バイク選びで最後に迷うのがスペック比較。気に入ってる車種のライバルが1PS多かったり1kg軽いと、同じお金を出すのに負けてるほうにしなくても……と迷ってしまい、決断できずに困ってしまうのですが?

A.少しでも良いバイクを買いたい、そう思うのは当然ですよネ。ただこのスペック表に出ている数字というのは、目安にしかなりません。エンジンもスロットルを戻してから再び加速する中間加速の性能は表示されてませんし、車重に至ってはオイルや冷却水を抜いた走れない数値が表示されている場合もあります。大事なのは乗って満足できるか、扱いやすく楽しいか、だと思います。試乗されたり実車に触ってみてから決めましょう!

最高出力は全開のまま高回転域で瞬間に記録される数値……

エンジンが最高出力を計測している場面を見たことがありますか?
計測機械の上で、中速の回転域からスロットルを全開にして、ピークの高回転域まで回転上昇するのを待ちます。
そして一瞬の、まさに0.1秒もない瞬間に到達するピーク回転域で記録するのを確認直後、スロットルを戻すという操作で計測します。

もちろんこの絶対性能のパワーは、最高速度や0-400mの加速などを左右します。
ただ1PSの違いが最高速度で差をつけるかというと、そのピーク域の手前にある出力の上昇傾向によって風圧を押し切れるかどうかで、条件によっては1PS低いエンジンに負けるかも知れません。

また一般的にレースであろうと大事なのはスロットルを戻した後の、その回転域から駆動力が最大に発揮されるまでの力強さになります。
しかもコーナリング中であれば、リヤタイヤがグリップしやすい爆発間隔など、諸々が功を奏して脱出加速の優劣が決まります。

自分はレースをするわけではないので、そこまでの領域で走ることはないけれど、自分のバイクが他より優れた性能であれば、所有する満足度もあるのでこだわりたい……という気持ちはわかるのですが、プロが乗ればスペックの1PSの違いより数値にはなりにくい過渡特性という、パワーやトルクの質のほうで優劣をつけます。

もっと言うと、最大出力が稼ぎやすい4気筒より、グリップできる加速で上回る2気筒のほうが速かったりするのはよくあること。
スペックで絶対パワーが大きく表記されるのも評価のひとつかも知れませんが、目安のひとつに過ぎないというのが実態だと思います。

乾燥重量や装備重量、さらには燃料を半分搭載などスペック表記は様々

車重についても、取り回しのしやすさからリーンなど運動性の優劣をはかるスペックとして、見逃せないと思われているでしょう。
もちろんその見方は間違っていないのですが、ただ肝心の重量表記の規準が様々なため、一概に比較できないという実態があります。

たとえば乾燥重量と表記されている場合、燃料タンクは空にした状態なのは想像つくと思います。
しかし実は何をもって乾燥状態というかが曖昧で、エンジンオイルや冷却水も乾燥というからには含まれないとも解釈できます。
つまりエンジンオイルや冷却水が多いのは、高性能だからという理由があるけれど、それが「重さ」として判断されるのは回避したいという思いがメーカー側にあります。

’80年代のレーサーレプリカブームの真っ只中には、エンジンオイルや冷却水どころか乾燥というからにはバッテリー液も抜いて良い筈、などという解釈も出てきていました。
それほど1kgでも軽いほうがエライというか良いバイクと判断され、購入の動機を決定づけてしまうと日本メーカーが信じていたのは事実でした。

対して海外メーカーのツーリングバイクなどは、装備重量といってオイルや冷却水はもちろん、燃料も満タン状態で表記していました。
実際に走る状態でのスペックを、ユーザーに伝えようとする姿勢の違いが明確でした。
最近では燃料タンクが大容量な機種もあるため、半分搭載した状態と断り書きしたスペック表記もあります

さすがに近年はバッテリー液を抜くような具体性を欠いた考えは姿を消していますが、このスペック表記にある数値は運輸省へ届け出る数値と違って、どの規準で表記しなくてはならないというルールがありません。
メディアとしては統一規準が欲しいところですが「誤解されたくない」というメーカー側の思惑で、それぞれが「不利にならない」表記をご都合で選んでいるに近いといえます。

バイクは感覚性能な乗り物、乗って触って確かめたいのと、
惚れたバイクを買うのがイチバンだと思います!

’80年代のバイクブームでは、1PSでもライバルを上回ろうというエスカレートするいっぽうだった競争も、自主規制によって上限ができたことで沈静化したので、スペック表で比較されることがなくなった時期もありました。それでもゼロヨン(0~400mの加速競争)企画でトップをどのメーカーが取るか、そこに注目度が高まるとゼロヨンに特化したチューンの広報車も用意した異常事態もあって、通常のツーリング企画で借りてきたバイクがアイドリングできないほど不調で、調べたら点火プラグの熱価がレース用の高回転域専用が装着されていて、配車を間違えたので車輌を交換するといわれたり……もちろん、そんな事態はいま起きてはいません。

スポーツバイクは高性能であることも大きな魅力ですが、スペック表の数値は説明したように目安としての意味合いで解釈しておく程度に考えておくほうが無難だと思います。
絶対性能が試されるシーンは、どのバイクも一度もないまま過ぎていくでしょうし、開発で頑張ったエンジニアには甲斐のない言い方になってしまいますが、乗って楽しいをユーザーがどれだけ引き出せるか、そこが本来の価値であるのはいうまでもありません。

そういう意味で、欲しいと思ったバイクのライバルが、スペックで勝っている箇所をみつけたとしても、その違いを感じることはあり得ないといえます。
スペックの差などに躊躇せず、良いナと思ったバイクに乗るのがいちばんデス!

RIDE HI(オリジナルサイト)で読む