激動の2023年アメリカ動画業界に見る、「 テレビ の未来」
記事のポイント
2023年は脚本家組合と映画俳優組合の2つの大規模なストライキが発生。特に、148日間にわたった脚本家組合のストライキはハリウッド史上2番目に長いもので業界に大きな影響を及ぼした。
ディズニー、、ディスカバリー、Netflix、Appleなど、主要ストリーミング企業がバンドルプランを打ち出し、サブスクリプション価格の値上げが進行。
ジェネレーティブAIの使用が著しい進歩を遂げ、脚本執筆や俳優の代用など、AIの使用領域や制限がストライキの主要な議題にも取り上げられた。
2023年は脚本家組合と映画俳優組合の2つの大規模なストライキが発生。特に、148日間にわたった脚本家組合のストライキはハリウッド史上2番目に長いもので業界に大きな影響を及ぼした。
ディズニー、、ディスカバリー、Netflix、Appleなど、主要ストリーミング企業がバンドルプランを打ち出し、サブスクリプション価格の値上げが進行。
ジェネレーティブAIの使用が著しい進歩を遂げ、脚本執筆や俳優の代用など、AIの使用領域や制限がストライキの主要な議題にも取り上げられた。
数十年に一度のハリウッド大規模スト。バンドルの復活。低調で買い手市場のアップフロント。短編動画のレベニューシェア・プログラムの開始。そして忘れようのない、ジェネレーティブAI。
テレビ、ストリーミング、動画の業界に2023年との別れを惜しむ人は少ないだろうが、そう簡単に忘れられる年にはなりそうもない。筆者の記憶に深く刻まれた今年の出来事を、以下に振り返っていく。
ハリウッドの停止
脚本家組合と映画俳優組合による2つのストライキは、2023年に業界を最も揺るがした出来事といえるだろう。そして、それには理由がある。148日間にわたる脚本家組合のストライキはハリウッド史上2番目に長いものとなり、けっして束の間ではなかった118日間の映画俳優組合ストライキと相まって、業務停止の波及効果はいまだに業界に尾を引いている。狙ったわけではないにせよ、従来型テレビとストリーミングのビジネスがちょうど緊縮財政の時期を迎えていたことも痛手となった。
テレビネットワークとストリーミング企業のコンテンツ制作費が雪だるま式に膨れ上がるなか、俳優組合および脚本家組合との新たな合意によってさらに追加コストが積み重なったことで、映画・番組制作スタジオは支出の引き締めを決断した。これにより、既存のシリーズの制作が再開されたあとも、新番組はしばらく棚上げされた。結果として、2024年の番組ラインアップに、ひいては観客動員数やサブスクリプション登録数にどう影響が及ぶのかが懸念されている。
バンドルの復権
サブスクリプション登録者数についていえば、パンデミックに起因するストリーミングの登録者急増はもはや遠い昔の話だ。正確には、主要ストリーミング企業はいずれも再びサブスクリプション登録数を伸ばしたのだが、会員増加のための彼らの戦略は、サービスのバンドルが中心となっているようだ。
ディズニーはすでに、ディズニープラス/Hulu/ESPN+のバンドルプランを打ち出した。これに加え、ワーナー(Warner Bros.)、ディスカバリー(Discovery)、パラマウント(Paramount)、さらにはNetflixまでもが同様の動きを見せた。そして、Appleも参入の構えを見せている。
バンドルの復権と並行して、すべての主要ストリーミング企業がサブスクリプション価格を値上げしているようだ。値上げは制作費の上昇分を回収し、収益を確保するためのものだが、それが積み重なれば、インフレの背景も相まって、サブスクリプション疲れを引き起こす。そこでバンドルに再び注目が集まったというわけだ。2023年末の今となっては、従来型テレビの有料チャンネルのバンドルが破格の安さに思える。
広告市場の不況
2023年、緊縮傾向はコンテンツ側だけにとどまらなかった。数年続いた狂騒のあいだ、従来型テレビネットワークは広告主からのアップフロント・コミットメントの大幅な増加を享受してきたが、2023年のアップフロントは地に足のついたものとなり、広告支出はおおむね前年比で横ばいとなった。
夏以降も状況にあまり改善はみられない。ライブスポーツ(とりわけNFLと大学フットボール)を除いて、テレビおよびストリーミング広告市場は極めて軟調だ。第4四半期のスキャッター(アップフロントの売れ残り)テレビ広告市場は異例といっていいほどの買い手市場で、テレビおよびストリーミング広告市場全体を見ても傾向は同様だ。広告主の予算のボラティリティも沈静化する見込みがないなか(この話題については2024年1月3日付のブリーフィングで詳しく伝える予定)、こうした傾向は2024年になっても続くとみられる。
短編動画プラットフォームのレベニューシェア
短編動画プラットフォームが広告収入をクリエイターに分配するには、2023年は理想的な年とはいえなかった。それでも、YouTubeショートは今年、レベニューシェア・プログラムを開始した。Snapchat(スナップチャット)もこれに続き、TikTokは収益化オプションを拡充して、1分以上の動画専用のレベニューシェア・プログラムを導入し、既存の報酬分配プログラムのハイエンド版(TikTokパルスプレミア)を、バズフィード(BuzzFeed)、コンデナスト(Condé Nast)、NBCユニバーサル(NBCUniversal)などに提供しはじめた。
こうしたレベニューシェア・プログラムから、クリエイターやパブリッシャーがどれだけ収益性を見込めるのかは(アリッサ・マッケイ氏のような個別のケースを除いて)定かではないが、少なくとも物議を醸したクリエイターファンドからの着実な方針転換を示してはいるようだ。TikTok、YouTubeショート、インスタグラム(Instagram)はいずれも2023年にクリエイターファンドプログラムを廃止した。
短編動画クリエイターファンドは2023年を生き延びられなかったが、TikTokは米国で相変わらず存在感を示している。というか、筆者はその脅威をほとんど忘れかけていた。それくらい激動の年だったのだ。
ジェネレーティブAIの台頭
筆者が忘れられなかった脅威はAIだ。
ジェネレーティブAIは脚本家組合と俳優組合のストライキの主要な争点のひとつであり、いずれも制作スタジオから、脚本執筆や生身の俳優の代用といった目的でのジェネレーティブAIの使用の制限という譲歩を勝ち取った。広告主やコンテンツ制作者にとっても、ChatGPT、Runway、Midjourney、Photoshopのジェネレーティブフィル(Generative Fill)といったツールをワークフローにどう組み込むかが重要課題となった。
ただし、著作権法がジェネレーティブAIにどう適用されるかが、本格的な導入をある程度制限することになるだろう。とはいえ、ジェネレーティブAIに関しては、すでに蓋は開けられ、今さら元には戻せないのは明らかだ。
[原文:Future of TV Briefing: How the future of TV shaped up in 2023]
Tim Peterson(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島翔平)