●早すぎる死に大きな衝撃

テレビ画面を注視していたかどうかがわかる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、21日に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』第28話の視聴者分析をまとめた。

『光る君へ』第28話より (C)NHK

○「よもすがら 契りしことを 忘れずは 恋ひむ涙の 色ぞゆかしき」

最も注目されたのは20時42分で、注目度77.2%。中宮・藤原定子(高畑充希)の逝去を知った一条天皇(塩野瑛久)が泣き崩れるシーンだ。

定子の兄・藤原伊周(三浦翔平)と、定子の弟・藤原隆家(竜星涼)は深い闇夜の中、定子の出産の報告を今か今かと待ちわびている。そんな2人のもとに清少納言(ファーストサマーウイカ)が姿を現した。「皇子様か?」伊周は清少納言に詰め寄ったが、清少納言のあまりにも憔悴しきった姿に伊周は嫌な予感を覚えた。「なんだ?」と恐る恐る尋ねる伊周は、最悪の事態を聞かされる。清少納言から到底受け入れられない報告を受けた伊周は、真偽を確かめるべく定子の寝所へと急いだ。しかし、そこには、目を閉じて冷たくなった定子のなきがらが、静かに横たわっていたのだった。定子は姫皇子を出産したあと、みまかっていた。「定子…」伊周は涙をにじませながら妹に話しかけるが、返事はない。

伊周のあとを追い、ぼう然と立ち尽くしたまま兄妹の様子を眺めていた清少納言は、ふと衣桁に紙が結ばれているのに気づく。清少納言は紙を手に取り、中を確かめると「伊周様、こちら…」と、紙を伊周に差し出した。紙には定子の詠んだ歌が記されていた。「こんなにも悲しい歌を…」伊周は深い悲しみの感情に包まれると同時に、強烈な怒りの炎を立ち昇らせた。「全て…あいつのせいだ!」と、強く憎悪をあらわにすると、「あいつ…」と、清少納言が聞き返す。伊周は「左大臣だ!」と叫び、「あいつが大事にしているものを、これから俺がことごとく奪ってやる!」と怒りをたぎらせた。

兄の怒り狂う姿を、寝所の外からうかがっていた弟・隆家は、兄とは対照的に表情も変えず冷静そのものだった。「あ〜っ!」隆家の慟哭(どうこく)が響く。「よもすがら 契りしことを 忘れずは 恋ひむ涙の 色ぞゆかしき(夜通し愛を誓いあったことをお忘れではないですよね。私のことを思い泣いてくださるその涙の色とは、いったいどのようなものなのでしょうか)」一条天皇は、愛する定子がこの世を去ったと知ると、あまりの衝撃にひとり、悲しみの涙を流した。

『光る君へ』第28話の毎分注視データ

○“悲劇のヒロイン”と呼ぶにふさわしい定子

このシーンは、美貌と知性を兼ね備え、明るく思慮深い性格で一条天皇に愛された中宮・藤原定子の早すぎる死に、視聴者が大きな衝撃を受けたと考えられる。

数多くの障害を乗り越え、愛を育んできた定子と一条天皇の永遠の別れに涙した視聴者は多かったのではないか。X(Twitter)では、「定子様と清少納言の仲睦まじいやり取りが見れないのは寂しい」「定子様ロス…」「伊周が道長を恨むのも分かる」など、定子の早すぎる死を惜しんだコメントが数多く投稿された。ファーストサマーウイカも、X公式アカウントで定子への気持ちをつぶやいている。

平安時代の平均寿命は、一説では男性で「33歳」、女性で「27歳」程度だったといわれている。庶民には毎日の食事も行き届かず、医療も十分に発達していない時代のため、説得力のある数字だ。あくまでも全体の平均なので、良いものを食べていたと推測される貴族たちの平均寿命は、全体の平均よりも高かったと考えられる。定子は「24歳」で崩御したが、父である藤原道隆(井浦新)は「43歳」、叔父にあたる藤原道兼(玉置玲央)は「35歳」、兄・藤原伊周は「37歳」で亡くなる。祖父・藤原兼家(段田安則)は「62歳」まで生きたが、藤原道長の嫡妻・源倫子(享年90)の血族の面々と比べると、総じて兼家の血筋である藤原北家九条流は短命な人物が多いと言えそうだ。ちなみに倫子の父・源雅信(益岡徹)は「74歳」、母・藤原穆子(石野真子)が「86歳」、長女・藤原彰子が「87歳」まで、それぞれ生きた。

権謀術数が渦巻く内裏で、一族の繁栄を望むには多くの困難が伴う。定子は一条天皇の寵愛を一身に受けたが、同時に兄・伊周から次の天皇を産めというプレッシャーをかけられ、後宮では様々な心ないウワサや陰口に悩まされていた。定子は短命な血筋に生まれたかもしれないが、このような環境が定子の健康を大きく害したのは容易に想像ができる。やはり定子は悲劇のヒロインと呼ぶにふさわしいのではないか。

●うめき声をあげ、次第に意識を失くしていく

2番目に注目されたのは20時27分で、注目度76.9%。左大臣・藤原道長が高松殿で突然倒れるシーンだ。

「いずれこの子も、殿のお役に立ちますように心して育てます」道長の妻妾である源明子(瀧内公美)は、生まれたばかりの長女・寛子を抱きながら、夫である道長にそう宣言した。明子としては、道長と嫡妻・源倫子の長女・彰子が入内したことに、心中おだやかではいられないのだろう。しかし、そんな明子の気持ちにはおかまいなく、「そのようなこと考えるな」と、道長は言い放った。「え?」思わぬ返答に明子は言葉を詰まらせるが、「入内して幸せなことなぞない。その子は穏やかに生きた方がよい」と、道長は静かに諭す。

明子は隣で並んで控えている長男・巌君(のちの藤原頼宗:渡邉斗翔)、次男・苔君(のちの藤原顕信:佐藤遙灯)、は君(のちの藤原能信:平山正剛)を見やり、「この子らも『蒙求』をそらんじることができるのでございますよ。さあ父上の前で言ってごらんなさい」と、日頃の勉学の成果を披露するよう、3人の息子たちに命じた。3人は「王戎簡要 裴楷清通 孔明臥龍 呂望非熊 楊震關西」と声を揃えて暗唱する。満足そうな表情の明子とは裏腹に、息子たちの表情は心なしか暗い。

「『蒙求』か…今度ゆっくり聞かせてくれ。はあ…父は疲れておるゆえ」と、道長は立ち上がった。彰子の入内から中宮立后と、政(まつりごと)に注力するあまり疲れているのもあるが、息子たちが政治の世界での立身を遂げることを目標とし、教育をほどこす妻・明子との考えのずれが、道長を一層、安らぎから遠ざけてしまっているのだった。「どうかお許しを」と、明子が謝罪すると、道長は「うむ」とうなずいた。「さあ、お下がりなさい」と明子は3人の息子たちに退席を命じると、「はい」と、素直に従いそそくさと退出した。

明子は道長を気遣い、「子供らのことに気を取られてしまい…」と詫びると、夫の身体を支えながら「横になられませ」とそっと寄り添った。道長は、「よい。少しじっとしておればおさまる」と、言った次の瞬間、どっと足元から崩れ落ちた。「殿! 殿!」突然の出来事に明子は顔を青くしながらも、床に這いつくばる夫に懸命に呼びかける。「ああ…」と、苦し気にうめき声をあげる道長は、次第に意識を失くしていった。

(C)NHK

○柄本佑の演技にも注目が集まる

ここは、道長がもう一つの家庭である高松殿で過ごす様子と、その場で倒れてしまうショッキングな展開に、視聴者の注目が集まったと考えられる。

これまでの激務がたたり、ついに倒れた道長だが、ネット上では、「倒れる前の道長、本当に痩せている」「普通に立ってはいるけど調子がおかしい道長」「疲れすぎた表情がうますぎる」などと、柄本佑の演技にも注目が集まっている。道長の妻である源明子は、「安和の変」で失脚した左大臣・源高明の娘。申し分のない高貴な家に生まれながらも、父の失脚によって脆弱な立場であった明子にとって、現役の左大臣である道長との子らの栄達はまさに念願であったと思われ、そんな明子の期待がよく描かれたシーンだった。

明子の母である愛宕は、藤原師輔の五女で藤原兼家の妹なので、道長とはいとこ同士の関係。また今回登場した道長の次男・巌君はのちの藤原頼宗。長じて紀貫之・平兼盛と並び称されるほどの非常に優れた歌人となる。そしてなんと、将来の正室は藤原伊周の長女だ。三男・苔君はのちの藤原顕信。道長や明子に将来を期待されるほどの才を持っていたが若くして出家し、道長と明子は嘆いたという逸話がある。四男・は君はのちの藤原能信。兄と同じく若くして歌人としての才能を発揮するが、父・道長に似た勝気な性格(※『光る君へ』の道長はまったく勝気な性格ではないが)であったと伝わっており、血気にはやり様々な問題を引き起こす。道長には、倫子との間にできた二男四女に加えて、明子との間にも多くの子をもうけた。この多くの子らが、これからの道長の繁栄を盛り立てていくことになる。

●顔を合わせ、声をそろえて「いつもいつも」

3番目に注目されたシーンは20時39分で、注目度76.1%。中宮・藤原定子と清少納言が語り合う最後の場面だ。

一条天皇の3人目の御子をみごもった定子は体調を崩していた。食事もままならない定子を見かねた清少納言は、めずらしいお菓子を用意し、「中宮様、こちら…」と差し出した。「これは何?」定子の問いに、清少納言は「節句の頂き物で青ざしという麦のお菓子でございます。これでしたら少しは召し上がれるのではと思いまして…」と答えた。「ありがとう少納言。そなたはいつも気が利くこと」と、定子にとって清少納言のこまやかな気遣いは、なにものにも代えがたい。定子は刀子で青ざしの敷き紙を切り取ると、そこに歌をしたため清少納言へ渡した。「みな人の 花や蝶やと いそぐ日も 我が心をば 君ぞ知りける(人がみんな花や蝶やと浮かれてるこんな日にも、私の気持ちをあなたはよくわかってくれているのね)」という、清少納言への感謝をつづった歌だった。

続けて定子は「そなただけだ。私の思いを知ってくれているのは」と打ち明けた。清少納言は敬愛する主・定子からの歌と言葉に胸を震わせながら、「長いことお仕えしておりますゆえ」と答えた。「いつまでも私のそばにいておくれ」と続ける定子に、「わたくしこそ、末永くおそばに置いていただきたいと、いつもいつも念じております」「そなたの恩に報いたいと、わたしもいつもいつも思っておる」定子と清少納言は、偽りのない気持ちを互いに相手に伝えると、2人は顔を合わせ、声をそろえて「いつもいつも」と笑い合った。

定子は、清少納言と話すうちに元気が出たようで、「少納言と話をしていたら力が出てきた。青ざし、頂いてみる」と、手に取った青ざしをちぎりながら、ゆっくりと口に運んだ。清少納言は、青ざしが定子の口に合うか不安混じりで見つめていると、定子はその美しい顔に穏やかな笑みをうかべ、「おいしい」と言った。「ああ…」清少納言は安堵し、胸をなでおろす。2人はしばらくの間、穏やかで幸福なひと時を過ごしたが、空には暗雲が立ち込めていた。

(C)NHK

○「定子さまと清少納言が尊い」

ここは、定子と清少納言の変わらぬ美しい絆に、視聴者は心を打たれ画面を注視し続けたのではないか。

『光る君へ』での重要なキーワードのひとつに「ソウルメイト」があるが、定子と清少納言の2人の関係性は、まさにこのキーワードを体現している。また清少納言にとって定子は「光る君」であり、定子と清少納言はまひろと道長とは対をなす、作品を象徴する2人と言える。

定子と清少納言の穏やかなひと時が描かれたこのシーンに、ネット上では「定子さまと清少納言が尊い」「役者に清少納言が降りている」「定子様と清少納言の『いつもいつも』がじわじわくる」「定子様が清少納言に歌を送ったシーンで号泣した」「清少納言は定子様の魅力を1000年後に伝えるファンの鏡」といった多くのコメントがアップされた。

また、Xでは「高畑さんが何も言わずに私の楽屋にお菓子を置いて行ってくれた! これ枕草子の定子さまの逸話の引用だ! 凄い! スゴイ!」「え? 何その逸話……知らない……」という、枕草子の逸話を彷彿とさせる、ファーストサマーウイカと高畑充希の撮影の幕間のエピソードが、完全に現代の清少納言と定子さまの関係だと、注目を集めている。定子と運命の出会いを果たし、定子の苦難の日々を支え続けた清少納言。定子を失った彼女は、今後どのように物語に関わってくるのか。

●倫子と明子の静かな激突にも注目

第28話「一帝二后」では999(長保元)年から1000(長保2)年の様子が描かれた。

今回は、中宮・藤原定子が難産の結果、命を落とし、周囲の人々にはかり知れない悲しみをもたらしたシーンが注目を浴びた。また左大臣・藤原道長が倒れ、2人の妻とそれぞれの家族の立ち位置が描かれたシーンが非常に印象に残った。

トップ3以外の見どころとしては、何といっても倫子と明子の静かな激突が挙げられる。倫子が「うちでおたおれになればよいのに…」「どうぞ我が夫をこちらで看病願いますね」などと、敵意をむき出しにする倫子に、多くの視聴者が戦慄した模様。また、倫子と明子の着物の柄がまったく同じ問題まで勃発し、沈静化するまでには多くの時間が必要となりそうだ。

その他にも、道長と一条天皇から強烈な板挟みに合いつつも、見事、彰子立后の立役者となった、内裏でもっとも過酷な中間管理職である蔵人頭・藤原行成や、一条天皇の問いかけに、「笛は聞くもので見るものではございませぬ」と、正論をかまして閨房指南役である赤染衛門(凰稀かなめ)を凍り付かせた藤原彰子。地雷を踏みまくるまひろの弟・藤原惟規(高杉真宙)に、さりげなく道長に娘が生まれたと報告をする藤原宣孝など、今回も充実したラインナップとなった。

きょう28日に放送される第29話「母として」では、2年の月日が流れ、まひろは宣孝や賢子と穏やかな日々を過ごす。一方、内裏では、40歳を迎えた女院・藤原詮子の体調不良や、定子の死により、道長への憎悪を一層たぎらせる伊周など、新たな問題が次々と起こる。次回では果たしてどのシーンが最も注目されるのか。

REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら