日本の平均年収は458万円「ただそれって非正規も含んでますよね?」正社員の平均はいくらか…なんと300万円もの差があった
4月からの新年度を迎え、就職や転職に胸を弾ませている人も多いだろう。新たなキャリアは人生の転換点となるはずだ。経済アナリストの佐藤健太氏は「先行きが見えにくい状況下では自らのキャリア形成、スキルアップに良い職場なのかを冷静に見極めると同時に、正社員・正職員になることをオススメする」とアドバイスを送る。
非正規雇用の賃上げ交渉は活発なものの…正社員とは年間300万円の差
東京都心は3月29日に過去10年で最も遅くソメイヨシノが花を開き、大阪でも8年ぶりの遅さでの開花となった。真新しいスーツに身を包む新入社員が花吹雪を楽しみながら入社式に向かう姿は微笑ましい。進む少子化や人材不足の影響で「売り手市場」となった新卒社員は初任給アップという時代に迎えられ、大企業を中心に高水準での賃上げも加わる。
連合が3月15日に公表した2024年春季労使交渉の第1回集計結果によると、基本給を底上げするベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ率は平均5.28%をマークし、1991年以来33年ぶりに5%超となった。4月4日公表の第3回集計結果でも中小組合(組合員数300人未満)の賃上げ率が平均4.69%となり、高水準での賃上げがみられている。
今年は大企業を中心にパートやアルバイトなど非正規雇用の賃上げ交渉も例年より活発化しているが、賃金は正社員の6~7割程度に抑えられている。わが国の全労働者の約4割を占める非正規雇用が正社員と同じように光を浴びているとは言い難い。
実際、正社員と非正規社員の格差は決して小さくない。国税庁の「民間給与実態統計調査」(2022年)によれば、日本の平均年収は約458万円となっている。これを雇用形態別に見ると、正社員は523万3000円、非正規社員は200万5000円だ。たしかに非正規社員は前年比2.8%増となっているものの、平均年収で言えば実に300万円超の差が存在する。
全体の賃金自体は上がっている
厚生労働省が3月27日に公表した「賃金構造基本統計調査」(2023年)を見ると、全体の賃金は31万8300円で前年比2.1%増えている。ただ、雇用形態別の賃金では「正社員・正職員」33万6300円に対し、「それ以外」は22万6600円と低い。正社員・正職員を100とした時の雇用形態間の賃金格差は67.4となっている。
男女別で見ても、男性は「正社員・正職員」36万3600円、「それ以外」25万5000円で、女性は「正社員・正職員」28万1800円、「それ以外」20万3500円と格差がみられる。賃金格差が最も大きいのは大企業(60.8)で、産業別では「卸売業、小売業」(61.5)ということがわかる。
年代別でも見てみよう。「20~24歳」の賃金は「正社員・正職員」22万8700円、「それ以外」19万4800円で賃金格差は85.2▽(マイナス)、「25~29」は26万3600円、「それ以外」 21万6400円で同82.1▽、「30~34歳」は29万4100円、「それ以外」22万1400円で同75.3 ▽、「35~39歳」は32万7000円、「それ以外」22万500円で同67.4▽、「40~44歳」は35万4600円、「それ以外」22万600円で同62.2▽、「45~49歳」は37万4500円、「それ以外」21万7700円で同58.1▽、「50~54歳」は39万4300円、「それ以外」22万2200円で同56.4▽、「55~59歳」は40万4800円、「それ以外」22万1700円で同54.8▽、「60~64歳」は34万9300円、「それ以外」25万6900円で同73.5▽、「65~69歳」は31万2700円、「それ以外」23万1700円で同74.1▽となっている。
基本的には年齢を増すごとに年収は増える。ただ、「正社員・正職員」は55~59歳に男性の賃金が44万800円とピークを迎えるが、「それ以外」は60~64歳の28万5100円が最も多い。女性の場合は55~59歳(31万6300円)が一番高いというのは同じだが、「それ以外」は30~34歳(21万500円)と若い時期にピークに達し、それ以降にほとんど上昇していないことがわかる。
景況感を示す現状判断指数も2ヶ月ぶりに悪化
先に触れたように正社員・正職員の平均給与(2022年)は約523万円で、全体の平均よりも約70万円多い。男性は584万円、女性は407万円で、「それ以外」は男性が270万円、女性が166万円という状況にある。非正規雇用で働く人は約2100万人に上っており、正社員・正職員以外の待遇改善は課題として残ったままだ。
もちろん、給与からは税金や社会保険料を差し引かれる。一般的には年収の7~8割程度となり、正社員・正職員の男性の手取り額は409~467万円、女性は285~326万円に、「それ以外」の人は男性が189~216万円、女性は116~139万円となる。扶養家族の有無や暮らしている場所によっても異なるが、1カ月に使うことができる手取り額の差は物価上昇局面で深刻なものとなる。
内閣府が4月8日発表した3月の景気ウオッチャー調査によると、街角の景況感を示す現状判断指数(季節調整値)は前月比1.5ポイント低下の49.8となり、2カ月ぶりに悪化した。2月の「毎月勤労統計調査」(従業員5人以上の事業所)では1人あたりの実質賃金が前年同月から1.3%減少、マイナスは23カ月連続となっている。物価上昇の勢いに賃金上昇が追いつかなければ、老後に備えた資産形成どころではないのは自明だ。
「1000万円の壁」を超えても余裕のある暮らしは難しい?
では、年収がいくらになれば余裕を持つことができるのだろうか。よく言われるのは「1000万円の壁」である。年収1000万円超(1500万円以下)の給与所得者は4%程度で、世帯で見ると約13%となっている。扶養家族や賞与などによっても異なるが、1人が年収1000万円を稼ぐ場合(どちらかが主婦・主夫)の手取り額は約735万円で、月に約61万円となる計算だ。夫婦共働きで計1000万円の世帯は約770万円、月に64万円程度となる。
一見すると、かなり余裕のある暮らしができそうなのだが、総務省の「家計調査報告」(2023年)をみると実はそうでもないことがわかる。2023年の2人以上の世帯(平均世帯人員2.90人)の消費支出は、1世帯あたり1カ月平均29万3997円で前年に比べ名目1.1%の増加となった。消費支出を費目別に見ると、「食料」は8万6554円▽「その他(仕送り・諸雑費など)」4万5777円▽「交通・通信」4万2838円▽「教養・娯楽」2万9765円▽「光熱・水道」2万3855円▽「住居」1万8013円▽「保健医療」1万4728円▽「家具・家事用品」1万2375円▽「被服・履物」9644円―などとなっている。
自らのライフプランをしっかりと考えていくことが何より重要
ただ、これは世帯主の平均年齢が60.2歳なので年金収入に頼る高齢者も含めたものだ。子育て中の家庭や都心部で暮らす人々の実情を反映しているとは言えない。保育園や幼稚園、その他の教育費用や賃貸・住宅ローンの返済などを考えれば、単身世帯であれば贅沢な生活をできるかもしれないが、子育て世帯では理想通りの豊かな生活を送ることは難しいと言える。一般的には年収が上がれば生活水準も上昇するため、逆に苦しい生活が待っているということもあり得るのだ。
その意味では「1000万円の壁」というのは大台に乗れば生活が楽になるものではなく、子育て家庭においては逆に生活水準をどうするのか試されるポイントと言える。子供に積極的な「教育投資」をしたり、豪華な家やマイカーを購入したりするなら年収をさらに上げていかなければ生活は苦しくなるのだ。
1つ言えることは、足元の賃上げや物価状況に振り回されることなく、自らのライフプランをしっかりと考えていくことの重要性だろう。自分のキャリアはどう形成していきたいのか、いかにスキルアップして所得を増やしていくのか、家族や子供にはどうなって欲しいのか。正社員として働くのか、非正規雇用でも良いのか。老後生活のイメージをすることも欠かせない。
そのためには、今の職場が自分の人生にとって「良い場所」なのか今一度、見極めることをオススメする。