「勉強にコーヒーはNG」記憶プロ解説"超意外"な訳
頭がさえるイメージがあるコーヒーですが、集中したいときにはかえって逆効果となってしまうようです(写真:asaya/PIXTA)
耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。
大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」。
A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。
考案したのは、記憶力日本一を六度取り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。
池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。
その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売たちまち大増刷するなど話題を呼んでいます。
以下では、その池田氏が「脳が最高のパフォーマンスを発揮する食材」について解説します。
「ブドウ糖は脳にいい」という言説の罠
「糖質こそ、脳を働かせてくれる原動力」
そう信じている人は多いのではないでしょうか。これも真面目な方が、つい飛びついて実践してしまいがちな通説です。
糖質が分解されて作られるブドウ糖は、確かに脳の栄養です。補給した直後の脳のパフォーマンスは一時的に高まります。
ですが記憶作業の最中など脳の活動が活発な時には、なるべく控えることをおすすめします。
とはいえ私は糖質の働きそのものを否定したいわけではありません。ただ糖質を摂った直後の血糖値の上がり方を懸念しているのです。
糖質の多い食品、たとえば菓子類を摂って血糖値が急上昇すると、その直後に「インスリン」というホルモンの働きにより血糖値の上昇が抑えられて急降下します。
血糖値のこのような急激な変化を「血糖値スパイク」と呼びます。
この名称は「血糖値の推移をグラフにすると、とがった針(スパイク)のような線を描くこと」に由来しています。
血糖値スパイクが起こると、体にはさまざまな不調がもたらされます。
眠さやだるさ、イライラ感などが引き起こされて、結果的に集中力はダウン。
また血管を傷つける有害物質「活性酸素」が発生したり、長い目で見ると肥満や糖尿病発症のリスクも高まります。
集中力低下を防ぐ、血糖値に優しい食材
では、そんな恐ろしい血糖値スパイクを、どうすれば遠ざけられるのでしょうか。
まずは「脳を働かせるため」「脳の回転を速めるため」などの理由で、糖質を摂りすぎないことです。また、糖質を菓子類からではなく、なるべく食事から摂ることです。
菓子類に使われる砂糖は「二糖類」のため、インスリンが大量に分泌されたり、でんぷんよりも体内で吸収されやすかったり、食後の血糖値をどうしても急激に上げてしまうからです。
一般に1日の必要摂取カロリーの6割ほどを糖質から摂るのが望ましいとされています。
要は1日に2000キロカロリーが必要な人は、その約60%にあたる1200キロカロリーを糖質から摂ればよいのです。
それも砂糖が多く含まれる菓子類ではなく、ご飯や麺類などの主食から糖質を摂るのが理想的です。
ご飯の糖質は主にでんぷん(多糖類)であるため、体内で分解されるのに時間がかかります。そのため食後の血糖値の上昇が緩やかで、腹持ちもよいのです。
食べる順序も大事です。食物繊維と一緒に糖質を摂ると、血糖値の急上昇を抑えることができます。食事の際は「野菜ファースト」、主食を食べる前に野菜から食べることをおすすめします。
またGI値(Glycemic Index)についても詳しくなっておきましょう。
GI値とは、血糖値の上がりやすさを示した値です。白米よりも玄米。うどんよりもそば。食パンより全粒粉パン。ケーキやせんべいよりは、チーズやリンゴのほうがGI値が低い。血糖値が上がりにくいのです。
急激な血糖値の上昇を抑えることが、集中力のムラを防ぐことにつながる。(図『A4・1枚記憶法』より)
GI値がより低いものを選ぶことをおすすめします。
とはいえ「集中したいのに、空腹に耐えられない」という時は、血糖値が下がりすぎている可能性があります。
ブドウ糖を上手に補給する必要があります。
私が推奨する食材はナッツ、もしくはカカオ70%以上のチョコレートです。
ナッツ……アーモンドやクルミ、カシューナッツなど。塩や油などで味付けされていない素焼きのものが理想的。
低糖質で良質な脂質と食物繊維を含んでおり、ビタミンやミネラルが豊富。また脳の活性化に貢献してくれる「不飽和脂肪酸」を多く含む。
高カカオチョコレート……砂糖の含有量が抑えられているうえ、抗酸化物質のポリフェノールまで摂ることができる。
ただし、「安心だから」といってこれらの食材を過食するのはやめてください。
一度に大量に摂るのではなく、「小腹が空いた」と感じた瞬間に少しずつ食べて、血糖値を調節しましょう。すると、血糖値は緩やかに上がり、適度な高さをキープして、その後徐々に下がってくれます。それこそ血糖値の理想的な推移です。
このように食べ物に少し気を配ることで、記憶の作業に没頭する「集中力」を持続させることができます。
勉強のときは「ノンカフェイン」を選ぶ
当然ながら、食べ物だけでなく飲み物に気を配ることも重要です。
特に注意してほしいのは、お茶やコーヒーなどのカフェイン飲料の過剰摂取。「勉強の直前だから」「集中したいから」という理由で、カフェイン飲料に頼りすぎている人はいませんか。
「1日●回は、●●のおいしいコーヒーを飲むのを習慣にしている」そんな人も、多いのではないでしょうか。
カフェインの効能についての研究は、国内外に数多く存在しています。私も多くの文献を調べてきました。
確かに、カフェインには覚醒作用や、集中力や注意力など脳の機能をアップさせる効能が認められています。ただし、それは「摂りすぎなければ」という条件においてです。
1日のカフェイン摂取には適量があり、その量を上回るとメリットよりもデメリットのほうが大きくなります。たとえば不安感の増大や、短期記憶の低下、脳疲労などを招くようです。したがって勉強(作業)に取り組む直前やその最中には、ノンカフェインの飲料をおすすめします。
特に私が推奨するのは「水」 。糖質や塩分が添加されたスポーツドリンクなどではなく、純粋な水です。
全体の80%が水分でできている脳にとって、水分バランスが少しでも変化すると、知的パフォーマンスに大きな悪影響を与えてしまうようです。
世界中の脳エリートを支える「最強の飲料」
実際、私が記憶競技に参加した際の飲料も「水」の一択でした(私以外の選手も、ほとんどが水しか飲んでいませんでした)。
水分不足になると頭の回転が落ちるというのは、記憶競技に参加している人ならなんとなく実感していたのかもしれません。
また前述のコーヒーには利尿作用もあり、たくさん飲むと体の水分が外に出てしまいます。
「でも本番で集中力を高めたいなら、糖質を含む飲料のほうが効果的でしょう?」
そう疑問に思う人がいるかもしれません。
確かに、一時的に見るとそうかもしれません。しかし前述したとおり、やはり摂取した後の血糖値スパイクのリスクが高まってしまいます。
世界記憶力選手権の種目には、解答時間まで含むと3時間にも及ぶものがあります。
例えば、私が獲得したグランドマスターという称号には、下記のような条件が必要でした。
■ シャッフルした1組のトランプの順番を2分以内に記憶できること
■ シャッフルしたトランプの順番を1時間で10組以上記憶できること
■ ランダムに並んだ数字を1時間で1000桁以上記憶できること
このような内容だけ見ても、高い集中力のキープが不可欠であることがわかると思います。
競技中、集中力をムラなく持続させるには、「水」による水分補給が最適なのです。
仕事中に「ちょっと集中力が落ちてきた」「考えすぎて疲れてしまった」、勉強中に「なかなか身が入らない」「問題を解くスピードが落ちてきた」と感じたら「1杯の水」を飲むことを強くお勧めします。
(池田 義博 : 記憶力日本選手権大会最多優勝者、世界記憶力グランドマスター)