複合施設「パピオスあかし」の7階屋上広場から見た山陽明石駅(右端)。姫路方面の電車が発車する(記者撮影)

兵庫県南部を基盤とする山陽電気鉄道の本線は神戸市の西代駅と姫路市の山陽姫路を結ぶ。東は神戸高速線を介して阪急神戸三宮または阪神神戸三宮と直結。さらに阪神線に直通して大阪梅田まで直通列車を走らせている。

山陽電車で乗降人員が最多

ルーツは1907年創立の兵庫電気軌道にさかのぼる。同社は1910年に兵庫―須磨間で開業、1917年に明石まで延伸した。一方、姫路方面へは神戸姫路電気鉄道が1923年、明石駅前―姫路駅前間を開通させた。2023年は明石―姫路間の開業100年にあたる。

両社はともに宇治川電気(関西電力の前身の1つ)の子会社となり、1927年に合併。翌年に兵庫―姫路間の直通運転を開始した。1933年に宇治川電気から分離独立して山陽電気鉄道が誕生した。1962年に日本初のアルミ車を導入した鉄道会社としての一面もある。

山陽電車の全49駅でもっとも乗降人員が多いのが山陽明石駅。所在地は明石市大明石町。2022年の乗降人員は2万7453人(11月8日調査)だった。

市の人口は約30万6000人(2023年11月1日時点の推計人口)で、兵庫県内の市町別でみると神戸市、姫路市、西宮市、尼崎市に次ぐ5位。だが、明石という地名は全国的に知られている。


高架の山陽明石駅ホームは2面4線。大阪梅田への直通特急が発着する(記者撮影)

対岸の淡路島との間には大阪湾と播磨灘を分ける明石海峡。1998年には明石海峡大橋が開通した(本州側は神戸市垂水区)。明石ダコや明石ダイなど地名を冠した名産品があり、地元では「玉子焼」と呼ぶ、タコを使った明石焼も高い知名度を誇る。

明石公園の東、東経135度の日本標準時子午線が通る地点に明石市立天文科学館がある。山陽明石から1駅東の人丸前駅にはホームに「東経135度子午線」と表示されたラインが入っている。


北側にJR明石駅が隣接。その奥に明石城の三層櫓と石垣を望む (記者撮影)

駅北側の明石城は、西国大名への備えとして1619年に徳川秀忠の命で小笠原忠政によって築かれた。城下町の町割りには宮本武蔵が関わったという。天守は築かれなかったが、2つの三層櫓と石垣は現在も街のシンボルで、一帯は兵庫県立の明石公園となっている。

最近では子育て支援が手厚いことなどを背景に若い世代が流入しているといい、11年連続で人口増加が続いている。その街の中心となるのがJR・山陽電車の明石駅周辺だ。

北に城跡公園、南には港

駅南側にはバスターミナルを挟み、2016年に再開発事業で誕生した複合施設「パピオスあかし」がそびえる。山陽電気鉄道も地権者として事業参画している。市役所窓口や「あかし市民図書館」「あかしこども広場」といった公共施設も入り、7階の屋上広場(12月〜3月は閉鎖)からは駅と城が一望できる。

パピオスあかしから歩道橋で国道2号を渡ると、海産物を扱う店舗が集まった「魚の棚」。地元では「うおんたな」の愛称で親しまれる商店街だ。そのすぐ先は港で、明石―岩屋間を13分で結ぶ航路「淡路ジェノバライン」が地元住民に利用されている。


「魚の棚」には海産物を扱う店舗が軒を連ねる (記者撮影)

兵庫電気軌道開業時、港の乗船場近くに明石駅が設けられた。1931年に国道2号上にあった明石駅前から明石までの区間が廃止され、明石駅前は100m北に移設した。1943年に「電鉄明石」に改名。1991年4月3日に高架駅となり、4日後の4月7日、現在の山陽明石へ駅名が改まった。


高架化工事が進む当時の明石駅付近。右側は旧地上駅(写真:山陽電気鉄道)

現在の山陽明石は高架の2面4線で、3階にあるホームの1・2番線が姫路・網干方面、3・4番線が神戸・大阪方面。ホームの東端付近にはビルの隙間に明石海峡を望めるポイントがある。

同駅の歴史を伝えるかのようにゼロキロポストも立っている。運用面では、駅の東側に中線、西側に渡り線があり、両側で折り返すことができる。

2階は東西に改札口が分かれる。駅の窓口や事務室があり自動改札機の台数も多いのは西改札口。改札外で「山陽たい焼き」の店舗が出迎える。

一方、東口はパピオスあかし2階に直結するペデストリアンデッキへのエレベーターがあり、ベビーカーでの利用にも便利という。魚の棚まで雨に濡れずに行くことができる。

東西を結ぶ改札外の通路には「山陽そば」の店舗がある。地下ではスーパーマーケットの「三杉屋」が営業。商業施設には「グルメファクトリー」という名称が付いている。

子供の利用が目立つ駅

明石出身の経営統括本部総務・広報担当の山口風馬さんは「都会といなかのちょうど中間にあっていちばん住みやすい地域。商業施設から海などの自然までそろっていてすべてがここで完結する」と話す。


山陽明石駅の中坪一弘駅長(左)と総務・広報担当の山口風馬さん(記者撮影)

平日朝のラッシュ時間帯は高砂市や加古川市にある駅から乗車し、山陽明石でJRの新快速などに乗り換える乗客が多い。一方、日中と休日は明石公園やパピオスを訪れる親子連れが目立つ。

中坪一弘駅長は鉄道がない宍粟市の出身で1987年に「電車を知らんまま入社した」。飾磨駅を皮切りに、車掌、運転士を経験。2019年に明石駅の助役となり、2023年9月、駅長に就任した。

最近の利用動向については「普通車(各駅停車)で到着する明石市内からの乗客が増えている」と指摘。「行楽シーズンには市内の幼稚園や保育園、小学校から天文科学館などへの団体利用もある」と説明する。

「子育ての街」はその玄関口となる駅の利用者層にも変化をもたらしている。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)