キャバクラ「ガチ恋客」に襲われた女性の後悔、店長から「嫌がれば何もしてこない」と言われたのに…
「拒否していたのにもかかわらず、ホテルで襲われました」。中部地方在住の女性リカさん(40代・仮名)は一昨年夏、知り合いの男(50代)から、エレベーターで無理やりキスされ、後日にはホテルの一室で同意なく、わいせつな行為をされてケガまでしたと主張する。
「マインドコントロールされていたんです」。あとから"被害"を認識したリカさんは、昨年に被害届を出して、警察に受理された。現在、男は強制わいせつ致傷の疑いで書類送検されて、地検の判断を待っている状況だという。
昨年2023年は、性犯罪に関する刑法改正案が可決・成立して、強制わいせつ罪が「不同意わいせつ罪」、強制性交罪が「不同意性交罪」になるなど、大きな動きがあった。今回の事件は法改正前に起きたわけだが、いったい何があったのだろうか。(ライター・渋井哲也)
●相手は「キャバクラの客」だった
リカさんによると、男との出会いは、事件の1カ月前のことだった。
アルバイト先であるキャバクラに、男が部下を連れて来店した。そのとき、キャバクラの店長から「ボスっぽい人(男のこと)、絶対、リカさんのことを気に入っている。あの人について」と言われた。
その言葉通り、男はリカさんを気に入って、場内指名した。そして、「リカちゃんさ、僕、錦(名古屋市の繁華街)とかもよく行くから、今度、同伴しようね」と誘ってきた。
のちに被害に遭うことを知りもしないリカさんは、素直に連絡先を交換した。すると、毎日のように、男からLINEのメッセージが送られてくるようになった。
「『来月末に同伴してくれる?』と聞いてきました。本業の仕事があるから、休みの日しか同伴できないとやんわりと伝えました。すると、『その日に1日デートできるってことでいいのかな?』というメッセージが来たんです。ちょっと気持ち悪いと思って、店長にも相談しました」
1日中、店の外で会うのをためらい、休みの日だったけれど、わざと本業の仕事を夕方に入れた。
「この日は、男とランチに行って、その途中で仕事に行きました。そして、仕事が終わって、男の車に戻ったら『18時から、高層ホテルの最上階を予約している』と言われました。『ホテルとってあるから休もう』とも言われて、ゾッとしつつも、困りました。お客さんだから、機嫌を損ねずに断らないといけないからです」
●2人きりのエレベーターでキスされた
車の中で、男の手の甲は、リカさんの身体を触ってきた。リカさんは、ホテルの部屋に入ったとしても、とぼけていれば、初回だから断れると思ったという。
ホテルのエレベーターでは、1階から最上階まで2人きり。その中で抱きつかれて、キスされて、尻も触られた。しかし、なんとか拒否して、同伴で店に行くことになった。
男は「ごめんね」「うちは、会社員だから無茶なことはしない」「嫌いにならないでね」「また会ってくれる?」と言ってきた。
「店長には『このお客さん、もう対応したくない、もう切りたい』『ホテルの部屋とっていたんですよ』と言いました。
しかし、『このお客さんは、大勢(の客を)連れてくれるから、なんとかうまいこと言って』『多分、リカさんのこと、めちゃくちゃ好き。ガチ恋だから、多分、本気で嫌がったら、嫌がることをしないと思う。そこはうまいことやって』とお願いされました。
私、本業じゃないから、本業の子に迷惑をかけてはいけないと思って、『わかりました』となりました」
●二度目の同伴で無理やり押し倒された
すぐに男から「また会いたい」という連絡がきた。リカさんは男を遠ざけたかったためもあり、同伴を1カ月先に伸ばすことにした。
「普通、同伴がほしかったら、1週間後の約束とかをすると思うんです。でも、嫌だったから1カ月後にしました。たぶん男は『同伴=デート』と思うタイプなので、面倒くさいと思ったんです」
そして、事件の日になる。男は高級ホテルのディナーを誘ってきた。
「(ホテルのディナーをとったことを)約束したあとに言うんですよね。だから、また部屋をとっていると思ったんです。この前も拒否しましたから、本気で嫌がったら大丈夫かな?と思って油断していました。
同伴で店に行くには、20時にホテルを出ないといけない。18時からディナーして、19時か、19時半ごろに食事を済ませました。そして、化粧品を忘れたことにして、買ってくることにしました。
そして、19時45分にLINEで『何号室ですよね?今から行きます』とメッセージを送りました。時間稼ぎになると思ったんです。この短い時間では、何もできないはずだと…」
しかし、実は、店のルールとしては、同伴の場合なら遅刻をしても、女性スタッフにはペナルティはない。そのことを男は知っていたようだ。
「19時45分にホテルの部屋に行って、『(同伴の)支度をさせてもらいます』と言って、トイレに行こうとしたら、男が襲ってきました。抱きつかれて、そのまま押し倒されました。『どうしよう?』とパニックになりました。
身体が密着して、しかもホテルのベッドがふかふかだったので、強く押し返せない。『嫌だ』『やめて』『無理です』と言ったんですが、男には通じません。『嫌がっているけど、本当は嫌じゃないんでしょ』という頭になっていました。口を開くと、舌で舐められてしまう。そして、そのまま…」
●過去の性被害経験ですぐに「被害届」を出せなかった
すぐに被害届を出せなかったのは、事件後しばらくの記憶がほとんどないためでもある。過去に性被害に遭ったことがあり、解離状態になりやすくなっていたという。
その後、「犯罪被害者の会」に顔を出すようになった。その中で、被害者心理の1つである<付き合ってしまえば、被害が被害でなくなる>という考えになっていたこともわかった。
「男は、私と付き合っていると思い込んでいました。私も『もう、しょうがない。悪い人ではないし』という『迎合反応』(性被害者の心理・自己防衛反応の1つ。怒りや感情を出さずに、相手の期待に合わせる反応)になりました。
性行為のあとの、ご機嫌取りもすごかった。『リカちゃん、好きだよ』などと何度も言っていました。男は、デートしても、私が喜んでいるのかを気にしていたんです。『うれしい』と言ってあげると、男はホッとしていました。
だんだん男に慣れていきました。一時は、関係を受け入れたと自分でも思い込んでいました」
しかし、男は既婚者だった。そして、リカさん自身も別の相手との結婚が決まっていた。
「男と関係を持ったことで、結婚は破談になりました。精神的にも不安定になりました。男に『裁判で訴える』と言うと、『離婚する』と約束しました、しかし、離婚するどころか、私を"ストーカー扱い"までしたのです」
今回の事件は、夜の仕事の女性スタッフに対する性加害だった。指名・同伴されていれば、女性スタッフも誘いを断りにくい面が出てくる。こうした問題にメスを入れることができるのか。
また、少なくともリカさんは当初、口頭では拒否の姿勢を示していた。男はそれを振り払った末に、加害の疑われるわいせつ行為をしている。はたして起訴までされるのか。事件の推移を注視したい。