商品企画のアイデア発散など、連続性を求められる仕事を中断するのは大きな損失(コスト)だということを忘れてはいけない。

20年前から私は「会議はF1レースのピットインだ」と表現している。ピットインの時間はわずかでも、その前後に大きなコストを支払っている。ピットに寄るために減速しなければならないし、レースに対する集中力もいったん落とさなければならない。

会議を招集する側は意識しないだろうが、たった30分、1時間でも、リアルで招集することは、それ自体が大きなコストなのだ。

報告会議の効果は「1人あたりの報告内容伝達率」で推し量れる。会議の中で報告される事柄が、参加者全員にどこまで伝わっているか。会議後にテストしてみれば判明するはずだ。

私は実際に、複数の会社で出口調査をしたことがある。ほぼすべての参加者が、会議で報告されたことを50%以上覚えていなかった。

「覚えていないが、配られた会議資料を見れば思い出せる」、こう言われることもあった。それなら会議に参加せず資料だけもらえばいいではないか。

しかも報告会議に参加したら、「別の会議で言われた内容とほぼ同じだった」ということもある。重複する内容ならムダでしかない。

このような報告会議に参加しても、なんとも思わない人はマジメにレースを走っていないドライバーと同じだ。限られた時間しかないのに、イチイチ寄り道を強要されたら苛立つのが普通の感覚であるのに。

意識の高い若者が、このような「ムダ」な会議に参加させられたあげく、定時になったら「早く帰れよ」「残業されると、上司の私が叱られる」と言われ続けたらどうか?

やる気がなくなるか、組織に迎合して無気力になっていくかのどちらかだ。

意味があるのに「ムダ」と勘違い

反対に、意味があるのに「ムダ」と勘違いされているコミュニケーションも存在する。

私が考える最たる例はセレモニー目的のコミュニケーションだ。

わかりやすい例が「入社式」「決起集会」「方針発表会」「歓送迎会」「新しい部長からの挨拶」などだ。感染症の心配がないのなら、関係者全員がリアルで集まったほうがいい。

コストはかかるだろう。それでも「ムダ」ではない。オンラインで実施するほうが、よほどもったいない。

セレモニーや儀式といった類は、過去をリセットして未来に意識を向ける目的がある。情緒的な側面が強いため合理性、効率性を考えすぎてはいけない。

若い新入社員が「リアルの式典なんて意味がない」「オンラインで十分だ」と言っても、説得して参加してもらおう。新年度になって異動してきた社員を迎え入れるときも、組織メンバー全員で迎え入れるのだ。

そうすれば「自分はこの職場で必要とされている、頑張りたい」という気持ちになるだろう。言葉の中身よりも「期待されている空気」が心を動かす。

会議や1on1ミーティングも、情緒的な意味合いが強い場合はリアルで開催してもいい。過去と決別する目的のときは、十分に効果的だ。

「今期に入ってから、とても生産性が下がっている。一からやり直しだ。気を引き締めていこう」。このように活を入れたいときは、メールで伝えるだけではダメだ。あえて全員をリアルで集める。

空気を変えるには、時間や労力といったコストをかけてもリアルコミュニケーションにこだわるのだ。

「ムダ」の認識を揃えよう

単に時間を節約することが本質ではない。コミュニケーションそのものの質を高めることが、すなわちコミュニケーションパフォーマンス(コミュパ)を高めることにつながる。

本当の生産性アップを目指すためにも、「ムダの法則」を意識し、タイパではなく、"コミュパ"を意識していこう。


(横山 信弘 : 経営コラムニスト)