旅客機が飛ぶ雲海のセットにライトの「太陽」を設置する三池敏夫さん

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11月6日、東京・新宿で「体験しよう! みんなが知らない特撮映画の世界」という親子参加イベントが開催された(主催:ふれたび[株式会社 明光ネットワークジャパン] 企画協力:株式会社 バリュープラス)。
講師は、平成『ガメラ』三部作(1995〜1999)、『男たちの大和/YAMATO』(2005) 『ウルトラマンサーガ』(2012)『シン・ゴジラ』(2016)『シン・ウルトラマン』(2022)などで特殊美術を手がけてきた三池敏夫さん。小学1〜6年生が特撮現場に触れたイベントの様子と併せて、本イベントの主旨について三池さんにお話を伺った。

>>>綿が雲に!ライトが太陽に!三池敏夫さんが手がける特撮ワークショップの様子を見る(写真13点)

まず各テーブル上に置かれた綿の塊に、子供たちは興味津々。「重さはどれぐらいあるかな?」という三池さんの問いかけに、子供たちは「2キロ!」「3キロ!」とセリのように叫び、ひとりの男の子が「300グラム」と見事正解を出した。
この綿をちぎっていくことから作業は始まった。子供たちがガヤガヤと綿ほぐしに熱中している間、三池さんは壁面に貼られた大きな青い紙にチョークで雲を描いていく。綿をちぎり終わった子供たちも紙の下の部分に雲を追加した。

各テーブルを背景の壁に寄せると、その両端に木材を固定して、木材の間に上下2本のテグス(釣り糸)を張ってその間にちぎった綿を詰め込んでいく。残りの綿をテーブル上に敷き詰めると、小さな ”雲海” が誕生。その上に、ピアノ線によって吊られたミニチュアの旅客機を配置すると、雲の上を飛ぶ旅客機の風景が完成する。

テグスの間に埋めた綿はシートとテーブルの境界線を見事に隠し、室内灯を消し、片側からライトを当てると雲や機体の影によって立体感が生まれ、リアルさが増していく。

またライトの使い方で、雲海は様々な表情を見せる。オレンジ色のフィルターをかけると夕焼けの光景が生まれ、テーブル近くに設置すれば ”小さな太陽” に早変わり。

参加した子供たちはスマホ片手に、自分たちで作り上げた特撮セットを夢中で撮影。「雲をちぎるのが面白かった。飛行機が飛んでるように見えるのがすごかった」、「今度は街のミニチュアをやりたい」などと熱い感想を述べていた。

イベント終了後、三池さんにお話を伺った。

――本日はお疲れ様でした。このようなワークショップはこれまでも開催されているのでしょうか。

三池 はい。一般のお客さまに特撮のワークショップを開催したのは、10年前の『館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』が最初です。とはいえ、東京でやった時は講演が主体でした。

初心者ばかりで本格的な特撮の現場を体験してもらうことは難しいんですよ。『特撮博物館』が地方巡回することになった時、愛媛で「一般の方にも特撮を体験することができませんか」と相談を受け、2日間で朝から晩までかけてミニチュアセットを作ってもらいました。建物を作るのは2日あっても無理なので、ジオラマの立ち木をひとり1本作ることにしたのですが、それでも1日で終わらなかったという(笑)。

そこで熊本では手を変えて綿雲の特撮を体験してもらったら、これは短い時間内で、しかも幅広い年齢層で楽しめることがわかりました。それ以降のワークショップでは、この綿雲のセットを採用しています。

――CGなどのデジタル処理が主流となっている中、アナログな手法を扱うワークショップを開く意味は?

三池 『特撮博物館』をきっかけにして、ATAC(アニメ特撮アーカイブ機構)という組織が発足しました。1960年代生まれの人たちが中心となって、自分たちを楽しませてくれたアニメと特撮を日本文化として残していくために活動していて、自分も所属しています。現在は作品の途中生産物である台本や絵コンテ、特撮ではミニチュア造形物などの保存がメインになっていますが、それだけでは技術の伝承は難しいので、ワークショップを開こうということになったんです。

――手作業で特撮を生み出す醍醐味は、どんなところにあるでしょうか。

三池 臨場感、実在感は勿論のこと、立体感や遠近感を味わえることでしょうか。CGはモニターの中では立体かもしれないですけれど、あくまでバーチャル世界のもの。目の前にあって触れるということは、大きいと思います。

――このワークショップを通して、参加者にどんなことを伝えたいと考えていますか。

三池 CGが発展した今、ミニチュア特撮の出番は極めて少ない、というのが現実です。産業として、ミニチュア特撮が昔のように盛り返すことはないでしょう。
でも、一度それを失ってしまえば、それを元どおり再生させることは困難です。趣味の範囲で構わないし、自主映画でもどんどんやってほしい。どこかで今残されている技術の伝承だけはしていきたい、それが私の「願い」です。

数多くの技術者・職人によって生み出され、受け継がれてきたミニチュア特撮の技術。ワークショップを通してその遺産が受け継がれ、新たな特撮の芽が育っていくことを願うばかりだ。
▲自身のインタビュー本『三池敏夫の特撮秘聞録』を手にした三池さん。