デニーズの担々麺、登場から30年超で人気爆発の訳

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デニーズが担々麵を初めて販売したのは1988年。「チャイナタウンヌードル」として発売しました(筆者撮影)

人気外食チェーン店の凄さを「いぶし銀メニュー」から見る連載「チェーン店『至高のいぶし銀メニュー』を訪ねて」。今回はセブン&アイ・フードシステムズが運営するファミリーレストランデニーズの「胡麻香る四川風担々麺」を取り上げます。

飲食チェーンには「代名詞」「定番」というべきメニュー以外にも、知られざる企業努力・工夫を凝らされたものが数多く存在します。本連載では、そうした各チェーンで定番に隠れがちながら、根強い人気のある“いぶし銀”のようなメニューを紹介していきます。

「専門店顔負け」とSNSで話題の本格担々麺

今回のテーマは、セブン&アイ・フードシステムズが運営するファミリーレストランデニーズです。

創業50周年を迎えた老舗ファミレスとして、ハンバーグなどの洋食メニューを中心に人気のチェーンで、ロードサイドやエキナカなど、数多くの立地に出店しています。最近では、冷凍食品を扱うブランド「Denny's Table」が共働き世帯にヒット中です。

ファミリーレストランということもあり、デニーズが扱うメニューは非常に数多くあります。肉料理にパスタ、カレーやエスニック料理、さらに和定食にサンドイッチ、デザート……。

そんな中でじわじわと人気が拡大しているのが、今回のメインテーマである「胡麻香る四川風担々麺」(990円)。SNSでは「マジで美味い」「ファミレスのラーメンの中で群を抜いている」などの声が続々と上がっています。

【画像】「実は35年の歴史」「20年前に汁なし担々麺も発売。しかし、定着せず」…そこから「SNSで何度もバズる」ようになるまでに何があった?デニーズの超本格派「担々麺」を見る(17枚)

さまざまなジャンルのメニューがある中で、胡麻香る四川風担々麺のような中華メニューはかなり少数派。果たしてどんな味なのか、デニーズに行ってみましょう。

店舗を訪問して実食「1700円」のコラボデザートも

5月中旬の平日夜、訪れたのは私鉄沿線駅内で営業している店舗。


「いらっしゃいませデニーズへようこそ」がお出迎え(筆者撮影)

筆者はこの店を普段も利用しているのですが、時間帯としては昼に来ることが多め。特に土日のお昼から夕方くらいまではいつも賑わっているイメージがあったのですが、この日は空席率が3〜4割ほどでした。


この日は「サダハル・アオキ・パリ」とのコラボメニューがありました。お値段は何と、約1700円!(筆者撮影)

ドリンクバーがあり、駅という生活動線のハブに店舗があることから、日中のちょっとした休憩や、団らんに使う人が多い店舗なのかもしれません。

デニーズではよく有名店とコラボしており、この日は「サダハル・アオキ・パリ」とのコラボメニューがありました。

とりあえず、今回のメインである胡麻香る四川風担々麺に鶏の唐揚げとミニごはんが付いたセットを注文。加えて、デニーズの代名詞ともいえる「BEEFハンバーグステーキ」と、石窯ブールも注文してみましょう。


300円でごはんと唐揚げ2個が付くなら、頼まない手はありません(筆者撮影)

到着を待ちながら、メニューを眺めます。サラダにハンバーグ、ステーキ、和食にパスタ、デザートなど、見ていて飽きません。


多種多様なメニューはファミレスの醍醐味(筆者撮影)


イタリアンの有名店「アロマフレスカ銀座」とのコラボメニューも発見(筆者撮影)

そうこうしているうちに、続々と商品が到着しました。

まずはBEEFハンバーグステーキです。ハンバーグとして一般的な円形ではなく、楕円型が特徴のBEEFハンバーグステーキは、食べ応え抜群。噛んだときに肉らしさを強く感じ、旨みも詰まっています。


肉感がかなり強いBEEFハンバーグステーキ(筆者撮影)

石窯ブールは、ハードパンチックな見た目に反して、手で割って食べるとかなりフワフワな口当たり。噛むともっちりとした食感があり、ハンバーグとの相性抜群です。


人気が高いのも納得できる石窯ブール(筆者撮影)

辛いものが苦手でも安心「心地よい辛さ」な本格担々麵

いよいよ、担々麺をいただきます。見た目はかなり本格派。色味も赤く、辛いものが得意ではないため緊張しながら一口。


赤と緑が鮮やかな担々麺(筆者撮影)

まず感じたのは、辛味ではなくゴマの豊潤な風味でした。そこにやや遅れて塩味、さらに辛味とシビレが駆け抜けます。見た目とは裏腹に、かなりマイルドな味わいに感じました。とはいえ物足りないという感じはなく、ゴマのコクが辛みをいい塩梅に抑えているといった感じ。


辛い食べ物が苦手な筆者でもするする食べられるバランス(筆者撮影)


具材は肉みそとほうれん草(筆者撮影)

辛いものは、最初「あれ、辛くないかも」と感じても、食べているうちにどんどんと追い打ちをかけられて最後は口の中が燃え盛ってしまうこともあるのですが、この担々麺はそんなこともありません。終始、程よく心地よい辛さで食べ続けられます。

具材は肉みそと、ほうれん草。肉みそはひき肉とタケノコ、シイタケを確認できました。甘辛い味付けで、スープとよく調和しています。ほうれん草も単なる青味にとどまらず、味が濃く存在感を発揮しています。

唐揚げと一緒に、大事な大事なミニごはんと一緒に食べ進め、あっという間に完食です。スープとごはんの相性抜群でした。


ごはんをスープに浸して食べるとこれまた美味(筆者撮影)

ルーツは米国、日本の朝食文化に影響を与えてきた?

あらためてデニーズの紹介です。もともとアメリカのチェーンで、日本に進出したのは1974年と、2024年で50周年の節目を迎えています。

これまでの長い歴史の中で、デニーズはさまざまな食習慣の変化を支えてきました。商品部・副部長の友井勝彦さんは「モーニングコーヒーや、朝に卵料理を食べる食習慣はデニーズの影響も少なからずあるのではないかと考えています」と話します。

デニーズは1974年の日本進出当初から、コーヒーのおかわり自由サービスを提供しています。当時はまだモーニングコーヒーの習慣が今ほど一般的ではなく、店内にはコーヒー文化に親しんだ外国人が多かったとか。そこから少しずつ日本でもモーニングコーヒー文化が広がっていき、モーニングメニューは今でもデニーズで根強い人気を誇る商品の一つです。

そんなデニーズの代表的な商品といえば、ハンバーグ。ハンバーグカテゴリーは、注文全体のうち15%を占めるといい、文字通り看板商品です。近年では、従来の円形ではない楕円形のBEEFハンバーグステーキが登場し、人気を博しています。


肉らしい食べ応え十分のBEEFハンバーグステーキ(筆者撮影)

「BEEFハンバーグステーキでは、これまでと違うフォルムで刷新感を出すとともに、肉らしさを打ち出しました。家庭で味わうようなふっくらして柔らかい合い挽きのパティも残しつつ、肉をしっかり食べるビーフパティも提供することで、デニーズといえばハンバーグというイメージを広めていければと考えています」(友井さん)

約30年を経てメニューに定着 特にこだわったのは「2種のスープ」


1988〜1989年当時のメニュー(提供:セブン&アイ・フードシステムズ)

話を担々麵に戻しましょう。

デニーズが担々麵を初めて販売したのは、さかのぼること35年ほど、1988年に「チャイナタウンヌードル」として発売しました。友井さんによると、ファミレスとして麺類を初めて提供したのはデニーズだとか。

翌年にはラインナップを拡大し「タンタンヌードル」「トンポーローヌードル」「ジャーズーチーヌードル」「サンシェンヌードル」、さらに「冷やし中華ヌードル」を販売しました。

ただ、当時は今ほど中華麺の認知度が高くなく、その後メニューから姿を消してしまうことに。

一方で、担々麵は何度か復活を果たしています。


1988〜1989年当時のメニュー(提供:セブン&アイ・フードシステムズ)

例えば、20年ほど前には汁なし担々麵として発売したこともあったとか。

しかし、当時は今ほど辛いものやシビレのある中華料理が一般的ではなく、かなりチャレンジングな環境だったことから定着には至りませんでした。

その後も大きな鶏の唐揚げを載せたものや、豚の唐揚げを載せたものなどを販売していたといいます。


2012年に発売した担々麵(提供:セブン&アイ・フードシステムズ)


2016年に発売した担々麵。ここからメニューに定着しました(提供:セブン&アイ・フードシステムズ)

直近で担々麵がメニューに復活したのは2016年で、そこから10年近くにわたり定着しています。激辛グルメや「ガチ中華」が話題になることが増え、担々麵も当たり前に見かける食べ物となったことが、大きそうです。友井さんは「辛さやシビレへの注目度が、かつてと比較してかなり高まっていると感じます」と話します。

友井さんが特に苦労したと振り返るのが、5年ほど前にリニューアルしたスープです。もともとは1種類のベースから作っていましたが、ゴマのコクと醤油のキレを両立させるため、それぞれのベースを店舗で合わせて調理する形に変更しました。

食べて驚いた程よい辛さは、試食段階で幅広いお客さんを対象にして、社内でも年齢層を区切って細かく試食することで調整したそうです。また、肉みそには肉とともに食感のアクセントとなるタケノコやシイタケを入れることで、味以外の噛み応え・食感にも工夫しています。

さらに直近では、トッピングしている野菜をチンゲン菜からほうれん草に変更するとともに、味気なくなってしまわないように、薄く塩味を付けているそうです。

「夜ラー」需要も納得の一杯

数々の工夫が功を奏し、メニューに定着した胡麻香る四川風担々麺。デニーズのメイン客層である女性人気もしっかり確保しているほか、意外なところでは夜遅い時間の需要が多いのだとか。

「競合他社が閉店時間を早めていることもあり『夜に本格的なラーメンが食べられる』と、飲み会帰りのような時間帯での人気が出ています」(友井さん)

人気は店内だけにとどまりません。2024年4月にはセブン&アイグループのプライベートブランド「セブンプレミアム」から「セブンプレミアム デニーズ四川風担々麺」が登場。

友井さんは「デニーズとしてはあくまで自社の商品ではなく『協力』という形で携わりましたが、スープへのこだわりなどをお伝えして、可能な限り再現度が高くなるように尽力しました」と話します。

アメリカ発で洋食メインながら、超本格派の担々麵を提供するなど、懐の深さが魅力のデニーズ。最近は自ブランドでの冷凍食品も好調で、ますます目が離せません。


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(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)