”薄毛”によるトレンディエンジェル斎藤さんの心の葛藤。AGAの原因と早期受診の重要性を学ぶ
男性であれば誰もが気になるであろう「薄毛」の問題。AGA治療が一般的になる一方で、薄毛に悩んでいなければ、詳しくは知らないという方が多いのではないでしょうか。AGA最大の原因は「遺伝」であり、全ての人がその素質を持っています。もし薄毛が気になり始めた時、あなたは適切な行動をとることができますか? 今回は、トレンディエンジェル 斎藤司さんの薄毛事情も踏まえ、AGA治療に重要なことについて、認定皮膚科専門医の増岡宏昭先生とともに考えていきます。
インタビュー:
斎藤司(お笑い芸人)
監修医師:
増岡宏昭(日本皮膚科学会、認定皮膚科専門医)
1996年東京大学医学部医学科卒業後、附属病院の皮膚科で6年ほど経験を重ねる。東京逓信病院、東京警察病院、東京専売病院などを経て、日比谷ヒフ科クリニック、やえす日本橋ヒフ科、蒲田グランデュオ皮膚科、品川駅前皮膚科など多数開院。
増岡先生
ご自身が薄毛かもしれないと自覚されたのは、いつ頃からですか?
斎藤さん
昨日ですかね(笑)すいません、嘘です。当時は楽天に勤めていた時なので、23歳ぐらいですね。トイレで鏡を見た時に、「あれ? こんなにおでこ広かったっけ?」って思って、手を洗おうとかがんだ瞬間に、頭頂部が薄くなっているなって自覚しましたね。
増岡先生
その後はどうしましたか?
斎藤さん
発毛専門店に体験施術を受けに行きました。その時は、まあ気持ちいいなとは思ったんですけど、最終的に2年で200万かかりますと言われて、そんな金額当時は払えなかったので、もうこれは治すのは無理だと諦めましたね。
増岡先生
その後の経過は、ちょっとずつ進行していきましたか?
斎藤さん
そうですね。
増岡先生
治療は、最初のモニターのみですか?
斎藤さん
はい。市販の育毛剤を使った時期もありましたが、毎日続かず、痒くなったりもしたので、その後は何もしない状態がずるずると続いていますね。
増岡先生
ご家族やご親族の方で、同じような方はいらっしゃいますか?
斎藤さん
年齢的なものもあるんでしょうけど、母方のおじいちゃんは、同じ感じでしたね。
増岡先生
お父様はいかがですか?
斎藤さん
そうですね。75歳なので多少はという感じですが、僕よりはあると思います。
増岡先生
これまでタバコは吸っていましたか?
斎藤さん
20歳の時に1~2年吸っていた時期はありましたが、それ以降はやめました。
増岡先生
お酒はどうですか?
斎藤さん
お酒はそんなに強くないので、一杯たしなむ程度ですね。
増岡先生
普段運動はされていますか?
斎藤さん
最近は子どもと散歩に行くのと、あとはダンスをする程度ですかね。
増岡先生
若い頃はどうでしたか?
斎藤さん
規則的ではないですがフットサルを月1~2回やっていました。学生時代は一応テニスをしていましたが、高校からは部活も辞めて、それ以降はやっていないですね。
増岡先生
睡眠の状態はどうですか?
斎藤さん
いびきが1番の悩みで、ちゃんと睡眠が取れていないと感じますね。8時間寝たとしても、8時間寝たと思えないくらい眠いというか。ちょっと頭が痛くなったりします。
増岡先生
若い頃はどうでしたか?
斎藤さん
中学校時代、修学旅行に行くという話をした時に、父親から「いびき、大丈夫か?」と言われていたので、その当時からあったのかもしれないですね。
増岡先生
薄毛に対する気持ちの変化についてお聞きします。最初の頃は、どうでしたか?
斎藤さん
23歳の頃は好きな子もいたので、純粋に「ヤバい」と思いましたね。僕は小学生の時から童顔で、可愛いキャラとして扱われてきたので、そんな自分がハゲ始めたという事実を飲み込めなかったですね。
増岡先生
ギャップで悩んだということですね。それはすぐに解消されましたか?
斎藤さん
200万が現実的な値段じゃなかったので、「もう無理だな」というのが正直な心境でした。仕事では、「すみません。ちょっと髪の毛、早退しちゃいました」みたいなネタにして心理的な部分を保っていた部分もありましたね。親父からは、「お前、ハゲちゃってんな!!」と面と向かって言われたこともあって、逆に楽になったことを覚えています。
増岡先生
芸人のネタとして使い始めたのは、いつぐらいからですか?
斎藤さん
25~26歳ぐらいです。ネタにしたほうが、当時はウケていました。
増岡先生
現在の心境はいかがですか?
斎藤さん
かつらを作ってもらったんですが、それを被ると僕自身も違和感がありますね。子どもへのサプライズで使うこともあるのですが、髪があることに対する違和感が僕以上にあるみたいで、その時は泣きますね。だから、このまま何もしないつもりです。
増岡先生
ありのままを受け入れるということですね。
斎藤さん
はい。逆に髪が生えたら困りますね。薄毛に悩んでいる方々からすると、真逆の価値観ですが、もう頼むから生やさないでっていう感じです。
斎藤さん
薄毛の最大の原因はなんですか?
増岡先生
最も頻度の多い薄毛であるAGA(男性型脱毛症)は、ジヒドロテストステロンというホルモンの増加が原因です。
斎藤さん
ジヒドロテストステロン? それはなんですか?
増岡先生
テストステロンという男性ホルモンがありますが、それが変換された悪玉の男性ホルモンです。
斎藤さん
ジヒドロテストステロンが増えると、どうなるのですか?
増岡先生
毛髪にはヘアサイクルがあります。健康なサイクルは成長期(2~6年)、退行期(2週間)、休止期(3~4ヶ月)とされており、それが保たれていれば、髪の毛は減ることはないです。ジヒドロテストステロンが増えるとヘアサイクルの成長期が短くなり、髪が生えても、太くなる前に抜けてしまいます。
斎藤さん
ジヒドロテストステロンが増える原因はなんですか?
増岡先生
喫煙や多量飲酒、ストレスの影響も受けますが、最大の原因は遺伝です。
斎藤さん
なるほど、才能ということですね(笑)母方のおじいちゃんから、隔世遺伝の影響を受けて薄毛になりやすいという話は有名だと思うのですが、それはどうなんですか?
増岡先生
テストステロンをジヒドロテストステロンに変換するのは、5αリダクターゼという酵素です。その酵素は全ての人が持っており、活性度が高いほどジヒドロテストステロンが増えます。重要なのは、その活性のしやすさは母親からも父親からも遺伝するということです。
斎藤さん
母親からも父親からも遺伝するんですね。
増岡先生
はい。もう一つ重要な点としては、毛根にある男性ホルモンを受け取る受容体の感受性は、母親からのみ遺伝する点であり、この感受性が高い方がハゲやすいと言われています。
斎藤さん
なるほど。だからそういう都市伝説が伝わっていくんですね。遺伝ということは、どうしようもないのでしょうか?
増岡先生
全てが遺伝する訳ではないです。ただし、リスクは高くなると言えますね。
斎藤さん
妻のお父さんが、私と同じような薄毛の状態なんですけど、息子は薄毛になる可能性が高いということですね?
増岡先生
可能性は高いと思いますね。斎藤さんを上回るかもしれないです。
斎藤さん
息子には、いつか自分を越えていって欲しいですからね。睡眠不足は、薄毛と関係ありますか?
増岡先生
人間は睡眠中に成長ホルモンを分泌しています。成長ホルモンは髪の成長にも関係しており、睡眠不足や睡眠の質の低下は、成長ホルモンの分泌不全を起こし、薄毛の原因となる可能性もありますね。
斎藤さん
土が固いと食物が育たないのと一緒で、頭皮が固い人は毛も生えづらいようなイメージがあります。頭皮の固さとジヒドロテストステロンの関係性は何かありますか?
増岡先生
頭皮の固さとジヒドロテストステロンの直接的な関係はありません。ただし、頭皮が固くなると、血行が悪くなります。血行が悪いと毛乳頭細胞に栄養が届かず、毛髪環境が悪化する可能性はありますね。
斎藤さん
頭皮が固くなるのを、自分で防ぐ方法はありますか? マッサージなどはどうでしょうか?
増岡先生
マッサージをすることで、多少は良くなると思いますね。
斎藤さん
薄毛で悩む人の年齢層が、下がってきていると思うのですが、どうですか?
増岡先生
若い方のAGAが増えている訳ではないと思います。AGAの治療について認知され始めたのが最近の話なので、治療を始める若い人が増えている可能性はありますね。
斎藤さん
昔から割合は変わっていないんですか?
増岡先生
そうですね。割合でいうと、20代で6%、30代が12%、40代だと32%がAGAであると言われています。
斎藤さん
私はその6%に入れたということですね? なんか嬉しいですね、特別な感じがします。
増岡先生
特別ですね。
斎藤さん
薄毛のパターンはどれくらいあるのでしょうか?
増岡先生
アルファベットのM字型、O字型、U字型の3つに分けられます。
斎藤さん
僕は、どのパターンに当てはまるのでしょうか?
増岡先生
M字型とO字型がくっつく手前だと思います。加えて薄毛は、ハミルトン・ノーウッド分類によって9つのタイプに分けることが出来ます。その診断では、Ⅴ型にあたると思います。最も薄毛が進行した段階がⅦ型になるので、その少し手前ということですね。
斎藤さん
なるほど。黒帯まではあと二段階あるわけですね。男性と女性の薄毛の違いは何かありますか?
増岡先生
女性ホルモンには、ヘアサイクルの成長期を長くする働きがあります。その為女性は、髪が長くなりやすいです。男性は髪を伸ばしたくても、ある程度のところで抜けてしまいますね。男性で髪が長い人は、女性ホルモンが多いということでしょうね。
斎藤さん
じゃあ女性ホルモンが多いほど、ハゲづらいということですか?
増岡先生
そうなりますね。女性の薄毛は、出産時や更年期など女性ホルモンの変動が激しくなる時期に起きやすいという特徴があります。
斎藤さん
男性ホルモンを減らして、女性ホルモンを増やすような方法はあるのでしょうか?
増岡先生
大豆製品に含まれるイソフラボンが、女性ホルモンを増やす効果があると言われています。
斎藤さん
それはすぐに出来ますね。耳よりな情報をありがとうございます。
斎藤さん
AGA治療の歴史について、教えていただけますか?
増岡先生
AGAの治療は大きく分けて、毛髪の環境を整える治療とAGAの進行を抑える治療、何かをつけて誤魔化す方法があります。
斎藤さん
なるほど。何をつけるんですか?
増岡先生
植毛術が有名ですかね。人工植毛もありますが、自分の後頭部の髪の毛を切り取って、植える方法もあります。最近では、眉毛と同じようにアートメイクを施す方法もありますね。
斎藤さん
毛髪の環境はどのように整えるのですか?
増岡先生
血行を改善する方法が有効です。1960年代には、アメリカでミノキシジルという血圧を下げる内服薬が、頭皮の血管も拡張することで薄毛にも効果があるということが分かりました。ミノキシジルの成分を外用薬としたものは、1980年代に出てきたとされています。
斎藤さん
AGAの進行を抑える治療についても、詳しく聞かせてください。
増岡先生
1992年、前立腺肥大の治療に使われていたフェナステリドという薬に、毛が生える効果があることが分かりました。これは、前立腺肥大の原因もジヒドロテストステロンであることの影響だと考えられています。フェナステリドはAGAの進行を抑える薬として1997年に商品化され、今でも治療薬として使われています。
斎藤さん
本来の治療に加えて、副作用が功を奏したということですね。AGA治療の最新の投薬などは、どういったものがありますか?
増岡先生
フェナステリドとデュダステリドが主な治療薬となります。ミノキシジルも効果があるとされていましたが、不整脈のリスクを上げることが分かり、皮膚科学会では推奨していないです。
斎藤さん
薬は飲めば絶対に生えてくるものなのでしょうか?
増岡先生
あくまでAGAの進行を抑えるのが主な作用です。実際の診療場面で80%以上の方は少し髪が生えてきますが、そこから生え続けることはなく、現状維持ということが多いです。
斎藤さん
少しとは、どのくらいですか?
増岡先生
AGAの進行状態によりますね。進行初期の方は、ほぼ正常の状態に戻ることもあります。進行している場合は、ちょっと生えたかなという程度ですね。
斎藤さん
じゃあ出来るだけ早く、治療することが大事なんですね。
増岡先生
その通りですね。AGAの最大の特徴が、一度発症すると進行して治らないということです。その為、発症したら早期に治療を開始して、進行を抑えることが重要ですね。
斎藤さん
じゃあ、受診のタイミングも早い方がいいですね。
増岡先生
はい。世間的にも受診しにくいと思いますが、少しでも気になるのであれば、できるだけ早く診断してもらうほうが良いです。診断が早ければ、早期に治療も開始できるので、結果的にAGAの進行を抑制することに繋がります。
斎藤さん
受診において、AGAクリニックと皮膚科の違いはあるのでしょうか?
増岡先生
円形脱毛症など、脱毛の原因は多数あるので、AGA以外の脱毛に関しては皮膚科を受診して下さい。AGAは厳密にいうと、病気ではないので保険外診療になります。皮膚科でも薬を処方することはありますが、積極的に治療を行なっているところは少ないと思います。
斎藤さん
AGA治療の費用面はどうでしょうか? 一般的な費用はどのくらいになりますか?
増岡先生
内服だけであれば、月に数千円から一万円程度でしょうか。毛髪環境を整える注射薬や、植毛などの付属治療を加えていくと、その分値段は上がります。
斎藤さん
なるほど。よく分かりました。治療を開始するにも、まずは早期に受診をして、診断を受けることが大事ということですね。
増岡先生
その通りですね。早期受診と正確な診断が最も重要です。
斎藤さん
薄毛隠しのスプレーなどは、頭皮に悪いんでしょうか?
増岡先生
毛穴の詰まりの原因となるので、あまり良くないですね。
斎藤さん
シャンプーを2回やることは、効果がありますか?
増岡先生
洗いすぎも良くないですね。皮脂は頭皮をガードする効果があるので、洗いすぎると皮脂がなくなり、肌が乾燥する原因となります。
斎藤さん
若い頃、髪がサラサラになることに憧れて、わざとリンスを洗い流さないようにしていたんですが、今考えると最悪なことをしていましたね。リンスの洗い残しも薄毛の原因になりますか?
増岡先生
毛穴が詰まるという意味では良くないですね。リンスとコンディショナーは、洗い流すタイミングにも注意してください。
斎藤さん
リンスとコンディショナーって、何が違うんですか?
増岡先生
リンスは髪の摩擦を防ぐために使用されます。それに対して、コンディショナーは髪に栄養を与える目的で使用されます。その為コンディショナーは、少し時間を置いてから洗い流す方がいいですね。
斎藤さん
その違いは授業でやったほうが良いですね。髪を染めるのはどうですか?
増岡先生
良くないですね。脱色は髪の毛を痛め、細くする原因にもなります。
斎藤さん
薄毛に対する食事の影響はありますか?
増岡先生
栄養は髪の成長にも重要です。髪の毛に重要な栄養素は、亜鉛やビタミンB6です。炭水化物やジャンクフードを食べ過ぎると、消化に亜鉛を使用する為、髪の毛に十分な栄養が回らず悪影響となる可能性もあります。良質なタンパク質も髪の成長に重要なので、しっかりと摂取して頂ければと思います。
斎藤さん
ワカメを食べると髪に良いと言われていますが、それはどうですか?
増岡先生
ワカメが髪の毛に良いという科学的な根拠は無いです。ただし、海藻類にはミネラルが多く含まれますので、総合的に体の健康には良いとは思いますね。
斎藤さん
ヘアケアに何か良い方法はありますか?
増岡先生
シャンプーについては、有効成分の入ったものを選び、自分の頭皮や髪質に合わせて選択することは重要だと思います。
斎藤さん
爪を立てて髪を洗うのもダメですかね?
増岡先生
そうですね。頭皮のマッサージ自体は良いことなので、傷つけない程度にマッサージして下さい。
斎藤さん
自分でAGAをセルフチェックする方法はありますか?
増岡先生
単純におでこが広い人もいると思うので、進行の度合いをチェックするのは大事だと思いますね。月日が経つにつれて進行する場合は、受診をおすすめします。AGAの素質自体は誰しもが持っています。AGAは、発症した後に進行することを覚えておいて、日々のチェックを心掛けて下さい。
斎藤さん
シンプルに目視が重要ということですね。
増岡先生
AGAの予兆として、生え際が弱々しくなるということがあるので、特に生え際はしっかり見て頂いたほうが良いですね。
編集部より
私たちの外見を左右する髪の毛は、遺伝や生活習慣の影響を受け、日々生まれ変わっています。「薄毛」の素質は、生まれた時から持っている可能性があり、毎日の何気ない行動にも注意が必要です。「薄毛」の予防には、生活習慣を改善し体内環境を整えることが重要です。そしてそれ以上に、生え際や髪質、頭皮の状態など、日々の変化に気づくことが何より大切なのだということを実感しました。AGAは一度発症すると、進行は止まりません。少しでも気になることがあれば、出来るだけ早く治療に繋げるためにも、早期受診を心がけましょう。