成田国際空港向けの火災保険でも保険料調整の疑いが浮上している(編集部撮影)

大手損害保険各社による保険料カルテル問題が、火の手が収まらず広がり続けるという異常事態に陥っている。

大手損保4社に疑義案件の全報告を求める金融庁

金融庁は5月以降、大手4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)に対して、保険業法に基づく報告徴求命令を出し、共同保険(複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける保険)で価格カルテルの疑義が見つかれば、漏れなく報告するよう求めている。

私鉄大手・東急グループを手始めに、疑義案件は京成電鉄グループ、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)、千葉都市モノレール、成田国際空港、仙台国際空港など運輸業界のほか、自動車、鉄鋼、石油、小売り業界の大手企業にも及び始めた。

損保業界としてはこの際、ウミを出し切るしかないが、問題なのはカルテルなどの行為が「慣習」として常態化しており、独占禁止法に違反しているという意識が現場の社員において薄いということだ。つまり、出すべきウミを、そもそも認識しきれていないのだ。

意識の低さの背景にあるのが保険代理店の存在だ。

大企業と取引する共同保険は、基本的にその大企業の傘下にある保険代理店が仲介する。そのため、損保が代理店の担当者を通じて他社の保険料を聞き、価格水準が自分たちだけ乖離しないようにするといった行為が、「常態化していたようだ」(金融庁幹部)。

疑義案件は膨大な数に上るおそれがある

損保が厳格に調査すれば、金融庁へ報告すべき疑義案件は数十件ではとどまらず、膨大な数に上るおそれがある。


成田空港向けの保険で、三井住友海上、損保ジャパン、東京海上の損保大手3社が代理店を通じて価格調整をしていた疑いがある(記者撮影)

さらに言えば、代理店自体が保険料調整を主導するケースも少なくない。複数の関係者によると、成田空港の企業財産包括保険(火災保険、幹事会社:三井住友海上)がまさに典型的な事例だという。

昨秋の契約更改に向けた入札にあたって代理店が、三井住友海上、損保ジャパン、東京海上の3社と連絡を取り合い、他社が提示しようとしている保険料をそれぞれに伝え、入札価格が乖離し混乱しないように調整していたとみられる。

大手3社の側も、代理店が保険料調整を主導していることを十分に理解しながら事前協議に乗っかっていたわけだ。入札の結果、この契約は前回よりも保険料が上昇したもようだ。

保険料の値上げをなぜか代理店が主導

保険料が値上げになるような価格調整を、大企業傘下の代理店がするはずがないと思うかもしれないが、それは違う。保険料が上がれば代理店は保険会社から受け取る手数料が増え、増収につながる。代理店が保険料の値上げを主導する理由は、まさにそこにある。

こうした価格調整は独占禁止法に違反する行為だが、損保側の担当者としても前任者からの引き継ぎで、契約更改における入札の流れはそういうものだと説明されれば慣習は変わることがない。ひいては「グレーかもしれないがクロではないはず」などと、誤って認識する社員が出てきてしまうのだ。

業界特有のありえない「常識」がまかり通ってきた中で、今後、損保各社は独禁法違反事案の徹底的な調査に加えて、社員の抜本的な意識改革が不可欠となる。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)