「1億総メディア化」となった時代に取るべき、最善の「情報戦略」とは(写真:metamorworks/PIXTA)

SNSが普及し、「1億総メディア化」となった現代社会。しかし、流通する情報量自体が爆発的に増えた結果、一体何が「確かな情報」で「価値ある情報」なのか、わからなくなりつつあります。

そんな時代に取るべき、最善の「情報戦略」とは? 米重克洋さん(@kyoneshige)の書籍『シン・情報戦略 誰にも「脳」を支配されない 情報爆発時代のサバイブ術』より一部抜粋してお届けします。

良質な情報を入手するにはお金がかかる

本書のサブタイトルは“誰にも「脳」を支配されない 情報爆発時代のサバイブ術”としている。この本を手にとっているあなたは、他人に「脳」を支配されず、良質な情報を自らの意思でしっかり吟味して自分のビジネスに活かしたり、好奇心を満たしたりしたいと思っているだろう。

情報の「良質」さの定義は人により様々だが、あえて分かりやすく例示すれば、その情報を得ることで

・仕事や生活のうえで、より良い意思決定の役に立つ

・金銭や時間を浪費せずに済む

・精神的な満足感や知的好奇心に適う

といったことが言えると思う。

だが、最近はそれら「良質」なコンテンツは有料の壁の向こう側にあることが多い。特に経済やビジネスに関するニュース、その解説に関するコンテンツはその傾向が強い。この流れは止まらない。良質な情報をタダで受け取るのは相当骨が折れることであり、より効率的に見つけ出すにはまず情報にお金を払うマインドが必要になる時代だ。

良質な情報を入手するにはお金がかかる。そんな流れが生まれる構造的な要因はどこにあるのだろうか。そのひとつは、情報流通を担うプラットフォームのアルゴリズムの変化だ。

「フォロー」「フォロワー」の概念に依存しないアルゴリズム

個人が何かを発信する時の手段は様々だ。ブログを書く、Webメディアに執筆する、どこかの媒体のインタビューに答える、YouTubeに動画をUPする──様々な手段があるが、それらはX(Twitter)やYouTube、TikTokなどのプラットフォームを通じて拡散され、多くのユーザーに届けられる。その多くのユーザーに対してコンテンツを届けるしくみが「アルゴリズム」である。

主なプラットフォームはどこも、全員に同じ情報を見せるのではなく、ユーザー個々人の好みや関心に応じて、一人ひとりに違うコンテンツを届けることで、その接触時間の最大化を図っている。

かつては、その個々人の関心への最適化の方法が現状とはやや異なっていた。ユーザーが自ら、好きな発信者やインフルエンサーを「フォロー」する形で、好みの情報を得るしくみが主流だったのだ。「フォローする」とか「フォロワー」といった言葉が最もおなじみなのはX(Twitter)だが、Xも以前はタイムラインと呼ばれる主なフィード(記事一覧画面)に流れる情報は、あくまでフォローしているユーザーの投稿や、リツイート(拡散された投稿)だけだった。Facebookも、以前は友人の投稿のみがフィードに流れていた。

だが、人間は自らの興味・関心事をもれなく言語化して、フォローすることはできない。例えば「自衛隊やアメリカ軍の装備に興味があるから、軍事専門家のこの人の発信をチェックしよう」といった具合に、自分の関心事を細大漏らさず言語化して、その人のアカウントをフォローし、自分の関心事が十分反映されたフィードを作るのは難しい。そもそも、細かな興味・関心事は日々移り変わるものでもある。その都度、フォロー先を細かく入れ替えるわけにもいかない。

そこで、TikTokやYouTubeは「フォロー」「フォロワー」の概念に依存しないアルゴリズムを作り、ユーザーが言語化しきれない好みや関心事をもとに、新しいコンテンツをユーザーに提示することに成功した。

TikTokのアプリを起動すると「おすすめ」というフィードに多くの動画が流れてくる。これらは、ユーザーが誰もフォローしていなくてもなんとなく見ているだけでどんどん自分の関心事に近づいてくる。その背景には、ユーザーが動画をどの程度の時間視聴したか、あるいは動画が投稿後一定時間内にどの程度視聴されたかといったデータをもとに、個々のユーザーの好みや関心を類推するだけでなく、多くの人に支持される動画コンテンツを素早く割り出すアルゴリズムがあるのだ。

こうした「フォロー」に頼らないアルゴリズムが成功すると、X(Twitter)などフォローの概念を重視していたプラットフォームでも、ユーザーがフォローしていないアカウントから発信されるコンテンツを重点的に推奨するフィードとアルゴリズムを開発、実装するようになった。

結果として、今のSNSプラットフォームでは、従来のフォロー・フォロワー関係を大きく超えた爆発的な拡散がより起きやすいしくみになっているのだ。

新たなアルゴリズムで炎上の「閾値」が下がった

この変化は、情報の発信者にとっては功罪がある。

「功」の部分は、フォローを前提としたしくみよりも圧倒的に拡散しやすくなり、多くの人に情報を届けやすくなったことだ。X(Twitter)のようなプラットフォームでは、フォロワー数が多いことがその人の発信力を示す指標として機能していた。

だが、TikTokではX(Twitter)ほどフォロワー数に価値がない。コンテンツの内容が良ければ、フォロワー数がわずかなユーザーでもある日突然爆発的に拡散するからだ。

少し前までは、有力なインフルエンサーが「フォロワー数がSNS時代の資産になる」「お金や肩書よりもフォロワー数が重要な時代が来る」といった意見を述べているのをよく聞いたが、フォロワー数はお金で偽装することのできる値でもある。もちろん、少ないよりは多いほうが良いが、アルゴリズムが進化し、多くの人に情報を届けるハードルがどんどん下がっている時代に、フォロワー数がどれほど権威性を残すかは分からない。

一方で、このアルゴリズムの進化が「罪」の部分をクローズアップしてしまう。フォロー・フォロワー関係の概念が良かったのは、「発信者」とそのコンテンツを「消費する人」(=フォロワー)が共有する文脈があったことだ。その発信者が背景に持つ意見やスタンスを理解したうえで、コンテンツを支持するフォロワーがいわば「コミュニティ」を形成していたとも言える。

だが、前述のように、このフォロー・フォロワー関係を大きく超えるような拡散が生じると、コミュニティで発信者とフォロワーが共有していた文脈を知らない、あるいは理解しない人にも広くコンテンツが届くことになる。これが意図せず激しい批判や中傷を巻き起こすことがあるのだ。

X(Twitter)でも、主なフィードが「おすすめ」と題して、そのユーザーがフォローしていないアカウントの投稿も積極的に表示するアルゴリズムに変更されてから、炎上の「閾値」が下がったように感じられる。以前なら、炎上するのはいわゆる「バイトテロ」や「バカッター」と呼ばれる明確に社会的倫理に反する行動であったり、政治家や著名人の失言であったりしたところ、最近は「価値観の違い」としか言いようのない程度の話で簡単に炎上が起きてしまう。

これは、あるコミュニティで支持された言説が、価値観の相容れない別のコミュニティにうっかり届いてしまったことで生じている不幸な化学反応かもしれない。筆者の周囲にも「最近X(Twitter)が殺伐としすぎている」「何か書き込んだらすぐに見当違いな批判コメントが届く」と疲労感を吐露するインフルエンサーは幾人もいる。その感覚の原因は、この現象でほぼ説明できてしまうのではないかと思う。

結果、それ以前に積極的に発信してきた人が、SNSでの発信の頻度を落としてしまったり、あるいはコミュニティを有料の壁で守ることができる「サロン」などに発信を閉じてしまうケースが多く見られるようになった。要は、文脈を共有できる(言い換えると話の通じる)フォロワー、ファンだけを有料の壁の中に囲い込んで、その人だけに発信する。その発信手段に適した収益獲得のモデルが課金である、ということなのだ。

そんな殺伐とした「拡散サバイバル」のような状況下でも、日々大量に発信を続けて、むしろ強化していこうとするインフルエンサーもいる。彼らの多くに共通するのは、前述の設計思想のアルゴリズムに合わせて「極論」や「エッジの立った意見」で大衆の関心を集めるという生存戦略だ。

1%の熱烈な支持を得られればいい

爆発的に拡散することで、結果99%の人に嫌われても、1%の人から熱烈な支持を得ることができれば、それをお金に換えたり、票に換えたりすることができる。そんなビジネスモデルを持つインフルエンサーが政界やビジネス、芸能の界隈でも見られるようになってきた。


極論で耳目を惹きつけて、あえて炎上を起こすような手法は当然大きな代償を伴う。だが、経済合理性を持ったモデルとして回すこともできる。

やっている当人も注目を集めることが快感である、あるいは批判や中傷が苦にならないといった強靭なメンタルの持ち主かもしれない。だからこそ、何度炎上しても発信をやめず、むしろより強化していくことになる。

日頃、X(Twitter)をはじめとしたSNSでの情報体験になじんでいる読者の方であれば、ここまで書けば心当たりがある、顔が目に浮かぶ人がいるだろう。こうしたインフルエンサーの発信するコンテンツは、多くが無料である。YouTubeを主戦場とするインフルエンサーであれば、再生回数を広告収益に変えて収益化するために、きょうも「可燃性」の高い発信に勤しむ。

多くの人にとっては、ネットでは有料で入手するコンテンツよりも、無料で触れるコンテンツのほうが圧倒的に多いだろう。それらは、ここまで述べてきたようなアルゴリズムのしくみや経済合理性を意識して「作られている」側面があることを忘れてはいけない。

(米重 克洋 : JX通信社代表取締役)