子どもの脳に悪影響を及ぼすダメ習慣から、子どもの脳を育てるためのシンプルなメソッドまでご紹介します(写真:Fast&Slow/PIXTA)

子育て分野の科学研究は日々進んでいます。これまで個人の体験や感想だけを根拠に「絶対に正しい」 「効果的だ」 と言われてきた子育ての中にも、 どうやらそうではない 「ダメ子育て」があるということが、最新の研究結果からわかってきました。

しかし、残念ながら、そうした最新の科学の成果のすべてが、素早く子育てや教育の現場に伝えられて、実践されているわけではありません。

そこで、『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』の著者、アメリカのスタンフォード大学・オンラインハイスクールで校長を務める星友啓氏が、最新科学が明かした家庭でも簡単に実践できる子育て法を厳選して紹介します。今回のテーマは脳科学的に正しい子育て。子どもの脳に悪影響を及ぼすダメ習慣から、子どもの脳を育てるためのシンプルなメソッドまでご紹介します。

極度のストレスを避けることが非常に重要

生まれてから5歳までの時期が子どもの脳の成長に最も大事な時期の一つです。この時期に子どもの脳の発達をサポートするために最も重要なのが、ストレスをかけすぎないこと

小さな子どもの脳は、人間のDNAの設計図に従って、基礎的な脳の機能をどんどん発達させていきます。しかし、長期的に恐怖や不安などの、極度のストレスをかけると、脳の自然な発達が妨げられてしまいます

極度のストレスは、大人の脳にとっても悪影響を及ぼし、集中力や記憶力の低下につながることが知られています。そのため、特に小さな子どもの脳の発達には、極度のストレスを避けることが非常に重要です。

それでは子どもに極度なストレスを与える環境とはどんなものでしょうか?

もちろん、身体的な虐待はもっての外で、怒鳴りつけたり、罰を与えたりすることで、子どもの心に過度のストレスをかけてしまうこともあります。また、長期的な家族の不仲や子どものニーズに応えずに無視し続ける「育児放棄」は、体罰と同レベルの悪影響を及ぼします。

さらに、子どもの将来を心配しすぎて、無理にあれこれとやらせすぎてしまい、徐々にストレスをかけてしまうこともあるため気をつけなくてはいけません。

子どもとストレスとの正しい関係

ただ、子どもをすべてのストレスから遠ざけようとする必要はありません。 すべてのストレスが子どもの脳の発達に悪影響というわけではなく、適度なストレスは子どもが成長するうえで必要不可欠とさえいえるのです。

つまり強いストレスがサポートなしに長期間続く状態は避けるべきですが、日常の少しのストレスは、まったく問題ありません。  

勉強や友達関係、思いがけない出来事など、日常生活のさまざまな事柄が多かれ少なかれ子どもの心にストレスを与えます。そして、子どもはそれぞれの体験から、学びを得ます。

難しい問題がすぐに解けずにイライラしても、それを乗り越えることで、新しい知識が身についたり、友達との関係が少しこじれて悲しくなっても、いろいろ考えを巡らすことで、感情面や社会性が伸びていったりするわけです。

したがって、すべてのストレスから子どもを遠ざけようとせず、ストレスがかかった後にどう子どもをサポートできるかを考えることが重要です。

たとえば、家族で大げんかをしてしまったとしましょう。小さな末っ子もいて、家族のあまりのけんまくにおびえて泣きだしてしまいました。そんなことがあったら、すぐに優しく落ち着かせてあげて、その後同じようなことが何度も起きないように気をつける必要があります。

極度のストレスを放っておいて、子どもの心が傷つききってしまうと、それを癒やすのは非常に難しくなってしまいます。そのため、強いストレスに子どもがさらされてしまったときは、すぐに子どもの心をサポートして、その後そのストレスが続かないようにしましょう。そうすることで、子どもの心や脳への悪影響を最小限に抑えることができます

実際、子どもの心にトラウマが与える影響は、どんなトラウマだったかということよりも、その出来事が起きたときにどんなサポートがあったかで決まってくるともいわれているくらいです。

子どもの脳を育てる最もシンプルで最も効果的な方法

次に、積極的にやるべきことを解説しましょう。

まずは、最もシンプルで効果的、かつ子育ての基本となる方法をご紹介しましょう。前回記事でもご紹介したハーバード大学の「子どもの発達センター」が推奨する「サーブ&リターン(Serve & Return) 」という子育て習慣です。


最初のステップは「サーブ」から。テニスでいうところの、ボールの1打目のイメージです。たとえば、赤ちゃんが「バブバブ」と声を出したり、手足を動かしたりしているのもすべて赤ちゃんからの「サーブ」と解釈されます。

そして、親が「リターン」を返します。つまり、なんらかの反応を示すということです。たとえば、話しかけたり、なでたり、笑顔を返したり。

非常にシンプルな習慣ですが、そうした「サーブ」と「リターン」のやりとりが、子どもの認知能力やコミュニケーション能力の発達に欠かせないことがわかってきています。

したがって親として第一に大切なのは、子どもからの「サーブ」に目を凝らして、しっかり「リターン」を返すことなのです。

「サーブ」に気づかなかったり、無視したり、身勝手に返したり返さなかったりすると、子どもの脳の自然な発達をベストにサポートすることができません。

そして、「サーブ&リターン」は、赤ちゃんよりも大きくなった子どもたちにも重要です。年齢にかかわらず、子どもたちの問いかけや表情、ジェスチャーに対してつねに「リターン」を返すという、いわば「子育ての基本」を忠実に守ることこそが、子どもの自然な脳の成長をサポートするためのシンプルな近道なのです。

(星 友啓 : スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長)