吉田正尚の劇的アーチでオリックスが勝利。野田浩司が振り返る勝負の分かれ目「7回のヤクルトの攻撃で…」
日本シリーズ第5戦が京セラドームで行なわれ、オリックスが6対4でサヨナラ勝ち。通算2勝2敗1分けでタイにした。先制したのはヤクルト。初回にホセ・オスナがセンター前タイムリーを放つと、2回にはドミンゴ・サンタナがレフトにソロ本塁打を突き刺した。追いかけるオリックスは4回、8番・紅林弘太郎、9番・若月健矢の連続タイムリーで同点に。直後の5回、4番・吉田正尚がセンターにソロ本塁打を放って勝ち越した。
だがヤクルトは6回、9番・長岡秀樹、2番・青木宣親のタイムリーで2点を奪ってリードする。セットアッパーの清水昇が7回から2イニングを抑え、9回には守護神スコット・マクガフを投入したが、四球と内野安打に自身の悪送球が絡んで同点にされると、吉田に逆転2ランを浴びてサヨナラ負けを喫した。勝敗を分けたポイントはどこにあったのか。オリックス時代の1996年に日本一に輝いた野田浩司氏に聞いた。
日本シリーズ第5戦、サヨナラ本塁打を放ったオリックス・吉田正尚
オリックスは1点を追いかける9回、先頭打者の代打・安達了一選手がマクガフ投手からフォアボールを選びました。ピッチャーからすれば先頭打者へのフォアボールは動揺するし、逆に攻撃側はイケイケになります。これによって、もうひとり打者が出れば、4番の吉田選手まで回るという状況をつくりました。
そして1番の福田周平選手が送って一死2塁となり、続く西野真弘選手のピッチャー前への内野安打にマクガフ投手の悪送球が絡んで同点に。中川圭太が三振に倒れたあと、4番の吉田選手が見事なホームランで決着をつけました。
これまでの4試合と違ったのは、ヤクルトバッテリーが吉田選手に対して、全打席勝負してきたということです。試合の展開的にも、1打席目から勝負するような場面で吉田選手に回ってきました。
4戦目までを振り返ると、吉田選手は勝負を避けられる場面が多くありました。ランナーがいないところでもフォアボールが多く、4試合で2つの申告敬遠を含む7個の四球で歩かされています。ヤクルトバッテリーは勝負するにしても、インコースに厳しいボールを見せたら、あとは外角中心の攻めで焦らしていく。バットを振らせてもらえない状況が続き、4戦目までの吉田選手の状態はあまりいい感じではありませんでした。
それが第5戦は展開も手伝って、ヤクルトバッテリーが全打席で勝負にきて、インコースを厳しく攻めるボールもあまりなかった。そうして2対2の同点で迎えた5回、相手先発の山下輝投手が1ボールから投じた真ん中のストレートを仕留めました。これで吹っ切れたのでしょうね。
9回の打席では初球のストレートを見逃すと、2球目のスプリットをファーストスイングでホームランにしました。甘いところにきたら打ち損じせず、一発で仕留めるところはさすが吉田選手です。
この2本のホームランで吉田選手はかなり乗ってくると思います。6戦目以降はまた勝負を避けられる場面が多くなるかもしれないですが、オリックスとしては勝負せざるを得ない状況をつくれるかどうか。シリーズの楽しみがまたひとつ増えましたね。
第6戦の先発は?また"オリックスらしさ"が見えたのは、第4戦でイニングまたぎの好投を見せた宇田川優希投手と山粼颯一郎投手をベンチから外したことです。中継ぎ投手の層が厚く、シーズン中からいろんなピッチャーを使ってきました。なので、中嶋聡監督の決断にはそれほど驚かなかったですし、あえて外したことで継投に迷いがなかったですね。
もし5戦が負けたら終わり......という展開だったらふたりをベンチ入りされたかもしれないですが、彼らが欠けても十分に戦えるだけの中継ぎ陣が揃っています。とくに1戦目、2戦目で打たれた平野佳寿投手、阿部翔太投手が5戦目を無失点で切り抜けたことはものすごく大きかったですね。
対して、ヤクルトにとってはショックの大きい負けになりました。痛かったのは、7回一死2、3塁から追加点を奪えなかったことですね。あの場面、1点でも奪っていればヤクルトが勝つ可能性は高かったと思います。
言い換えれば、オリックスはよくあのピンチをしのぎ、8、9回はヤクルト打線を三者凡退で打ちとった。そういうところから、少しずつ流れがきたのかもしれません。
これで通算成績は2勝2敗1分けでタイになりました。去年に続いて両チームの力が拮抗し、すごい試合が続いています。
移動日をはさんで神宮で迎える第6戦。五分にしたオリックスとすれば、初戦で先発した山本由伸投手が投げられるかどうかですが、脇腹を痛めたので難しいかもしれません。その場合は山粼福也投手、もしくはほかの投手を立てて、宇田川投手と山粼颯一郎投手を早めにつぎ込む采配もあると思います。
一方のヤクルトはローテーションどおり、6戦目は小川泰弘、7戦目はサイスニードの先発が予想されます。第5戦をヤクルトが1点差で逃げ切っていたらかなり有利になっていましたが、土壇場でオリックスがひっくり返したことで、今シリーズの行方は本当にわからなくなりました。選手も日本シリーズの雰囲気に慣れてきたと思いますし、これまでと違った戦いが見られると思います。