25周年を迎えたサイバーエージェント。藤田社長が「引退宣言」に込めた意味とは(撮影:尾形文繁)

7期連続で赤字だった動画配信サービス「ABEMA(アベマ)」が、いよいよ収穫期へ入ろうとしている。サイバーエージェントは4月26日、2023年9月期中間決算(2022年10月〜2023年3月期)を発表した。売上高は3632億円(前年同期比0.3%増)と前年同期並みだったが、営業利益は175億円(同61.5%減)と大幅に後退した。

2021年2月にリリースし、爆発的に収益を押し上げたスマートフォンゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』の収益が漸減。さらに広告事業の先行投資を増やしたことが響いた。

厳しい決算はある程度、織り込み済みだったが”サプライズ”もあった。アベマを擁するメディア事業が大幅に改善し、5億円の営業赤字にとどまったのだ。これは2016年4月のアベマ本開局から最小の部門赤字額となる。

わずか3カ月で赤字が急減

今第1四半期決算(2022年10〜12月)では、FIFAワールドカップカタール2022の放映権獲得の影響でメディア事業は93億円もの営業赤字を計上していた。そこから急改善した背景には、W杯前から比べた広告出稿量の増加や、競輪チャンネル連動のネット投票サービス「ウィンチケット」の安定成長がある。

W杯を経たメディア価値の上昇により、タレントの出演意欲が増している。アベマの陣頭指揮を執ってきた創業者の藤田晋社長もW杯放映権の獲得について「大きな投資ではあったが、完全に成功した」と胸を張る。

中長期での成長に向けて「しっかりとマネタイズしながら、アベマを(事業として)成立させていくフェーズに入った」と語る藤田社長。今後の焦点となるのが、アベマはどこまで利益を拡大できるかになる。

ここまでの道のりは長かった。2014年にテレビ朝日の早河洋会長と藤田社長の会食の場で決まったアベマは、肝いり事業として藤田社長自らが総合プロデューサーを務めてきた。『亀田興毅に勝ったら1000万円』のように話題性のある番組から、緊急記者会見の生中継まで展開し、インターネットテレビの可能性を試行錯誤しながら視聴者を取り込んできた。

そんな藤田社長に心境の変化が現れたのか。3月20日、自身のブログで2026年の社長引退を宣言した。新社長は内部から昇格させて、自身は会長CEOに転じる意向だ。きっかけは「11年後をイメージした社内資料で『藤田晋(60)』という表記を目にした」ことだという。藤田社長は5月に50歳を迎える。

一方で株主に対しては積み残した課題もある。アベマを中長期で、広告とゲームに並ぶ利益を創出する事業に育てることだ。2022年9月期はゲームが605億円、ネット広告は244億円の部門営業利益をそれぞれ稼いだ。アベマを擁するメディア事業でも、年間200億円規模の部門利益を生み出せるかが問われている。

カギを握るのがアベマの広告収入だ。アベマ関連売上高は、競輪市場の拡大で急成長したウィンチケットが大半を占める。一方で広告や月額課金の成長ペースは緩やかだ。有料の動画配信市場において、ネットフリックスやウォルト・ディズニーといった世界的プレーヤーが苦心している現状を踏まえれば、月額課金モデルで稼ぐことは容易でないだろう。

期待できるのは広告収入となる。W杯を経て、広告主のアベマに対する出稿意欲は増している。JPモルガン証券株式調査部の森はるか共同部長は「大手の広告主にとってアベマを使い始めるきっかけが必要だった。テレビ広告の費用対効果が依然厳しそうな中、今回のW杯のようにきっかけさえあれば、ある程度の広告予算を割いてもらえるメディアに育っている」と分析する。

コンテンツ事業への本気度

次なる戦略として、コンテンツのIP(知的財産権)ビジネスも動き出している。子会社の映像制作会社・BABEL LABEL(バベルレーベル)は1月、ネットフリックスと今後5年間にわたる映画・ドラマの製作と、世界190カ国への配信を目的とした戦略的パートナーシップを締結した。軌道化すれば社外へのコンテンツ供給にとどまらず、先行・独占配信によるアベマへの誘客といった選択肢も考えられる。


アベマで配信するオリジナルコンテンツは若者を中心に支持を集めている(記者撮影)

同様の期待はアニメ事業にも寄せられる。藤田社長はアベマにおけるアニメ視聴量の多さに目をつけて以来、アニメプロデューサーを他社から引き抜くなど体制を拡充してきた。徐々にオリジナルアニメやライセンスビジネスに守備範囲を広げている。

グループ傘下のサイゲームスでは、漫画・アニメ・ゲームというIP創出とメディアミックス機能が整っていることもあり「アニプレックスや東宝に次ぐ、アニメ業界の新たなキープレーヤーになりうる」(アニメ企画会社首脳)と業界内からも注目が集まっている。

藤田社長が「21世紀を代表する会社を創る」と起業してから今年で25周年を迎えた。悲願だったアベマの黒字化を目前とした「引退宣言」は、サイバーエージェントの新たなフェーズを示唆しているのだろうか。

(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)