(写真:umaruchan4678/PIXTA)

2024年の新NISA開始まで数カ月、続々と対象商品が発表されるなど注目が集まっています。一方、今年で終了する現行NISAはすでに影を潜めつつありますが、まだ十分に使えます。今からでもNISAを始めるメリットを挙げてみましょう。

非課税枠は大幅に拡大

来年から刷新する新しいNISA制度では、従来はどちらかひとつしか利用できなかった一般NISAとつみたてNISAが一本化され、ひとつの口座で「成長投資枠」年間240万円、「つみたて投資枠」年間120万円、合計で年間360万円を利益への課税なく投資できるようになります。

これまで期限があった非課税期間は無期限化し、運用で得た利益にはずっと税がかかりません(通常は20.315%課税)。利用できる非課税の総枠も1800万円(うち成長投資枠は1200万円)と、現行制度より大幅に拡大します。

さらに新NISA口座では保有していた株式や投資信託を売却すれば、その取得価額分の枠を再利用することが可能になります。また、制度としても期間限定だったものが恒久化しますので、枠の再利用をすれば生涯を通して1800万円以上を新規投資することもできます(ただし、枠が復活するのは売却した翌年です。また短期間で売却と買い付けを繰り返す回転売買は過剰な手数料負担や、十分に運用効果を上げる期間を確保できないおそれがある点にも注意が必要です)。

これだけあれば新NISAだけで十分という人も多いと思いますが、少しでも多く非課税での運用にお金を充てたい場合には、現行のNISAと併用することができます。

新しいNISAの非課税投資枠は、現行NISAの非課税枠(一般NISAは年間120万円、つみたてNISAは年間40万円)とは別枠です。現行制度の非課税投資枠を利用していても、2024年以降の新NISAの非課税枠が少なくなることはありません。

仮に今年に現行の一般NISAで120万円を投資して、2024年以降に新NISAで1800万円を投資すると、生涯で利用できる非課税枠は合計1920万円になります。新旧併用すれば非課税枠を広げることができます。

一方、現行NISAの非課税投資枠を今年中に使い切らなかった場合、残枠があっても新制度の非課税投資枠に上乗せはできません。今年も来年以降も新規で投資に回せる余裕資金を用意できるということが前提にはなりますが、非課税枠の面だけでいえば、今年は現行NISA、来年以降は新NISAと、両方を利用するのが有利ということです。

来年以降も現行NISAは残る

現行のNISA制度は2023年末に終了し、現制度のもとでのNISA口座の新規開設や運用商品の新規買い付けは来年以降にはできなくなります。しかし既に開設済みのNISA口座はすぐに廃止されるわけではありません。運用していた資産は、非課税期間が終了するまで非課税のまま運用・保有できます。

2023年中に買い付け取得した資産については、一般NISAでは非課税期間5年間が満了する2027年まで、つみたてNISAは非課税期間20年間が満了する2042年まで、非課税で運用を続けられます。

注意したいのは、来年以降に新NISAの口座ができても、現行NISAの口座が新NISA口座に切り替わるわけではないことです。別々の口座を併用することになります。また現行NISAで買い付け・運用している株式や投資信託をそのまま新NISAに移し替える(ロールオーバー)ことは、現行制度の非課税期間が終了した後でもできません。

一般NISAから新NISAへも、つみたてNISAから新NISAへも、ロールオーバーはできません。現行の一般NISA・つみたてNISA口座の非課税期間が終了する前に売却するか、期間終了後に課税口座に払い出すことになります。

口座移動が面倒なら来年まで待つ手も

ただ売却して現金化すれば、その資金を使って新NISAで改めて買い付け・運用することは可能です。たとえば今年に40万円を一般NISAかつみたてNISAで投資をしたら、5年または20年の非課税期間終了前に売却し、その代金を新NISAへ投入するイメージです。

もっとも、今年投資できる資金があっても、あえて来年まで待って新NISAで投資する考え方もあります。今年の運用の機会損失という面では(市況によりますが)不利かもしれません。反面、新旧両方のNISA口座の管理や、今年の投資分の売却代金を新NISAへ移動させるのが面倒なら、最初から新NISAひとつにまとめてしまった方が楽という方もいることでしょう。

口座を開設するという面では、今年中にNISAを始めておけば、来年には自分で手続きをしなくても自動的に新NISAの口座が開設されるメリットはあります。

ほとんどの金融機関では、2023年中に一般NISAかつみたてNISA口座を保有している人には、自動的に新しいNISA口座が来年1月に開設される予定になっています。つまり同じ金融機関の中に新旧2つのNISA口座を保有することになります。

ただし自動的に新NISA口座が開設されるのは2023年にNISA口座を保有していた金融機関内です。別の金融機関で新NISAの運用をしたい場合には、自分で新規口座開設の手続きが必要です。2023年7月現在ではまだほとんどの金融機関が新NISAの新規口座開設手続きを受け付けていないようですが、年内に順次開始される予定です。

新NISAでは同じ投信を利用できない可能性も

非課税枠の拡大や無期限化など、全体的に新NISAは現行制度よりも資産形成を大幅に促進するしくみになります。一方で、対象銘柄は一部制限されます。

新NISAのうち「成長投資枠」では上場株式や投資信託が対象になりますが、投資信託については整理・監理銘柄、信託期間20年未満、高レバレッジ型および毎月分配型等のファンドは除外されます。

長期的な資産形成の観点では妥当な変更といえますが、どうしてもハイリスク、毎月分配型などで運用したい場合に、今のNISAでないと購入できない商品も出てくる可能性があります。

なお国内の公募投資信託は現在約6000本ありますが、うち新NISAの成長投資枠で購入できる投資信託(国内籍の投資信託、上場投資信託(ETF)、上場投資法人(REIT等))は7月現在で約1300本とされています。対象商品は今後12月まで複数回に分けて追加されていく予定ですが、最終的にも約2000本程度になると見られており、現行より絞られるようです。

つみたて投資枠の対象商品はつみたてNISAと同じ

新NISAの「積立投資枠」については、現行のつみたてNISAと対象銘柄は変わりません。現行NISAで積み立てている投資信託と同じ商品を、新NISAで引き続き購入することができます(※ただし現行NISAで購入したものは現行NISA口座で保有、新NISAで購入したものは新NISA口座で保有)。

対象商品は販売手数料がゼロ、運用にかかる信託報酬というコストが一定水準以下、分配頻度が毎月でないなど、長期の積み立て・分散投資に適した金融庁指定の投資信託に限られ、7月現在約250本が採用されています。

初心者にも運用しやすいといわれるものだけでなく、運用経験者から高く評価されている商品も多く、積み立て投資をする分には、新旧で使い勝手に違いはほとんどないと考えられます。

また新NISAの「つみたて投資枠」の対象商品は「成長投資枠」の対象商品にも含まれるものがほとんどで、つみたて投資枠と成長投資枠で、同じ投資信託を購入することも可能です。成長投資枠では一括購入のほか積み立てで投資をすることもできるので、非課税投資枠年間360万円の全額を、現行のつみたてNISAのように積み立てだけで使うことも可能です。

とはいえ投資にはリスクがあり、いくら税がかからなくても元本割れすれば保有資産が減ってしまうおそれと隣り合わせです。国は貯蓄から投資への流れを促進すべく、今回の新NISAをはじめ投資優遇措置を拡充していますが、投資には余裕資金を充てることは大前提です。

制度を最大限に活用するという意味では早くからNISAを始めるのが有利ですが、投資に回せるお金があるか、投資をした成果をいつ使いたいのかといったことも考えてからでも、遅くはありません。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)