ライドシェアは解禁すべきか否か? タクシー不足は明らかでも「反対意見」が根強いワケ
この記事をまとめると
■海外ではすでに一般的に行われている「ライドシェアリング」
■日本でもタクシー不足解消の手段のひとつとして導入検討の議論を本格化させている
日本でも「特殊な地域」だけ許可されているライドシェアは好評
一般のドライバーがマイカーを使って有料で人を運ぶ「ライドシェア(ライドシェアリング)」は、すでに海外の多くの地域でごく普通に行なわれている。アメリカでは2010年頃からはじまり、もはやあるのが当たり前なほど普及している。
その先駆けとなったのが、日本でもフードデリバリーで知られるウーバーだ。もともとはライドシェアからスタートしたことは、日本ではあまり知られていない。
そんなウーバーが日本でライドシェアを展開できないのは、法律で規制されているからだ。乗客を運送し、その報酬を受け取ることは、営業許可を受けた者しか認められていない。
許可された車両には「緑ナンバー」が与えられるのに対し、一般ドライバーが許可を受けていない自家用車を使って普通の「白ナンバー」のまま他者を有償で運送することは「白タク」と呼ばれ、れっきとした違法行為として取り締まりの対象となる。
なお、前出のウーバーCEOは、日本でも解禁された場合には、もちろん参入する旨を名言している。
ただし、そんな日本でも例外がある。過疎化が進む一部の地域において、地方創生を目的に、国家戦略特区制度により、運営団体が自家用車を使って利用者の運送を行なっている地域がすでに存在する。利用者からは好評だという。
そんなあくまで特殊な話だった日本におけるライドシェアが、ここへきてがぜん注目されはじめ、導入に向けて本格的に議論されるようになってきた。
理由としては、こうしたライドシェアのようなサービスが必要という切実な事情がある。背景にはいろいろな事情があるが、いずれも深刻なタクシー不足が大きく影響している。
たとえば、東京の浅草や京都などメジャーな観光地では、インバウンドが回復して一気に外国人観光客が増えて賑わっているが、タクシー待ちにものすごく時間を要している様子が散見されるようになった。あるいは前出のような過疎地でも、タクシーを利用したい人の数に対して、タクシーの数が足りていないところが多いという。
そんな両極端な状況のいずれにおいても、タクシーが不足している点で共通しているわけだが、それにはタクシーの車両自体が足りていないケースもあれば、車両はあってもドライバーが足りていないケースもある。タクシー会社で働く運転手というのは、コロナ禍前と比べて全国でじつに2割以上も減ってしまったからだ。
そこで、問題を解消すべくライドシェアを解禁しようという動きが政策側でも活発になってきた。
根強く残る反対意見とは
一方で、タクシー・ハイヤー議員連盟などからの解禁に反対する声も小さくない。根本的にライドシェアが普及するとタクシーの利用者が減るというごもっともな理由があるのはもちろんとして、それ以外にも軽視できない問題は多々ある。
まずは、利用者の安全確保だ。それなりの研修を受けたプロのドライバーが運転するタクシーに対し、ライドシェアは素人だ。それも構図としては、1台のクルマに知らない人と相乗りすることになる。安全確保徹底の面で、どんな課題があるかは想像に難くない。
そもそも、タクシードライバーにも社員と個人事業主があるが、厳しい資格や条件を満たした人しか個人タクシーを開業することができないのに対し、ライドシェアのドライバーは運営会社の社員ではなく、ごく一般の個人事業主である。個々のモラルの良し悪しが問題となるケースはすでに海外でも少なからず起こっており、日本でも同様のことは大いに考えられる。
また、運賃の設定や支払い方法にも課題がある。タクシーのように明確な基準を設けて専用の機器を搭載することは困難であり、しかも支払いは基本的にアプリとなることが想定されるが、ライドシェアを利用したい層というのは、アプリの利用に抵抗を感じる年代が主体となることが見込まれる。
運賃については、基本的には既存のタクシー料金よりも低くなることが見込まれるが、必ずしもそうとは限らず、いずれにしても利用者の理解が得られるような明確な基準を設ける必要がある。支払いについても柔軟な対応が望まれる。
こうした動きを受けて、タクシー会社とライドシェアの連携を図るための新たなモデルについての議論も始まっている。たとえば、タクシー会社がライドシェアのドライバーを育成したり、使用するマイカーの整備等を請け負ったり、さらには社員ドライバーが減って稼働していないタクシー車両を一般ドライバーの運転でライドシェアに使うなどといった話が出ているという。
小泉元環境大臣らにより発足した超党派の勉強会によって国会で行なわれたヒアリングでは、全国ハイヤー・タクシー連合会側からは、2種免許取得のための規制緩和や、ライドシェアの導入ありきではなく慎重な検討が必要といった声があったが、小泉氏はタクシー対ライドシェアではなく、お互いの溝を埋めて両立を目指すという旨を述べたという。
利用者にとっては利便性が向上して選択肢が増えるのはよいこと。そう遠くない将来に、おそらく何らか大きな動きがありそうだ。