「無痛分娩は甘え」という人に言いたい! 実はしっかり陣痛があるって知ってた? “無痛分娩で産んでみた”レポ前編
出産には激痛が伴う。子どもがいる女性に「人生で一番痛かったこと」を聞くと「出産」と答える人も多い。その激痛を麻酔で緩和するのが無痛分娩だ。痛みはないに越したことはなさそうだが、一方で世の中には「無痛分娩は痛くないから甘え」「痛みを感じてこそ母になる」などという人もいる。
本当に無痛分娩は甘えなのか。母性が目覚めず“母親”になれないのか。筆者は昨年、30歳で第一子を無痛分娩で出産した。無痛分娩でも今までに経験したことのないほど痛かったし、子どものことはちゃんと可愛いので無問題だ。
そこで今回、無痛分娩を身をもって経験したものとして、無痛分娩はどういうものなのか、そして実際に産んでみたレポを前後編に分けてお伝えする。【文:市ヶ谷市子 / 医療監修:森女性クリニック院長 森久仁子医師】
無痛分娩をしても麻酔が効かない可能性も
出産の痛みは「鼻からスイカを出したくらい」「手指を切断するくらい」などとよく言われる。とりあえず非常に痛いらしい。そもそも、おしりの穴からだってスイカは出せないし、無麻酔で手を切りたくないよ……。
多くの人がイメージするお産こと自然分娩はこんなものではないだろうか。陣痛が来て、激痛に耐えヒッヒッフーとかの呼吸をして頑張って乗り越えたら泣き声が聞こえて「おめでとうございます、元気な赤ちゃんです!」と言われ、汗だくだくのお母さんがわが子を抱く。筆者もそのイメージが強く、お産とはそうあるべきなのかな、とも思っていた。
しかし、妊娠して無痛分娩にするか迷っていたとき、3人産んだ先輩ママから「自然分娩プラス10万円くらいなら断然無痛!」と言われた。10万円って結構高いけどそんなに言い切るレベル!? と思い無痛分娩にした。
妊娠して分娩を予約するまで、なんなら妊娠後期に病院から詳しい説明を受けるまで、筆者の“無痛分娩”の知識は「自然分娩より楽で痛くないらしい」「お金かかるけどいいらしい」というものだった。
病院の説明によると、最大のメリットは「陣痛の緩和」だ。麻酔が効いているので出産前に股を切ったり、出産後に縫ったりするときの痛みもないという。しかし、陣痛が来て子宮口がある程度まで開くまで、麻酔は入れてもらえない。“無痛”というくらいだから最初から最後まで痛くないと思っていたが、結局痛みを感じなければいけないらしい。
また、「無痛分娩は産後の回復が早い」ともいうが、これは陣痛に耐える時間が短くなるからであって、分娩時間が長くなれば、その分疲労は蓄積されるという。股から人間を出すことには変わりないのだ。
麻酔が効かない人もいるというのも驚いた。陣痛の痛みを抑えたために分娩の進行が遅れたり、状況が急変して緊急帝王切開となったりする人もいるとの説明を受けた。それでも少しでも痛みを抑えたいと思った。
分娩施設のうち無痛分娩を行っているのは全体の26%で、都会に集中
海外の事情を見ると、アメリカやフランスでは出産の7〜8割が無痛分娩だという。それに対し日本は8.7%と少ない。
日本の女性が無痛分娩を諦める主な理由は「取り扱い病院が少ない」「費用面」ではないだろうか。無痛分娩関係学会・団体連絡協議会の調査(2020年)によると、分娩を取り扱う全国1945の医療施設のうち、無痛分娩を行っているのは505施設、全体の26%に留まっている。
無痛分娩に対応できる病院は都会に集中している。筆者の実家は地方なので、里帰り出産をするなら無痛分娩を諦めなければいけない。
費用については施設によって異なるが、自然分娩だと大体30〜70万円、無痛分娩だとプラス10〜20万円ほどが相場となる。かかるのは分娩費だけではない。妊娠期間中の妊婦健診の費用もある。妊娠は病気ではないので、これら全てが医療費10割負担だ。ただでさえ出費がかさむのに、これ以上は……と無痛分娩を諦める人もいるだろう。
これだけで済めば、まだいい方だ。筆者の場合は、産前に3週間ほど入院(これは保険適用だったが)となり、健康保険組合から支給される当時42万円の出産育児一時金を差し引いても、妊娠から出産まで60〜70万円を自己負担した。入院はずっと大部屋で、ホテルみたいな設備も産後エステもインスタ映えな食事もなかったのに、だ。
取り扱い施設の少なさと費用面に加え、周りから「無痛分娩は痛くないから甘え」「痛みを感じてこそ母になる」と言われて選ぶのをためらう人もいるだろう。筆者の実母もオーガニック大好きナチュラル志向の人間で、無痛分娩にするというのは伝えづらかった。
幸い実家・義実家ともに、無痛分娩だと伝えても何も言われなかった。産後に知ったことだが、親たちは言わなかっただけで思うところはあったようだ。「出産するのは自分!」であるが、ただでさえナーバスになる時期に考えを否定されると、簡単に揺れてしまうものだから、あの時に知らなくてよかったと思う。