肥料・飼料の高騰で苦しいが...ダイヤモンド「儲かる農業」、東洋経済「狙われる高齢者」、エコノミスト「世界経済入門」を特集

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「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

苦境の農家と、儲かる農家

4月3日発売の「週刊ダイヤモンド」(2023年4月8日号)の特集は、「儲かる農業2023」。農家のJAグループに対する怒りが沸騰しているという。肥料や飼料の高騰で農家が廃業しているのに、手を差し伸べる組織が少ないからだという。その一方で、逆境をバネにする豪農も出ている。最新の農業事情とは。

飼料代の値上がり分を牛乳の価格に転嫁できず、廃業する酪農家が増えているという。酪農家の戸数は関東で前年比9.3%減、北陸で11.1%減、近畿で10.4%も減っている(農水省調べ)。

ところが、苦境にある農家と対照的に、JA全農のグループ企業の肥料、農薬メーカーは増収増益なのだ。しわ寄せが農家に集中することに業を煮やして、農家や農協組合長らが反旗を翻しているという。

食品の生産から消費まで一貫して支援する農家版プラットフォーマーのランキングにも異変が生じている。

今年は下剋上といっていいほどの変動があった。前回8位だった米卸の老舗、神明ホールディングス(HD)が、トップに躍り出た。約4000億円の売上高を25年度までに5000億円に増やす目標を掲げる。

2位には農機を使って農業をDX(デジタルトランスフォーメーション)しようというクボタ、3位には全農が入っている。

同誌が主催する「農業ツール選手権」では、ユニークなツールが登場している。1位はクボタの営農支援システム「KSAS」で、会員数も2万人を超え、他の追随を許さない。

そこに衛星データを活用する「Sagri」と「ザルビオ フィールドマネージャー」が同率7位で入ったことに注目している。

前者は日系スタートアップ、サグリが提供。土壌分析による肥料の削減に力を入れている。後者は独化学メーカーのBASFが提供。衛星から見える緑の濃さなどから植物の生育状況を分析し、肥料が必要な箇所を明らかにする。

さらに、AI(人工知能)に解析させることで、病害虫や雑草の発生を予想。農薬使用量を減らすこともできる。

◆「レジェンド農家」の取り組みとは?

農家が淘汰される時代は、成長する農家がシェアを拡大するチャンスでもある。規模と収益性で際立った経営を実現している「レジェンド農家」を同誌は選定した。

1位に輝いたのは、宮城県の舞台グループだ。2022年に34億円をかけて、国内最大級のグリーンリーフ工場を稼働させた。自社生産だけでなく、他の農家からの集荷や販売にも力を入れている。野菜工場のある宮城県美里町の農家に呼びかけ、香港にコメ230トンを輸出するという農協のような機能も果たしている。

3位のさかうえは、鹿児島県志布志市が本拠。ケールから野菜・和牛へ大胆にシフト。7位のイカリファーム(滋賀県)は、多くのコメ農家が赤字になる中で、35%という驚異的な利益率を出した。その秘訣は「セブン-イレブン」向けのパン用の小麦だ。多角化や副業が今年のトレンドだという。

同誌は4年連続で、全国の約550農協の財務データを調べ、「JA赤字危険度ランキング」を作成してきた。

今回のランキングでは、過去最多となる157JAが5年後には赤字に沈むことが分かったという。金融事業の収益が悪化、今後事実上、農協がなくなる地域も出てくる、と予想している。

高齢者のお金が狙われる

「週刊東洋経済」(2023年4月8日号)の特集は、「狙われる高齢者」。高齢者のお金を、あの手この手で吸い取ろうとする「だましのプロ」の手口を紹介。親子で読んで自衛したい。

オレオレ詐欺、預貯金詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺など、特殊詐欺は、一時減少傾向にあったが、コロナ禍の22年には再び増加に転じている。

被害者の内訳を見ると、大半が65歳以上の高齢者で、中でも女性の被害が目立つ。加害者の7割が10代と20代で占められている。特殊詐欺に関わってしまった若者は、大きな借金を抱えているケースが多いという関係者の声を紹介している。

特殊詐欺グループも当初はバックに組織のついていない独立系グループが多かったが、近年は暴力団や半グレ(準暴力団)が介在し、詐欺の収益を吸い上げるケースが目立つという。

悪質な勧誘で強引に契約させる悪徳商法は、さまざまある。屋根や外壁、水回りの住宅修理、インターネットや電話・電力・ガスの契約切り替え、健康食品や医薬品などの定期購入などでも悪質なものは少なくないという。

ネット通販の被害相談では化粧品についてが最も多く、次いで健康食品が多いそうだ。魚介類の購入を強引に勧める電話勧誘も増えているという。

金融商品の中でも相談件数が突出して多いのが、「仕組み債」だ。

仕組み債は、多くの銀行や証券会社が売ってきた。発生する損失の大きさや金融機関の販売姿勢を金融庁も問題視。昨年から実態把握に乗り出し、銀行や証券会社は一時的に販売を自粛した。

だが、元本割れに陥った仕組み債をめぐるトラブルは、今後も噴出する可能性が高いという。「1年間で元本の7割を毀損し、退職金のほとんどを失ってしまった高齢者もいる」と問題に詳しい弁護士は指摘している。

ちなみに、特集では、詐欺・悪徳商法から家族を守る10カ条を以下のように挙げている。ご参考に。

1 親子でも絶対ダメ! 被害者を責めない2 留守番電話が基本。録音機能も効果大3 預貯金など資産状況を他人に絶対話さない4 初回無料は無料に非ず 2回目以降の確認を5 テレビ・ラジオでの通販 返品できる場合もある6 点検商法に注意! 信頼できる工務店を7 保険の申請は自分で 代行業者に頼まない8 「振込先が個人口座」はネット詐欺業者の特徴9 振込用紙が届いてもすぐに振り込まないで10 クーリングオフ活用 契約解除を諦めない

発言力強める「グローバルサウス」とは?

「週刊エコノミスト」(2023年4月11日号)の特集は、「世界経済入門2023」。「グローバルサウス」と呼ばれる新興国、途上国が世界経済の中で発言力を強めている実情をまとめている。

グローバルサウスの代弁者として、新しい世界秩序の構築をもくろんでいるのが、中国とインドの2大国だという。グローバルサウスにとって、喫緊の課題はエネルギーと食糧価格の高騰だ。

グローバルサウスの国々は、一国の主権を侵害するロシアの行為を容認していないが、世界最大級のエネルギー、肥料供給国であるロシアが世界経済から分断されることも望んでいない。そこで、ロシアと友好関係にあると同時に西側諸国にも影響力を及ぼすことが可能な中国とインドに新興国の期待が集まることになる、と指摘している。

同誌が国際通貨基金(IMF)の統計から作成した、購買力平価(PPP)で見た国内総生産(GDP)の世界トップ20のグラフを見ると、G7を押しのけて、新興国・途上国がトップ20に食い込む様子が一目瞭然に分かる。

PPPベースのGDPはより実体経済に近い指標とされ、22年では中国が米国を抜いて1位に、3位のインドは4位の日本を金額で倍近く引き離している。

アフリカには「一帯一路」構想を掲げる中国が進出。大規模な借款と複数のインフラプロジェクトを全土で進めている。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、食料や肥料、燃料価格高騰により、アフリカ各地で食料危機が発生。中国からの債務問題が浮上すると、政治的な危機につながりかねない。

その中国も、高成長を追い、膨大な借金で投資を続けてきたツケが出てきた。日本国際問題研究所客員研究員の津上俊哉氏は「表向きの安定は保たれるが、富の配分がゆがみ、成長は停滞するだろう」と見ている。

このほか、まもなく「新G7」中核国になるインドネシア、世界の再エネ輸出拠点になる中東諸国などと対照的に、インフレに苦しむ欧州諸国、ベンチャー起業ラッシュの韓国、経済制裁の効果が見られないロシアの現状をレポートしている。

最大の関心事である米国経済については、「金融不安は中小銀行に限定。景気は来年春先から回復へ」としながらも、国際政治の求心力低下は避けられないようだ。

ウクライナ戦争は、欧米・日本とロシア・中国のほかに、グローバルサウスという第三極が台頭する新たな局面を招いたようだ。(渡辺淳悦)