純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

写真拡大

老舗、ほど危ないものはない。たいてい世襲で、ろくにしつけもされていないポンコツボンボン。つまり、バイトテロや顧客テロをやらかすオバカ連中の同類。にもかかわらず、まわりがへいこらして、おべんちゃら。マスコミも天まで持ち上げ、目の利かない成金のアホたちが老舗というだけで、法外な価格でも飛びつく。そのうち、勘違いした従業員たちも、オーナーをまねて横柄高飛車になり、それがまた屈折した顧客たちを呼び寄せる。これ、やばくない? と思う従業員がいても、逆恨みが恐くて、もはやだれも本当のことが言えない。

問題を指摘した保健所に虚偽報告して改善措置を取らなかったほど、世間を嘗めてかかっていた不潔温泉旅館もさることながら、同じ旅館業だと、雇用調整金の大金詐取なんていうのも。ちょっと前は、爆走恫喝「くず餅」屋。もともとクズ粉なんか入ってない。数年も前の商品を「炊き直し」で売っていた佃煮屋。賞味期限偽装は、老舗のパン屋や菓子屋でも、あまりによくあること。伝統技芸、医療福祉や政治宗教でも、こんな話があちこちにある。

なんでこんなことになるのだろうか。第一に、ガバナンスが効いていない。世襲ポンコツボンボン(以下、SPBB)からすれば、自分はオーナーなのだから、遊んでいても「配当」を受け取る権利がある。きちんと経営するのは、番頭なり何なりの責任のはず。しかし、いまの時代、番頭以下も、しょせん雇われだから、改革などできようはずもなく、なんの改善もしないまま、ただ現状維持、というか、現状放置。かくして、上から下まで、まったくの無責任体質となる。(番頭がムリに改革しようとすると、早朝に本社前で撃ち殺されたりする。)

第二に、リスクマネジメントができていない。SPBBが度派手な外車で遊び歩いていても、だれも止めない。経営の実情もわかっていないくせに、マスコミや講演会に出たがり、気鋭の新興経営者たちと並んで、より上から目線で老舗の経営理念だの、伝統刷新だのを語りたがる。それどころか、先代からの古参年上の番頭や職人を疎ましく思って、同じように浅はかな同年代の「お友だち」を引き込み、さらには怪しげな占い師や霊能力者に入れ込み、ひっかきまわす。そして、SPBBは見栄っ張りだから、トラブルはすべて隠蔽が基本。しかし、その隠蔽がさらなるトラブルを引き起こし、そのツケの始末を回されるを嫌って、まともな人がだれもいなくなり、いよいよまわりは変な連中ばかりに。(そういえば、そんな総理もいたような。)

第三に、根本的に組織に内面性のモラリティが無い。老舗の知名度だけで、ほっておいてもアホな信者の客が押しかける。自分たちの長年の歴史と伝統からすれば、昨今できた行政の法律や規則なんぞ、知ったことじゃない。地元に長年のセレブ人脈もあるから、木っ端役人なんか相手にするまでもない。まして、客がクレームをつけても、自分たちの店のありがたさを理解できない客の方が悪い。二度と来るな! でおしまい。とにかく上から下まで「旧弊」のまま、ただ外形的にのみ、いままでどおりにやることだけを使命と自認。そのくせ、まあ、この程度は、で、その外形も、徐々にゆるゆるに。それが、積もり積もって、ある日、致命的な破断を起こすとも知らずに。

もちろん、世襲でも、代々、幼少からしかるべき帝王学を徹底的にしつけられ、高いモラリティと責任感を持って伝統の老舗を引き継いでいく家も、なかにはある。だが、それはまれだ。日本では昔から「売り家と唐様で書く三代目」と揶揄され、米国でも「三世代で裸一貫から裸一貫に(Shirtsleeves to shirtsleeves in three generations.)」、また、スコットランドでは「父が買い、息子が建てて、孫が売り、後の子孫はただの物乞い(The father buys, the son builds, the grandchild sells, and his son begs.)と言う。つまり、老舗没落は、世の定め、人の常。二代目はまだ初代の苦労を間近に見て、おのずから仕事に対する厳しい姿勢を学んでいるものの、自分もまた仕事の守成で手いっぱいで、子どもを教育しているヒマが無い。だから、SPBBにとってみれば、地位も名声も生まれながらに与えられた幸運。ほっておいても天からいくらでも降ってくる、くらいにしか、ありがたさがわかっていないから、失うのも早い。

つまり、老舗そのものにカリスマ性があっても、その中心がSPBBの代になると、見せかけだけで、中はからっぽになっていき、そのすきまに傲慢さばかりが肥大。にもかかわらず、SPBB本人は、実際の経営は番頭任せのくせに、こんな異常状態をリーダーシップや経営刷新と勘違いして、ますます増長。ふつうならこれで客離れを起こすのだが、本当の目利き上客が減っても、SPBBの同類のような成金と、その奴隷的追随庶民が、むしろ安物天ぷらの衣のように膨れ上がるから、逆にいよいよ外づらは成功しているように見えてしまう。

とはいえ、実際に評判は上がり、客は数だけは増えているのだから、SPBB本人は、自分のおかげで成功していると思っている。だから、そとからだれかが忠告したところで、聞く耳は持つまい。唯一の立直し方法は、実親の先代が、勘違いしているSPBBを経営から追い出すことなのだが、それも先代がまだ健在であればこそ。さもなければ、従業員も、顧客も、昔からのよしみなどという未練にとらわれず、腐って沈む船からは早く逃げ出す、直接の被害に遭う前に、そもそも近づかない、という方法しか身を守るすべはあるまい。