新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』の世界観に浸れる衣裳展に尾上松也と尾上右近が登場、「苦労したのは髭切、膝丸」工夫を明かす
新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』京都南座 衣裳展 2024.4.13(SAT)~5.6(MON)
現在、京都・南座にて5月6日(月・祝)まで『新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」衣裳展』が開催中だ。
2015年にサービスを開始し、これまでも舞台、アニメ、映画など様々なジャンルで取り上げられている人気ゲーム『刀剣乱舞ONLINE』。付喪神の刀剣男士たちが歴史を守るべく時代を超えて戦う物語は熱狂的な支持を集め、日本刀ブームの火付け役にもなった。
今なお人気コンテンツとして親しまれている『刀剣乱舞ONLINE』が2023年7月、尾上菊之丞・尾上松也の演出により新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』と題し、新橋演舞場にて上演された。顕現する刀剣男士は、三日月宗近、小狐丸、同田貫正国、髭切、膝丸、小烏丸の六振りで、十三代将軍足利義輝が討たれた永禄の変を歌舞伎ならではの発想で大胆に脚色。多くの話題を呼んだ。
衣裳展の展示は3階から始まる。刀剣男士たちの衣裳はもとより、展示ロビーのドアガラスにも装飾が施され、すぐにその世界観へと引き込まれる。2階ロビーでは足利義輝、紅梅姫らの衣裳、六振りのかつらと小道具などを展示。1階ロビーには異界の翁・媼の衣裳や短刀、禍獣の衣裳などが展示されている。
『刀剣乱舞ONLINE』で三日月の声を当てる鳥海浩輔による音声ガイドも体験したいところ。スマートフォンに指定のアプリをダウンロードしておけば、展示物を読み込むことで場所に合わせた音声を楽しむことができる。
とっておきは花道を通って進む南座の舞台だ。そこには六振りが勢ぞろい、360度あらゆる角度から衣裳や小道具の刀などをじっくりと観ることができる。
衣裳展初日を翌日に控えた4月12日(金)には『プレオープン記念トークショー』が開催され、初の演出と主演の三日月宗近を勤めた尾上松也と、足利義輝と小狐丸の二役を勤めた尾上右近が登壇。松也と共に演出を手掛けた尾上菊之丞もサプライズで登壇し、脚本を担った松岡亮の司会のもと進行した。
松岡亮、尾上菊之丞、尾上松也、尾上右近
トークショーでは新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』のプロジェクトが動き始めた当時のエピソードが明かされ、「自分が手掛ける新作歌舞伎というのを作りたいと常々思っていた」と企画発案した理由を語る松也。南座で上演された新作歌舞伎『あらしのよるに』をはじめ、新作歌舞伎を手掛ける先輩方の姿に「いつか自分も」という思いがあったと続ける。そして、いざ始動となったとき、「いくつか候補があった中から『刀剣乱舞』に最も魅力を感じた」という。松也は、『刀剣乱舞』が日本の歴史を扱っていること、また、刀剣男士の造形などから歌舞伎とのシンパシーを感じ、ミュージカル『刀剣乱舞』からもインスピレーションを受けたという。
演出に菊之丞を迎え、真っ先に右近に白羽の矢を立てたことについても松也は、「まだ具体的に何をやると言えない時期でしたが、自分が新しいことに挑戦するには、菊之丞さんと右近さんがいなくては成立しなかった。なので、スケジュールだけは押さえようと思いました」と、その胸中を明かした。
尾上松也、尾上右近
「新作歌舞伎を生み出すには、エネルギーがすごく必要」と右近。「松也さんが新作を生み出すエネルギーの源になったひとつは、『挑む~IDOMU~』という自主公演を続けてこられたことが大きいと思う」と、松也の歌舞伎にかける情熱を称えた。
共同演出の菊之丞について松也は、「先生がいてくれたことで、僕も思いっきり自分の方向性に走っていけたし、僕は圧倒的に菊之丞さんを信頼していて、僕と同じ方向で物事を見てくれていると思っているので、何か違うと思ったら言ってくださるというも安心感もありながら、突っ走ることができました」と振り返った。
尾上菊之丞
そんな松也の言葉に「信頼されていると思うと能力が発揮できる」と菊之丞。互いに全幅の信頼を寄せて、この新作歌舞伎を作り上げていった。
松岡から苦労した点を聞かれると松也は、「衣裳においては髭切、膝丸」と打ち明ける。続けて、「あんまり悩む必要性がなかったのは三日月と小狐丸ですね。同田貫と小烏丸もすぐに決まった気がします。なぜかというと、その四振りはそもそも(原作も)和装なので、あとはアレンジを加えて、歌舞伎らしく落とし込めばよかったのですが、髭切、膝丸は完全にスーツスタイルだったので、何度か試行錯誤しました」と振り返る。
手前から膝丸、髭切の衣裳
原作の膝丸は、丈の短いジャケットを着用している。「そこを表現したいと思って羽織の長さを変えてみて、膝丸は異常に羽織が短くなりました。こんな羽織は僕も見たことがないです(笑)。それがハマるかどうか、もすごく不安でしたが意外と大丈夫でした」と松也、安堵の表情を浮かべた。さらに、原作の髭切、膝丸がタイトなパンツスタイルとあって、「なるべくスマートな袴を用意してもらって、その雰囲気を出しました」と続けた。
尾上右近
最後に、「衣裳展では『月刀剣縁桐』の世界観を間近で感じていただけると思います。‟とうかぶ“がまた帰ってこられるように、たくさんの応援をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします」と松也。そして「南座で衣裳展が行われるということで、(本公演が)ゆっくりゆっくり京都に近づいてきているように思います。皆さんで盛り上げてもらって、(『月刀剣縁桐』の)再演につなげていただけたらとキャストの一人として願っています」と右近。温かい拍手に包まれた。
尾上松也
『新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」衣裳展』は、5月6日(月・休)まで開催。チケット発売中。
取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉