仕組み債の不適切勧誘で行政処分を受けたちばぎん証券。2023年3月期は業績を大きく落とした(記者撮影)

地方銀行傘下の証券会社が苦境に陥っている。東洋経済が全国27社の地銀系証券会社の2023年3月期決算を集計したところ、10社が最終赤字になっていることがわかった。昨年軟調に推移した株式相場に加えて、痛手となったのは「仕組み債」の販売停止だ。

仕組み債の販売停止で急ブレーキ

仕組み債とは、デリバティブの一種であるオプション取引を用いた金融商品だ。プロ向けに開発されたが、いつしか一般の個人投資家にも販売されるようになった。表面上は高い利回りを謳うものの、株価や為替などに連動して償還条件が変動し、下落時には大きな損失を被る。

2022年6月、金融庁はリスクの高い仕組み債の乱売に警鐘を鳴らした。「地域銀行の一部は、証券子会社の新設(共同出資・地場証券会社の買収含む)を契機に仕組債の販売を開始し注力していた」。当時金融庁が公表したレポートでは、大手証券会社や銀行に加えて地銀系証券もやり玉に上がった。

金融庁の警告を受けて、地銀系証券は一斉に仕組み債の販売を停止した(詳細は「独自調査!地銀系証券が「仕組み債」を続々と停止」(2022年10月11日配信))。主力商品を失った影響は大きく、2023年3月期の決算では1社を除いて最終利益が減益もしくは赤字となった。


赤字額が最も大きかったのは、北海道の北洋銀行傘下の北洋証券だ。「(仕組み債の一種である)EB 債のような問題があったことで、証券子会社の北洋証券については直近決算で赤字の結果となった」。北洋銀行は今年6月に開催された決算説明会でそう説明した。

長野県の八十二銀行も、八十二証券の減益理由を「不安定なマーケット環境から株式等販売が低調に推移したうえ、仕組み債の販売停止による影響」とする。

6月に仕組み債の不適切勧誘をめぐって金融庁から業務改善命令を受けたちばぎん証券は、最終利益ベースでは何とか黒字を確保した。理由は有価証券の売却で特別利益を捻出したため。経常利益ベースでは6億円の赤字だ。

唯一増益を確保したきらぼしライフデザイン証券は、仕組み債を取り扱っていなかった。親会社である東京きらぼしフィナンシャルグループの広報担当者は「販売手数料ではなく、運用残高を重視して長期分散投資を提案した」ことが要因とみる。

問われる地銀が行う証券業務の意義

各社は株式や投資信託の販売や運用報酬の増加を急ぐが、仕組み債を失った影響は大きい。仕組み債は販売会社に入る手数料が多いうえ、早期償還されれば別の商品を提案し、短期間で手数料を繰り返し得られるからだ。ある地銀関係者は「正直に言って、仕組み債を止めてしまうと売るものがない」と嘆息する。

「金融商品の販売は銀行の本業ではない。ほかの分野に力を入れる経営判断もしていただきたい」。金融庁幹部はそう切り捨てる。地方部の顧客であってもネット証券で容易に投資できる今、地銀が証券業務を行う意義は何か。明確な解を見つけられなければ、地銀系証券会社の存在意義に疑問符が付く。

(一井 純 : 東洋経済 記者)