ラグビー日本代表・長田智希の座右の銘は漫画『NARUTO』の台詞 23歳のCTBはワールドカップ最終メンバーに生き残れるか?
9月8日にフランスで開幕するラグビーワールドカップを控えたラグビー日本代表。7月15日には国内5連戦の2戦目となる「リポビタンDチャレンジカップ2023」を熊本・えがお健康スタジアムで行なった。
対戦相手は前週に6-38で負けた、ニュージーランド代表を擁する「オールブラックスXV(フィフティーン)」。ワールドカップ本番で着用する新ジャージーに身をまとい、日本代表はフランスへの一歩を踏み出した。
左から、松島幸太朗、長田智希、松田力也
前週の国内1戦目では、屈辱的なノートライ。6月の浦安合宿で強化してきたディフェンス面はある程度の成果を発揮したものの、アタック面では及第点に達することはできなかった。
チームを率いて8年目のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は常々、「アタックは日本のラグビーの強い武器だ」と選手たちに伝えている。その言葉を胸に2戦目は、ジャパンラグビーの根幹であるアタックに注力して臨んだ。
約2万人のファンが集うなか、日本代表は前半26分に松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス/FBフルバック)が待望のトライを奪って13-12と逆転する。しかし、前半の終盤から後半の出だしにかけてオールブラックスXVの勢いに飲まれ、一気に4トライを献上。13-41と28点差をつけられてしまった。
試合は敗色濃厚。点差もさらに開いてしまうのか......。
そう危惧した後半11分、坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ/HOフッカー)や流大(東京サントリーサンゴリアス/SHスクラムハーフ)といったワールドカップ経験者とともにピッチに立ったのが、今季リーグワンの新人賞に輝いた長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ/CTBセンター)だった。
「後半、タオルを投げて家に帰ることもできたが、彼らはそうしなかった」と指揮官が振り返ったとおり、途中からピッチに立った長田はアタックで冴えを見せた。
まずは後半19分、長田はスクラムからボールキャリーとなって前進を試み、セミシ・マシレワ(花園近鉄ライナーズ/WTBウイング)の2本目のトライをアシスト。また、後半の終盤にも自らの判断でタックルを仕掛け、相手の落球を誘っていた。
【花園優勝→早稲田大で主将】試合の結果は、最終的に27-41でノーサイド。
「ワールドカップを完全な形で戦うには、あと6〜7週間はかかると思っている。小さなミスを犯して失点するのをやめなければならない。ワールドカップまでは、まだ長い道のりだ。ただ、自分たちのやり方を積み上げていくだけ」
ジョセフHCは試合を振り返ったのち、長田のプレーを手放しで褒めた。
「彼はこの1週間、チームのために大きな仕事をした。これまで多くのテストマッチに出場している中村亮土(東京サントリーサンゴリアス/CTB)に変わり、今日は若い長田が非常にいい働きをした。そして、得られる可能性のあるチャンスをすべてものにした。長田は体格にそれほど大きくない(179cm)が、とてもフィットしていて強く、将来性もある」
先週の国内1戦目で、長田は初めて桜のエンブレムがついたジャージーでプレーし、「緊張は今までで一番大きかった」と語っていた。ただ、2戦目は緊張する様子もなく、「前回よりスムーズに入れた。(世界トップクラスを相手に)自分でもできると思う」と胸を張った。
CTBとして決して大きくない身長ながら、自分の武器には自信があるという。代表合宿では「センターは高いスキルを求められるが、ボールを持って縦に出ることは自分の強み」と語っている。
京都・大山崎町出身の長田は、小学3年生の時に同級生だった笹岡海斗(マツダスカイアクティブズ広島/WTB)に誘われてラグビー競技を始めた。その後、大阪・東海大仰星に進学すると1年生ながらリザーブ入りし、3年時はキャプテンとして花園優勝を経験した。
早稲田大でもU20日本代表に選ばれるなど活躍し、2年生の時は大学選手権の優勝に貢献。最終学年ではキャプテンを務め、昨季から埼玉ワイルドナイツに加入した。
長田は社員選手として働きながら、日本トップレベルの環境で研鑽を積んだ。全体練習のあとに個人練習も加えるなど、ハードなトレーニングを重ねたことでついにチャンスを掴む。
【次はW杯で戦うサモアと対戦】ルーキーながらピッチに立つ時間を増やし、リーグワン出場14試合のうち13試合に先発を果たす。プレーオフ決勝でもトライを奪うなど存在感を示し、今季16トライを挙げた木田晴斗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/WTB)を抑えて新人賞を獲得。さらにはCTBとして「ベスト15」も受賞した。
長田は今季の勢いそのままに、ワールドカップイヤーで日本代表メンバーの仲間入りを果たしたというわけだ。
長田は自身の成長について、要因をこう語る。
「早稲田大学時代は、自分がトップに立って引っ張っていかないといけなかった。でも、ワイルドナイツでは周囲に世界のトップ選手がいるので、そのレベルでのプレーが自然とできるようになった」
ワイルドナイツには日本代表選手だけでなく、昨年のオーストラリア最優秀選手WTBマリカ・コロインベテ、2019年ワールドカップで南アフリカ代表の優勝に貢献したCTBダミアン・デアレンデらが在籍している。世界のトップ選手と一緒にプレーすることで、自然と自分の能力も引き上げられたという。
また、日本代表合宿ではベテランの中村と一緒に練習する機会が多く、それも成長につながったと語る。「亮土さん、めちゃくちゃしゃべってくれます。僕は静かなので、亮土さんから学びながらやりたい。(たくさん話すことで)外とのコネクションが強くなったと感じました」。
日本代表はいよいよ来週からPNC(パシフィックネーションズカップ)に参戦し、サモア代表、トンガ代表、そしてフィジー代表と戦う。いずれもフィジカルに長けた強豪チームで、特にサモア代表はワールドカップで同じプールDに入った第3戦目の相手だ。
直近2試合で控えからの出場だった長田は、当然ながらPNCでは先発を狙っている。
「(先発でも控えでも)自分のプレーは大きく変わらないが、もちろん(先発して)80分出たい気持ちはある。安定したプレーを出せるのも自分の強みだと思う」
【あのNARUTOの名言】この国内5連戦は、日本代表36名・候補選手10名の計46名で争っている「ワールドカップ最終スコッド33名」への生き残り戦でもある。
長田に「ワールドカップは近づいたか?」と聞くと、23歳の若きCTBは「自分のなかでは、いい感触はある」と手応えを口にした。
長田の好きな言葉は「自分を信じない奴なんかに努力する価値はない」。
漫画『NARUTO』に登場する上忍マイト・ガイが愛弟子のロック・リーに贈った台詞だ。
「僕はめちゃくちゃ才能ある選手ではないので、努力しないといけない」──長田は日本代表でも自分の信じた道を貫き、ワールドカップ出場をたぐり寄せる。