「手書きメモ」で勝手に上がる"超意外"な3大脳力
「物事を記憶すること」は、目標や夢を実現していくための手段のひとつになります(写真:ふじよ/PIXTA)
耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。
大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」。
A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。
考案したのは、記憶力日本一を6度獲り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。
池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。
その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売後たちまち重版がかかるなど、大きな話題を呼んでいます。
以下では、その池田氏が「記憶力を高めることで自動的に底上げされる能力」について解説します。
「脳のさまざまな能力」の根幹に関係する記憶力
以前の記事(「1年で日本一」44歳が人生逆転"忘れないメモ術")でも取り上げましたが、私が推奨する「A4・1枚記憶法」は記憶力を誰でも、簡単に上げることのできるトレーニングです。
私がこうした記憶力を上げるトレーニングを始めてから驚いたのが、40代半ばにさしかかっていたにもかかわらず、記憶力だけでなく、他の様々な能力が上がったことです。
記憶力は、意外な能力の「土台」になってくれます。
記憶力とは、他の能力にも動力を与える、いわばエンジン的な存在。
ですから記憶力を鍛えることは、他の能力も鍛えることになるのです。
記憶力を磨くことで、他のどのような能力を自動的に向上させられるのか。具体的に見ていきましょう。
「ゼロイチ」を作り出す、企画力の源泉
【脳力1】アイデア創出力
記憶力の向上と同時にアップする能力の1つめは「アイデア創出力」です。
私はイメージの力を活用して、記憶の日本大会に参戦しました。
その過程で、様々な能力の向上を実感。中でも突出した伸長を実感したのは、アイデア創出力です。
私は現在、脳力開発のための書籍、教材、講座などのコンテンツ開発に携わっています。創造力をかなりの程度、要求されます。
「世の中に存在しない、新奇なものを創り出すこと」を求められる局面が多く、何とかお応えしてきました。
何の鍛錬もしていない、40代前半の頃だったら、そのようなゼロイチ(まだ世の中にない、新しいモノやサービス、価値をゼロから生み出すこと)を実現させ続けるのは、まず不可能だったと思います。
ではいったいなぜ、ゼロイチのアイデアを多く出し続けられるようになったのでしょうか。
それは「記憶のトレーニング」は「アイデア創出のトレーニング」と重複する部分が大きいからです。
私が推奨する記憶のトレーニングは、実はイメージ操作のトレーニングでもあります。
頭の中で、イメージを思い浮かべることから始まり、そのイメージを大きくしたり、小さくしたり。数を増やしたり、回転させたり、動かしたり、異なるイメージ同士を結合させたり。
そのようにイメージ操作に慣れ親しむことが、アイデアを生み出すトレーニングにもなっていたのでしょう。
「このアイデアと、あのアイデアを組み合わせれば新しい物ができる」というような、ひらめきの数が以前よりも何倍も増えました。
つまり記憶のトレーニングが、私のアイデア創出力まで間接的に伸ばしてくれたのです。
また私の場合、シャワーを浴びているときに最もよくアイデアが思い浮かびます。
当然、人によってそのシチュエーションは異なるはず。自分にとっての「ひらめきやすい状態」を見極めることも、アイデア体質への第一歩になるかもしれません。
記憶力アップで球技まで上達!?
【脳力2】空間認識能力
記憶力の向上と同時にアップする能力の2つめは「空間認識能力」です。
私が提唱するA4・1枚記憶法で「頭の中にイメージを浮かべること」を繰り返すうちに「空間認識能力」という能力も高まります。作業手順などを考えるのも得意になり、質の高い仕事を要領よくスピーディーに遂行できるようになります。
「空間認識能力」とは、物体同士の空間的な関係を理解して記憶する能力のこと。頭の中で立体を想像したり、街の地理や建物の間取りを思い出したりなど、空間や位置関係をイメージする力を言います。
たとえば、幼少期によく訪れた祖父母の家の間取りや、学生時代の通学路の地理などは、大人になっても詳しく思い出すことができるもの。それは、空間認識能力のなせる業です。
空間認識能力は、球技をはじめとしたスポーツにおいても非常に重要です。
また意外に思われるかもしれませんが「時間感覚」をイメージして、自らの行動をコントロールする能力も空間認識能力に含まれます。
ではいったいなぜ、「頭の中にイメージを浮かべること」で空間認識能力が磨かれるのでしょうか。
それはイメージを思い浮かべることが、脳の海馬にある「場所細胞」という神経細胞を積極的に使うことにもなるからです。
場所細胞の役割は「自分と空間との位置関係を把握すること」。イメージ化の練習を続けるうちに、この場所細胞も同時に鍛えられることがわかっています。
自分の頭の中の「イメージ空間」を使いこなせるようになると、脳の前頭前野に深くかかわる「ワーキングメモリ」も活性化します。
たとえば将棋の藤井聡太竜王や野球の大谷翔平選手をはじめ、優れたエンジニアや建築家、外科医など一流のプロは、自分のイメージ空間を使いこなしています。
記憶のためのイメージ化を重ねることで、2次的な効果として空間認識能力が磨かれ、結果的に自分のイメージ空間を自在に操れるようにもなるのです。
自信、自己肯定感までにも影響する?
【脳力3】非認知能力
記憶力の向上と同時にアップする能力の3つめは「非認知能力」です。
近年、日本でも「非認知能力」という言葉をよく見聞きするようになりました。この非認知能力も、記憶力を磨くことで副次的な効果として高まる能力の1つです。
そもそも「認知能力」とは、IQ(知能指数)やテストの点数、偏差値など数値化できたり、基準が可視化できる能力のことです。
それに対し「非認知能力」とは、いわば「心に関する能力」。数値化や可視化は難しいですが、「生きる力」「人間力」などと言い換えられます。
注意してほしいのは、非認知能力とは「1つの能力」について表す用語ではない点です。
非認知能力とは下記のようなものを指します。
・想像力 ・共感力 ・協働力 ・回復力
・自信 ・自制心 ・自己肯定感 ・主体性
・計画性 ・柔軟性 ・創造性 ・社会性……など
これらの心にまつわる数多の能力の総称こそが、「非認知能力」なのです。平たく言うと「非認知能力はEQとほぼ同義」と捉えていただいてもよいでしょう。
EQとは、ハーバード大学の心理学者、ダニエル・ゴールマン博士が提唱した概念で、日本では「心の知能指数」と訳されてきました。
非認知能力が高ければ……。
さまざまな誘惑をはねのけて「先にこのタスクを終えたほうがスッキリする」と自発的に計画を立てて、仕事に取り組むことができたり。
ノルマがなかなか達成できなくても「商談の結果に一喜一憂するのではなく、対策を立てよう」と業務に前向きに取り組めたり。
要はメタ認知が容易にできたり、合理的に行動できたり、自分自身に寛容になれたりしやすくなります。自信や自己肯定感、自制心、主体性、計画性などの非認知能力が備わっているから、実生活でどんな障害が現れても、果敢に向き合って乗り越えられるというわけです。
大脳辺縁系へのアプローチで人生も好転
ではいったいなぜ、記憶力を鍛えることでそのような「心に関する能力」まで自動的に向上しやすくなるのでしょうか。
その理由はシンプルです。「感情」が生まれるのは脳の中の「大脳辺縁系」にある「扁桃体」です。この扁桃体のすぐ近くに、記憶の司令塔「海馬」があります。
扁桃体で感情が生まれると、それに刺激を受けた海馬は記憶を強化する(短期記憶を長期記憶にする)という仕組みがあります。さらに、この一帯には「側坐核」というやる気を生み出す場所も存在しています。
記憶力が向上するということは、「海馬」「扁桃体」「側坐核」などを擁する「大脳辺縁系」のコントロールが上手になる、ということと同義です。
一方、非認知能力やEQなどの「心に関する能力」(=感情を制御する能力)は、「大脳辺縁系」(感情を生み出すエリア)と「前頭前野」(理性を司るエリア)の連携に深く関係しています。
つまり記憶のために使われる脳の部位と、感情をコントロールするために使われる脳の部位は、多くの部分が重複しています。
したがって、記憶力を鍛えることで非認知能力もEQもアップしやすくなるというわけです。
「物事を記憶すること」は、最終的な目的ではありません。
あらゆる能力を高め、目標や夢を実現していくための手段の1つに過ぎないのです。
(池田 義博 : 記憶力日本選手権大会最多優勝者、世界記憶力グランドマスター)