永田崇人インタビュー~『ポルターガイスト』で “いつかは通らなければいけない道”、ソロパフォーマンスに挑む!
石井光三オフィスプロデュース『ポルターガイスト』(作:フィリップ・リドリー、翻訳:小原真里、上演台本・演出:村井 雄)が、2024年6月14日(金)~23 日(日)、東京芸術劇場・シアターウエストで上演される。2020年、ロンドンにて初演された本作は、P・リドリーがコロナ禍に書き上げたダークでコミカルな一人芝居だ。その日本初演に挑むのは永田崇人。主人公の青年・サーシャをはじめ、異父兄、姪、近所のおじさん…と、計10役を演じ分けるソロパフォーマンスに挑むこととなる。10代で才能あふれるアーティストとして注目されながらも今や世間から忘れ去られてしまったサーシャの、喪失と発見と喧騒に彩られた「ある1日」の出来事。“現代の童話”のような世界に飛び込んでいくその胸中はいかに──
──初めての一人芝居。オファーされた時のお気持ちは?
「まじ? なにそれ? 一人芝居、え、俺? いける??」みたいな(笑)、気持ちでした。一人芝居、元々興味はあったんです。やっぱり昔から「絶対どこかで通らないといけない道」みたいな思いはありましたし、事務所の先輩の入江雅人さんの『グレート一人芝居』とか、確か去年は赤堀さんもやっていましたよね(赤堀雅秋一人芝居『日本対俺』)。でも…「自分もどこかでやりたいけどホントにやれるんかな」って感じで。
──現実感はなかった。
そうですね。でも「こいつじゃできないだろう」と思ったら声はかけていただけないと思うので…いや、わかんない、もし今後悔されていたらあれですけど(笑)。でも僕という役者のことを見てオファーしていただけたのはすごく嬉しいことですし、怖かったけど「ぜひやらせてください」とお伝えしました。
──サーシャがパートナーのチェットと共に姪の誕生日パーティーに出かける1日の物語。苦い過去を掘り返されたり、今を見つめたり、親戚同士でガヤガヤと繰り広げられる、ちょっとカオスな展開も見どころです。「一人芝居」と言っても、一人の人物で物語るのではなく、10人のキャラクターを演じていくこととなります。
まぁ、でも「人の話」…「人生の話」ですよね。だから端々に共感する部分もありますし、まずは自分と近いところから読み解いていくしかないなぁとは思います。ひとつの作品で複数の人物を演じるという意味で言うと僕も未知というか、お芝居としてどうやっていくのかも全く未知。例えばここでサーシャのセリフがあって、その後すぐチェットのセリフがきているけど、これは立ち位置入れ替えてやるの?とか。
──どの言葉も口に出すのは全部自分なので…
…ってことですよね。基本的にセリフの前に「叩き込むように」って、ト書きにはあるんですよ。それがどういうことなのか。あとはオモシロが散りばめられているけれど、どうすればちゃんとオモシロになるのかなとかをぼんやり考えたりはしているのですが、基本的には主人公の主観のお話だと思っているので、まずはサーシャを理解していく。多分年齢も今の僕と近いと思うから、まずは何となく想像できる彼がいわゆる神童と呼ばれていた時代と、そこから今までの10年間以上をどう過ごしてきたのかを埋めていく作業ですかね。
──私たちが想像しがちな“孤独な元アーティスト”というキャラクーではなさそう。
むしろ全然、逆ですよね! なんか、それを自分が受け入れてないっていう話でもあるというか…でも結構それってあるなって思う。自分でもそうですけど、周りが自分に対して素直にそう思ってくれているのに、自分では「本当はそうじゃないんじゃないか」と思ったりとか。舞台上の自分をイメージするのは正直今はちょっとまだ難しいですね。どんなふうになるのだろう。でもだからこそ、すっごく楽しみでもありますけどね。
──物語全体の感触はいかがですか? フィリップ・リドリーは毒気のある、ファンタジーと呼ぶにはちょっと痛々しいけれど美しくて繊細な世界を描いた作品がいろいろありますけど、戯曲を読むとその中ではわりと現実的なタイプですね。
そう、そうなんですよね。そんなに童話過ぎないというか……
──永田さんが以前出演された『プラネタリウムのふたご』の作者、いしいしんじさんにもちょっと近いな、と思いました。
あ、いしいしんじさんっぽいんだ! わかった、今のピンときたぞ。はいはい、わかりました(笑)。好き好き。大人の絵本感ね。でもある意味ではこれって観に来る人のストレス発散にもなってるし、そういうところが僕も「いいな」って思う。海外戯曲だから許されるFワード満載の感じとかたまらないっていうか、「こんなん言っていいんだ」みたいな(笑)、日本の戯曲だと見ない言葉の並びも面白くて好きですね。ストーリーとしては、なんだろう…ゆっくりと見たくないものから目を背けて生きてきた人が、少しずつ現実を受け入れてスタート地点に立つみたいな感じなのかなぁ…わからないけど。なんか、ちょっとだけね、いい明日が来るかもって思える、そんな希望は見いだせている感じはします。
──サーシャっていたずらっ子ですよね。シニカルでナイーブな青年。
はい。あー、でもいたずらっ子って言葉、僕はなんか可愛げを感じちゃうんですけど、実はサーシャは…いたずらっ子はもうちょっと陰湿だよなと思います。許してもらえる前提でやっているというか、そもそも自分だとバレようと思ってない。
──確かに自分から種明かしして「アハハ」と笑って解決…ではないかも。
そんな感じではないですよね。かわいく言うと「いたずらっ子」だけど、普通に「性悪」ですよ(笑)。でもそれが人間だよなって思うから、別に嫌だとは思わないし、むしろだからこそすごく愛おしいと思えるし。
──周りのみんなももうそこまでわかっている感じもある。
それがまたいいなって思います。そこにこの物語の面白さがあるなって。「わかっていないのはあなた」って、なんかね、ドッキリの逆バージョンというか、その構図が面白いというか…ちょっと言葉でうまく伝えられないのですけど、基本的には主人公の主観でバーって話していくし、やっていく。でも、最終的にはそれを周りの人たちが見る目線にお客さんがなってくれたら、いいなって思う。
──みんなに見守られ包まれているサーシャ。
そうそう。「ホントはすごく愛されてるってことに気づいてないんだね。そこも可愛いね、君」ってぐらいのところにまで、落とし込めたらいいのかな。
永田崇人 ©大沢尚芳
──お稽古に向けてはどんな準備を?
稽古場に「おはようございます」って入っていっても、演出家さんと制作さんが何人かいるだけの場所でしょ? どうなるのかなぁ。
──演出の村井雄さんは「誰もいなくてたった2人の時間になってもいいです」とおっしゃっているとか。
確かにそれも面白いですね。村井さんとはまだお会いしていないのですが、一対一なんて贅沢ですよね。不安もあるけど、いいこともたくさんあるんだよなぁ。だって全部自分ですからね。そんなにずっと自分のお芝居だけを見てもらえるってないですからね。あ、でもずっと見られちゃうのはやっぱり、怖いし、ちょっと嫌かも? ハハハハッ(笑)。
──コミュニケーションも相当密になっていくでしょうね。
なるべくいろいろお話ししたいです。面白いなと思うのが、自分の中で考えてるだけのものって「妄想」とか「想像」になるんですけど、誰かと共有したらそれが「事実」に変わるんですよ、自分の中で。だから、話し合うことによって「事実」が増えれば増えるほど、作るものも現実的にはなるというか…それで、大事なのがそのバランスだと僕は思っている。「事実」を増やしてより見せたいものを明確にしたいのか、「妄想」や「想像」のままにしておいてちょっと隙を作っておいたほうが面白いのか、そのバランスがどうかなぁって。まぁどっちにしろしっかりと考えなければいけないと思うから、自分的なバランスは見失わずに大事にしたいです。特にこのお話はやっぱりサーシャの主観の話だから、サーシャのお母さんも彼にとってはいいお母さんだったかもしれないけど、周りから見たときにどういうお母さんだったんだろうなとか、視点を変えた見方もあるなと思ってるので、そういう読み方もしておかないと。ホント、考えるべきことは山のようにある。サーシャや姪のロビンが描いた絵がどんななのかな、とかも。セリフでもずっと色のことを言ってますもんね。そこも興味深いです。フィリップ・リドリーさんって、画家でもあるんですか?
──美術学校出身だそうです。
そうなんだ! うん、じゃないとあれだけ明確に絵や色のことを自分事として書けないでしょうね。
──永田さん、絵を描くのは?
全然好きじゃない。下手です(笑)。でも下手なりに実際描いてみたら描いてみたで面白かったりもするし…今回はちょっと美術も勉強しておかないとですね。アートに触れる時間は作りたいなと思います。
──2.5次元作品を経て、ここ数年もさまざまな演出家の方たちとの作品作りを経験してきました。その中で30歳を迎え、初めての一人芝居にもトライしていく。やはりここはひとつの節目でもあると…
思っています。自分はやっぱり芝居が好きで、「かっこいいね」とか「かわいいね」とか「優しいね」とかよりも、「芝居いいね」って言われるのが、生きてて一番嬉しいんです。お芝居が好きで、その好きなことをやってる自分を評価してもらえるのが、ね。それははじめからずっとあったし、今後もそういう人でありたいなっていう願望はずっとあるので…だから今は、僕的にはですけど、これが“一歩目”な感じがするんですよ。今までも全身全力で…っていうか、それ以外に僕は技も持ってないしそうやってがむしゃらに俳優業をやってきて、その間にいろいろ積み重ねてきて。でもこれでやっと本当の一歩目を踏み出せそうかなっていう思いを感じています。
──おそらくこの『ポルターガイスト』を通じ、さらに新しいお客様との出会いもあることでしょう。
あったら嬉しいな。えー、みなさん、こんにちは、永田崇人です。九州から出てきて、お芝居を始めて今年で10年目。この作品は本当に自分の俳優人生の中でも「大一番」だと思ってます。本当に、もうそれ以外ないですね。この作品に今の全てを捧げてやる覚悟はあるし…というか、そうじゃないとできないということもわかっています。演劇のこと全く舐めてなんていないし、苦い思いもいっぱいしてきたので…。永田崇人を知らないという方も、もうホントにこれは騙されたと思って来て欲しい。『ポルターガイスト』という作品の魅力に惹かれ、みなさんぜひ騙されてみてほしいなと思います(笑)。僕もひとりの俳優として、この素晴らしい戯曲の力をお借りして頑張りますので。
──この先のお稽古、そして本番へ。永田さんの中に渦巻く決意と覚悟と愉しみとが伝わってきます。
僕もまだどうなるのか全くわからないのですが、自分が自分に「いいね」って言えるような、本当に良い作品だと思います。僕個人としてもすごく共感できる内容ですし、やっぱり自分の人生の中で目を背けたくなる瞬間がない人なんか、なかなかいないと思うんですよね。そういう人にはすごく伝わるのではないでしょうか。お客様が観終わった時に「ああ、自分もいいな」って思って帰ってくれたら、成功なのかな、と思うので。「私の人生、まあ、いいんじゃね」って、ライトな感じで向き合える、心に残る作品にできたらいいなって、僕は思っています。
永田崇人 ©大沢尚芳
取材・文=横澤由香