『ドラゴン桜』に登場する「リアル水野」な東大生、松島かれんさんに話を聞きました(写真:松島かれんさん提供、漫画:©︎三田紀房/コルク)

覚えられない、続けられない、頑張ってもなぜか成績が上がらない――勉強が苦手で、「自分は頭が悪い」と思い込んでいる人も、実は「勉強以前の一手間」を知らないだけかもしれない。

そう話すのは、中高生に勉強法の指導をしている「チームドラゴン桜」代表の西岡壱誠さんです。

「僕も昔はこれらの工夫を知らなくて、いくら勉強しても成績が上がらない『勉強オンチ』でした。でも、『勉強以前』にある工夫をすることで、『自分に合った努力のしかた』を見つけられて、勉強が楽しくなったんです。効果は絶大で、偏差値35だった僕が東大模試で全国4位になり、東大に逆転合格できました」

西岡さんをはじめとする「逆転合格した東大生」たちがやっていた「勉強以前の一工夫」をまとめた書籍『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売前に1万部の増刷が決まるなど、いま話題になっています。ここでは、逆転合格した東大生を取材し、彼らの勉強法を紹介します。

自信のない彼女が「東大」を目指した理由

「小さい時から頭が良かった人」や「環境に恵まれた人」ではないところから、東大に合格した東大生たちのことを、僕たちは「リアルドラゴン桜な東大生」と呼んでいます。


ドラマや漫画の世界の話ではなく、現実にドラゴン桜のような「一発逆転」で合格した東大生というのは、確かに存在するのです。

今回は、一般受験をする人がほとんどいないような環境で、偏差値39から見事東大に現役合格した、松島かれんさんに話を聞きました。

松島さんが通っていた高校は、内部進学で附属の大学を目指す生徒が非常に多い高校です。

学校のカリキュラムも受験勉強だけに焦点を当てる授業ではなく、家庭科や音楽、美術や文学などいろいろな授業にもとても力を入れていました。

そのため、音楽や部活、家庭科など、それぞれの「好き」をまっすぐ大切にできる温かい環境だったと松島さんは言います。受験以外に力を入れている環境なので、そもそも「東大を受験しよう」とはなかなか思えないような環境だと言えるでしょう。

そんな中で、彼女は東大を目指すようになりました。

「自分の学校の友人たちはみんな、音楽、美術、運動、家庭科など、1人ひとり得意なことがあり、かっこいいなぁと心から思っていました。でも、自分はなにをやってもうまくいかなくて……。自分には、得意なことも、胸を張れるものも何もなかったんです。『自分も友人たちのように、なにか自分の強みを持ってみたい!』と思うようになりました。自分でも努力したらなんとかなるかもしれない、と思えたのが勉強だったんです」


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話してみて非常に強く感じたのですが、彼女は、人よりも何倍も「自信がない」人でした。

「自分はどうしてこんなこともできないんだろう」「他の人にはできるのに、自分はなんて不器用なんだろう」と考えることが多かった彼女は、その自信のなさをバネにして、勉強にのぞむようになったと言います。

もう1つ、彼女が東大を目指したきっかけがありました。それは、中学時代にマーシャル諸島に行った時のことでした。

「『ミクロネシア諸島自然体験交流事業』というものに応募して、初めて海外に行ったんです。その時に、その大自然に対して非常に感動してしまって。『世界には、自分の知らないもっと素晴らしい世界があるんだ』と考えるようになって、『いろいろな世界を見てみたい! 学んでみたい!』と思うようになったんです」

この出来事がきっかけで、より広い世界を見ることができる場所として、東大を目指すようになったのだと言います。東大は、1〜2年生の間はどの学部でもかなり自由に好きな授業を受けることができ、そのあとで、自分の好きな学部にいくことができます。この制度は、彼女の「自分の知らない世界を見てみたい」という願望ととてもマッチしていたのだと言います。

ちなみに、彼女は東大合格後、実際にこの制度をフル活用して、文系で入学したにもかかわらず大学3年生から理転して農学部に入り、今では海洋の研究を行っているのだとか。

偏差値30台、あだ名は「耳なし芳一」

しかし、彼女の当時の学力は偏差値30台。東大とはかなりの距離がありました。そのギャップを埋めるために、彼女はとんでもない勉強をしていました。

手や腕や爪や脚などに覚えなければならない英単語や歴史の年号・イベントを書いて、普段から見るようにしていました。こうすれば、体育の時間でも、行き帰りのちょっとした時間でも勉強できるので。テニスとかをするときも、手をいろんな角度から見ることができるので、単語を見ることができるんですよね」

小さい時のおつかいのように、手や腕に単語を「書いて」覚えていたわけですね。ちなみに、当時の彼女のあだ名は「耳なし芳一」。耳以外の身体全体にお経を書いていた「耳なし芳一」のエピソードとそっくりだったそうです。

「学校の行き帰りでも、単語帳を見つつ、リスニングをしながら歩いていました。シャドーイングといって、英語を耳で聞きながら自分でも発音する勉強もしていたので、すれ違った人に何度か振り返られましたね」

そりゃ、身体にいろんな単語が書いてある女の子がボソボソ何かを発音しながら、何かを聞きながら、単語帳を見ながら歩いていたら、2度見どころか3度見するだろうなと思うのですが、そこまで本気になって勉強していたわけですね。

当時の勉強時間は1日14時間。寝ている時間以外はほぼ勉強をしていて、なんなら参考書を胸に抱きかかえながら眠って、夢でその参考書の内容を勉強していたこともあったそうです。

手帳でスケジュールだけではなくモチベーションを管理

「また、毎日手帳をつけて勉強していました。勉強のスケジュールを事前に立てるためだけでなく、『ああ、こんなに自分は頑張れたんだ』『これから先も、一歩ずつ頑張り続けたい!』と後から振り返って、『自分がどれくらい勉強していたのか』『どの科目でどれくらい勉強していたのか』を記録するためです。あとから何度もこれを読み返すことで、挫けそうになってしまった時に『ああ、こんなに自分は頑張れたんだ』と思えるようになったんです」

実はドラゴン桜でも同じようなシーンがあります。東大を目指している中で心が折れそうになった水野が、自分がどれくらい頑張っていたのかを振り返って、決意を新たにするシーンです。





(漫画:©︎三田紀房/コルク)

彼女の合格手帳は3冊も書かれていて、そのどれもにビッシリと勉強の軌跡が書かれていました。彼女にとって手帳は、後から自分に元気をくれるものだったわけですね。


(画像提供:松島かれんさん)

勉強を始める「前」に手帳を読み返す

そして、勉強を始める前には毎回、この手帳を読み返し、書き足してから勉強していたと言います。昨日の勉強を確認して、今日はどれくらいの勉強を終わらせればいいのかという目標を立てた上で勉強していたのだそうです。

計画をうまく立てて勉強するというのは、東大生の多くが実践している方法です。彼女の場合、その勉強にどれくらいの時間がかかるのかを考えてメモしていたそうです。画像のように○で時間を囲み、その勉強を終わらせる目標の時間を設けて勉強することで、だらだらとではなくきちんと「この時間内に終わらせよう」という意識を持つことができるというわけですね。

でも、どうしてそこまでの彼女は勉強できたのでしょうか? それは、勉強して、自分の世界を広げることを楽しんでいたからだと言います。

「知らないことを知る」楽しさ

「マーシャル諸島に行った時に、カラフルなサンゴ礁がたくさん広がり、魚たちもいて……今までの人生で一度も見たことのない、壮大な海と、壮大な星空を五感で感じました。実は、勉強はそのマーシャル諸島で感じたことと似ているんです。勉強も、今まで全然知らなかったたくさんの世界を1つずつ知っていく……そんな感覚があります。勉強を通して、自分の世界が一歩ずつ一歩ずつ広がっていくのが、すごく幸せなんです」

彼女にとって勉強は、自分の世界を広げるための活動だったわけですね。世の中のことを知り、そして将来の自分の可能性を広げてくれる手段だったのです。だから彼女は、どんなにつらくてもずっと勉強を続けることができたのです。

こちらも同じように、勉強が楽しくなる瞬間がドラゴン桜でも描かれていますね。





(漫画:©︎三田紀房/コルク)

この猛勉強によって、彼女は見事現役合格できました。1日14時間のがむしゃらな努力が実を結んだのです。その努力について、彼女はこんなふうに言っていました。

「効率的な勉強」より「自分に合った勉強」が大切

「私は、効率的な勉強ができるほど器用な人間ではありませんでした。だから、自分はとにかく質よりも量を重視して頑張ろうと思ったんです。質のいい勉強をする方をかっこいいなぁと思っていますが、でも私にはやっぱり要領のいい勉強はできなくて……。なので、とにかく問題集を何十周もして、ひたすら量をこなしながら、量で質をカバーできるよう、一生懸命勉強していました」


確かに、彼女のやり方は効率的なものだとは言いがたいと思います。でも、彼女は彼女にぴったりの努力をすることに成功したのだと僕は思います。

彼女の話を通してみなさんに理解してもらいたいのは、「自分に合った努力をするべきだ」ということです。

東大生は、効率的な人ばかりではありません。彼女のように量を積み重ねた人も、過去問を50年分解いて合格した人もいます。逆に、机に座り続けるのが億劫で、1日1時間しか勉強せずに東大に合格したという人もいます。

つまりは、人それぞれ、自分に合った努力をすれば結果が出る、ということです。

効率を考えるのが苦手なら量を積み重ねればいい。逆に、量を積み重ねるのが苦手なら効率を考えればいい。

とにかく自分のことを理解し、自分にマッチした努力をするべきなのです。みなさんもぜひ、参考にしてみてください。

(チームドラゴン桜 : 勉強法研究のスペシャリスト集団)