この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

米NYのジャビッツ・センターで開催されている2024年のNRFビッグショー(全米小売業協会主催)は、人工知能(AI)やオムニチャネル・リテール、リテール・メディアなど、時代の先端を行くトピックが主要なトピックになりそうだ。

1月14日日曜日から1月16日火曜日に開催されるこのイベントは、パネルディスカッションやネットワーキング、ベンダー企業の展示などが行われる小売業界最大のカンファレンスのひとつだ。昨年は3万5000人が参加した。

NRFは、その規模と新年に近いことから、多くのブランドや小売のエグゼクティブが何らかの形で参加する重要なイベントであることに変わりはない。NRFは新年のアジェンダを設定し、今年の小売業界にとってどのようなテクノロジーが重要であるかを明確にするものだ。たとえエグゼクティブがジャビッツ・センターに足を踏み入れなくても、おそらくハッピーアワーには参加するだろう。第4四半期の売上を聞いたり、昔の同僚と再会したり、テクノロジー・ベンダーに特定のSaaS企業に対する不満をぶつけたりするチャンスだ。あるいは、ベンダーを避けながらeメールをキャッチアップすることもできる。

どんな大きな業界カンファレンスでもそうであるように、NRFをほかのカンファレンスよりも重要だと感じるエグゼクティブもいる。テクノロジー・ベンダーは、新規顧客を開拓し、既存の顧客と直接会う機会を待ち望んでいる。しかし、特定の目的、たとえば新しいCXプラットフォームを見つける、新しい投資家に会う、限られたエグゼクティブ・グループとつながる、といった目的を持って参加しないブランドや小売のエグゼクティブは、イノベーション・ブースの海にすぐに圧倒されてしまう。

これは、NRFがいかにテクノロジー・イベントになっているかを浮き彫りにしており、ショップトーク(SHOPTALK)よりもCESに近いという声もある。

AIがより前面に



3日間にわたる長いスケジュールをざっと読むと、リテール・メディア、バーチャル・リアリティ、オートメーションといったテクノロジーの活用に触れるセッションが何十もある。たとえば、カスタマー・エクスペリエンスやフロントライン・オペレーションといった小売の「変革(transforming)」分野に関するセッションは、アジェンダの至るところで目立つ。

CESでもそうであったように、今年のNRFでもAIが前面に押し出されている。オンラインに掲載されたアジェンダによると、初日の14日だけでもAIに関するイベントが12以上もある。トピックは、ジェネレーティブAIからPOSを高めるためのAI活用まで多岐にわたる。AI技術を販売するベンダーもこのイベントで存在感を示すだろう。

DX支援を行うCI&Tのリテール戦略ディレクター、メリッサ・ミンコウ氏は、NRFでAIについて学べることに期待しているが、セッションの内容が同じことの繰り返しにならないことを確認したいと米モダンリテールに語った。「私は、AIの新しい応用例と、それに関する小売企業の素晴らしい成功例を聞きたいと思っている」というミンコウ氏は、特にマーチャンダイジング以外の小売機能におけるAIの応用について知りたいのだという。

食品分野の重視



例年通り、機械学習やロボット工学など、小売業向けの新しいテクノロジーを紹介する「イノベーション・ラボ」も開催される。1000社以上の出展者が「エキスポフロア」に点在し、自社の製品や小売ソリューションを紹介する。

NRFでは、食品分野も例年以上に重視される。今年のショーでは新たに「フードサービス・イノベーション・ゾーン」が設けられ、フードテックに焦点を当てたブースが50社以上展示される。これらのブースで紹介されるソリューションは、スマートラベルから盗難防止技術までさまざまである。

コンサルティング会社アルバレス&マーシャルのコンシューマー&リテール・グループでシニア・ディレクターを務めるジョン・クリア氏は、食料品ブランドや食料品店に対して、テック系ベンダーがどのように製品を売り込むのか、興味津々だと米モダンリテールに語った。「食料品小売業は、一部の顕著な例外を除けば、店舗内でのテクノロジー導入という点で、やや出遅れている分野だと思う」と同氏は話した。

ソフトウェア・ソリューションへの偏重



例年と比較して、今年のNRFのプログラムは、より実用的なユースケースに重点を置いているようだ、とミンコウ氏は言う。以前のNRFのイベント、特にパンデミック全盛期には、サプライチェーンの危機やインフレ、パンデミックなど、「小売業者がコントロールできない、大きなマクロの力」に焦点が当てられていたという。「今年のアジェンダは、小売企業が『よし、細部にまでこだわって、オペレーション・モデルを微調整しよう』というような、もう少しコントロール可能な瞬間を反映していると思う」と同氏は付け加えた。

スピーカーには、ウォルマート(Walmart)やイケア(IKEA)、メイシーズ(Macy's)、アマゾン(Amazon)といった小売大手の幹部が多数名を連ねている。キャスパー(Casper)やグロシエ(Glossier)のような新興ブランドの幹部がパネルに登壇している一方、中小企業は今年、大企業や小売チェーンほど中心的ではない。バイヤーや投資家とのつながりを求めている中小ブランドによれば、大規模なイベントは、具体的な目標を達成する上で方向性が定まらないように感じられるだという。

「もちろん、カクテルを飲むために参加するんだ」と話すD2Cマーケティング担当者は、今年もいくつかのセッションやアフターアワー・パーティーに参加する予定だという。冗談はさておき、この担当者はここ数年、NRFはますますソフトウェア・ソリューションに重点を置くようになり、「小売」にはそれほど重点が置かれなくなったと語った。「正直なところ、ベンダーとはあまり話したくない。「売り込みの話を聞くのは構わないが、この種のイベントでは、それが過剰になることがある。

一方、米モダンリテールの取材に応じた3人のCPGブランド幹部は、NRFのカンファレンスには参加していないといい、そのうちの1人は、時間がかかるため、小売バイヤーに会うためには、エキスポウエスト(Expo West)のような、より専門的な展示会に参加することを好むと述べた。

ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)のチーフ・コマース・ストラテジー・オフィサーであるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、「NRFは専門的な要素もあるが、最終的には一般的なイベントだ」と指摘する。また、「それがNRFの長所でもあり短所でもある。デジタル・カスタマー・エクスペリエンスやロス防止、リテールマーチャンダイジングのイノベーションに関するすべてを見たいのであれば、必ずしも最適な場所ではない。それぞれに焦点を当てた専門的な展示会がある」と語った。

[原文:NRF’s Big Show is all about AI in 2024, as retail’s biggest conference has become a tech event ]

Gabriela Barkho and Julia Waldow(翻訳・編集:戸田美子)